第四話 バイト先にて 〜後編〜
「やっぱ、ありゃカップルですよね」
キッチンとホールの境目、料理が出されるデシャップに戻ると、木村さんに声をかける。
「友達って感じじゃないだろう」
そうだけど、兄弟かもしれないじゃないか。そう思った自分を少し滑稽に思いながらお通しとワイン、ワイングラスをトレンチに乗せる。
彼女の座るテーブルまで再び行くと、スーツの男がやたらと喋っていた。
「失礼します」
話に入るようにグラスを置きながら目の端に彼女の姿を捉える。
彼女は大学の学食にいるときより綺麗だった。上品に着こなす白くて細いニットの上着に銀色のネックレスは小さく輝いていた。
そして薬指にはめられたシルバーのリングが僕の胸に突き刺さった。
暇になればなるほど二人のテーブルが目に映る。スーツの男はほとんどの料理を綺麗に平らげ注文する時は力強く通る声で僕を呼んだ。彼女は時折薬指のリングに触れ、スーツ男の話を退屈そうに聞き、時々思い出したように笑った。
そう思いながらも、初めて見る彼女の笑顔に僕の心はざらついた。
彼女に対する観察はここで終えた。
あまりにも暇過ぎ、僕は早上がりとなった。彼女のことを気にしながら、ゆっくりと着替えるとそのまま外に出た。最後まで彼女と話すことなくも無かった。当然なのだけれど。陽樹に彼女のが来たことをメールでも入れようかと思ったけど、やめて携帯をポケットにしまう。
店を出ても雨はまだ降りつづけた。
ちたちたと降る雨は、僕の服を出来るだけやさしく触れていった。やさしく撫でた雨は服の上で広がり、色をわずかに濃くする。
人通りが少なくなった細い道に入ると、暗闇にぼんやりと滲んだ街頭が雨を照らした。スクーターにまたがり、メットもかぶらず、エンジンもかけず、そのまま雨に打たれた。服がぴったりと皮膚に吸い付くように身体を舐めた。
雨が少し強くなった。