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  作者: ホタル
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第二十五話 海辺

 波際で止まった彼女に追いつくと彼女は口を開いた。

「きのう、彼に会ったわ」

 まるで電話の続きのように、でも今回は逃げることは出来ない。

「スーツ姿の」

 僕が言うと彼女は少し笑って、そうよ。と答えた。

「話したのですか」

「話したわ」

 黙って彼女の後ろ姿を眺める。

「私の父との関係、父への想い。これからのこと、死にたいと思っていたこと」

 息をつく

「彼はなんて」

 潮の匂いが鼻を通る。

「やっと言ってくれたって。そして、心配するなって」

 彼女の声は震えていた。

「よかったね」

 僕の声も震えていた。

 彼女は頷くと、指輪を取り出した。無造作に取り出された指輪は、月の光を反射させた。

 それだけで充分だった。

「おめでとうございます」

 涙が流れた。泣くなと思うほど、気持とは反対に涙がぽたぽたと落ちた。

「ありがとう」

 いつの間にか彼女から神秘性は消えていた。

 彼女も普通の人間なのだと思った。その裏でスーツ姿男の笑いが聞こえるようだった。

 で、お前はどうすんだ。

 陽樹の言葉がよみがえる。

 俺はどうすんだ?

 何のためにここまで来たんだろうか。

 彼女を目があう。

「死にたいって言っていたのに」

 勝手に口が動いた。

「おかげ様で生きようって思えるようになったわ」

「つまらない男だって言っていたのに」

「私に面白い男はもったいないわ」

 僕は彼女に近づく。

「ダイヤですか。綺麗ですね」

 彼女の手に触れる。

 あんなに遠かった彼女にやっと触れた気がした。絶望と一緒に。取り上げるように指輪を手にすると再び涙がこぼれた。

「大学はどうするんですか」

「たぶん辞めるわ」

 そんなことはどうでも良かった。何よりも早く彼女の背中は遠ざかっていくようだった。

 この指輪を海に捨てたい。

 捨てたら彼女はどうするだろうか。

 海を見ると波は微かに泡立ち、砂浜をなめる。潮風が少し冷たくなった。

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