表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: ホタル
26/27

第二十六話 嘘

「貴方には感謝しているわ」

 感謝なんていらないのに。

「おれ、ずっと貴方のこと見てました。やっと貴方のこと好きだって気がついたのに」

「ありがとう」

 彼女は驚きもせず答える。

「しあわせですか?」

 これでいいんだ。自分に言い聞かす。

「たぶん、これが幸せっていうのかな。でも、これで安心して一日一日が送れる気がする」

 彼女は幸せになったんだ。

 だけどなぜだろうか、この幸せを壊したい感情は。

 この指輪さえなkれば。

 そう思った瞬間、指輪を口に入れていた。

「かまわないわ」

 彼女の声に我に返ると、その指輪を飲みこもうとしていた。

 そう気づいた瞬間、彼女の顔は近づき唇が触れたと思うと、舌が入ってきた。舌先に転がり込んだ指輪を彼女はそのまま取り出した。

 僕は彼女の首を優しく包んだ。

 白くて細い彼女の首は、触れただけ折れてしまいそうだった。

「死にたいって言っていたよね」

 そう言いながら彼女の顔は涙で霞んでいたけれど、確かに頷いていた。

「約束したわ」

 手に力を入れると、彼女は小さくうめき声をこぼした。

「駄目だね、私って。自分が幸せになった途端、約束忘れちゃって」

 小さく掠れた声で彼女は答える。涙は僕が首から搾りだしたように流れる。

 何故こんなことをしているのだろうか。

 何がために何を失おうというのだろうか。

 殺したいんじゃないのに、ただ消したいだけ。

 何を?

 違う。消したいのでもない。ただ悲しみから、そして苦しみから逃げ出したいだけ。

 僕の行動は。

 彼女の涙が僕の手の甲を刹那的に暖める。

「生きたいですか?」

 彼女は頷く。

 手から力が抜ける。

 いつの間にか足首まで海に浸かっていた。

「生きたいなら生きたいっていえよ」

 怒鳴りながらも、もう何に苛ついているのか解らなかった。

 ただ、彼女に触れることはもう出来ない気がした。

「ねえ」

 彼女が呼びかけた。細い声は消え入りそうなのに、どこか力強い。

「ごめん」 

 僕は先に謝る。

「いいの。私のほうこそ」

 そう言っていつも着けている銀のリングを指から抜き、

「私は今日これを捨てに来たの」

 そう言って舌に乗せた。

「海に捨てようと思ったけれど」

 彼女は指輪を乗せたままの舌を引っ込めて、飲みこんだ。

 咽が大きく揺れた。

「あなたに教わったわ」

 僕は頷く。

「どんな味がしましたか」

「ちょっと苦かったかな」

 おかしくなって笑った。

 笑って少し冷静になると、めでたい話なのに二人で悲しい顔をしていた。

「ちょっと待ってて」

 そう言って上着を彼女に被せ、急いで通りにあった酒屋に向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ