第二十四話 どらいぶ
僕はそのまま一度家にかえるとシャワーを浴び、すぐに家の車に乗り込んだ。
免許は春にとったばかりで遠出は初めてだけれど、そんなことはどうでもよいことだった。
彼女の住んでいる中野まで、カーナビでは三十分と記されている。
待ち合わせのJR中野駅に近づくにつれ、少しずつ緊張してきた。彼女に会った瞬間僕はどういう顔をすればよいのだろうか。それが解ったところでその顔が出来るのだろうか。
彼女と海に行ってそれが一体なんだというのだろうか。
苛ついている自分に気が付くと、海まで行くのがバカらしく思えてきた。
でも、もしかしたら昨日彼氏と別れたのかもしれない。そう思うと気分が少し落ち着いた。
中野駅までの道のりは混んでいたけれど、時間が長いとは感じなかった。
駅の近くまで行くと彼女を見つけるのは容易かった。
ただ彼女の空間を探せばいいのだ。学校ほどではないが、こんな場所でもやはり彼女の周りは、というより彼女だけ世の中のスピードに取り残されているのではないだろうか。ふとそんな感じがした。
「おまたせ」
彼女は首を横に振って、微かな笑顔を見せた。それは僕にとってのただの切なさだった。
車の中では、二人ずっと黙っていた。
緊張感にいつの間にか慣れた僕は妙に落ち着いていた。東名高速のってもただ、咽が乾いたか訊いただけで後は黙ったままだった。
「別にいいんですけれども」
言葉が噴き出た。
「きのう」
彼女の視線を感じながら少しずつ続ける言葉は、何だかぽたぽたと落ちる涙のようだと思った。
だから僕はそこで言葉をとめた。
「もう少しでつきます」
本当はもう少し距離があったけれど、彼女は反論せず頷く。
カーナビの音が静かな車内に響く。それはまるで暗闇の道路に点々と光る外灯だった。高速を降りるころから暗くなり始めた月は、大きく顔を見せていた。
陽樹と行った小さな海に近づくほど暗闇は深くなる。
「つきました」
砂浜の前まで来てそう言うと彼女はお疲れ様、と一言残して車を出た。風が彼女の服と風をなびかせた。
エンジンを切り、鍵を抜くと少し距離を置いて彼女を追いかけた。ゆっくりと、保ちながら。
前回来たほど浜辺は汚れていなかった。
まるで彼女を迎える準備が出来ていたかのように波は穏やかで月は明るかった。