第十九話 友達
救えるはずない。
そこまで来て僕は彼女を救いたいと思っていたことに気がつく。陽樹に言ったらエゴだと言われるだろう。彼女の雰囲気に恐怖を感じ、戸惑った。
「彼氏はなんて言っているのですか」
救うのは自分じゃないことに気が付く。
「なんていうかな」
今度は何とか笑ってみせる。
「きらわれちゃうかな」
「だいじょうぶですよ。愛されているんですよね」
笑いながら励ます。陽樹だったらこの状態でどうしただろうか、僕の行動をなんていうだろうか。
そんなに心配なら携帯くらいきいておけばよかったのにな。そう言った陽樹の言葉を思い出す。
「携帯、訊いてもいいですか」
「いいわ」
そう言って取り出す携帯を受け取りながら、訊いてどうするんだと思った。
だけど必要なかったら消せばいいとも思った。
「じゃあ、俺帰りますね」
別に彼女に許可を得る必要もなかったが、断らないと帰ってはいけない気もした。
「ええ」
彼女はそう言って、文庫本に目を戻す。
遠ざかりながら彼女に手を振ろうと振り返ると、彼女は文庫本を一枚捲った。
暗闇にぼんやりと光る蛍光灯のように彼女はそこに存在した。
彼女にとっての僕という存在は何だろうか。僕にとって彼女の存在とは何だろうか。
ふわふわとした不安がうっすらと僕の周りにまとわりつく。
陽樹に電話をする。
「もしもし陽樹?」
「おう、じゅんか」
すぐに出た陽樹の声は騒々しい音で聞きずらかった。近くでコールをする声が聞こえる。
「サークルの飲み?」
「ちょっとまって」
質問に応えず、騒々しい音が遠ざかった。
「わりぃ、明日ライブでその前夜祭だって。ま、飲む理由はきっと何でもいいんじゃないか」
陽樹はそう言ってでかい声で笑う。
「そっか、急に連絡してごめん」
「なんかあったのか?お前から電話なんて珍しいじゃん」
「いや、ちょっと飲みたい気分だったから」
「そうか、お前もこっちに来るか」
「いや、いいよ今日は帰って寝ます」
「そうか」
電話を切り、他の友達を誘おうと思ったが、一緒に飲みに行きたいような友達が他にいなかった。
大学一年目にしてすでに友達がいないという事実が少し悲しかった。
僕は陽樹に言った通り家に帰ることにした。途中、陽樹からメールが入る。
―今度飲みいこうぜ―
陽樹のやさしさが身に染みた。