最終話 すみれ
暗闇にぼんやりと光る店に入ると、発泡酒、少し高めのワイン、コルク抜きを買った。
レジに商品を置いて、財布からお金を出しながら携帯が鳴っていることに気がつく。
彼女からのメール。
―ありがとう―
彼女のメールに少し喜んだ。
けど、大事な何かを見落としている気がした。
不安になって急いで海へと向かう。
彼女はそこにいなかった。
電話をかけても圏外になる。
不安が高まる。
見渡しても彼女は見当たらない。
少し歩いた先に靴だけが綺麗に揃えてあった。
海との境界線にあったその靴は、二つより添いながら、それでもどこか悲しそうに。靴に近づくと、ゴリッとした感触が足元広がった。砂をすくってみるとそこにはダイヤの指輪だった。
彼女は海に向かった。
もしそうだとしたら彼女が幸せだといったのは嘘だったのだろうか。
それとも、幸せだから海へむかったのだろうか。
なぜ指輪を捨てたのだろうか。
彼女は死んだんだ。
そう思うと冷静になった。
指輪を手に取り眺めながら、流木に腰をかけると、買った発泡酒を開けて飲んだ。
二本ほど空けると気持ち良くなってきた。
ますます彼女が死んでしまったのだと思うと何故殺したのが自分でなかったのか腹が立った。
コルク抜きでワインの栓を抜きそのまま一口飲む。
渋くてアルコール独特の苦みの裏にほのかな甘さがあった。
指輪を口に含むとワインと一緒に飲みこんだ。
「結婚おめでとう。そして、さようなら」
僕は独り言をつぶやいて、彼女の靴のところまで歩み寄った。
海の前、ボトルを傾けると、赤いワインは海に広がった。
まるで血のように海を少しだけ赤く染めた。
空になったボトルを投げるとブーメランのようにぶんぶんと回りながら海に落ちる。
彼女は確かにいた。
ただ、その余韻だけを僕の心に残した。
いままで読んでいただいた方。
ありがとうございました。
これからもがんばって書いていこうと思います。