表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

小話シリーズ

黒霧

掲載日:2012/07/08

今回も短めです。前回、前々回と同じく誤字脱字報告、矛盾点の指摘や感想等は不要です。

 目の前に集中する。すると周囲の雑音が途絶えて感覚が私の全方位を把握した。そのまま集中し続けるとまるで世界がスローになっているようで、普段では間に合わない攻撃でもかわせるのだ。

 神経が研ぎ澄まされ相手の攻撃を紙一重でいとも簡単にかわす私は、周囲の人々には異端に見えたらしい。まあ、一般庶民にはそう見えるだろう。

 普通の人が集中してもそれなりの結果は生むが、私の場合は違う。集中というギフトを持っているからだ。これは、集中するとその事柄に対して能力が飛躍的に上がる。今の私は戦闘に集中しいているからして。

 あっけなく決闘が終わり集中を解くと、時間が緩やかに、普段と同じように刻み始めて周囲の雑音も耳に入ってくる。

 ざわざわと耳に煩い声が入りだした私は、刀を一振りすると鞘に戻す。

 ヒュンという音で周囲のざわめきが止まるのも気にも留めず、私は体を反転しその場を離れた。倒れた相手のことなどどうでもいい。その辺の人たちがどうにかするだろうから。

「おかえり、早かったね」

「めんどうだった」

「ふふ、まあそう言わずに。それが有名税というものなのだから」

「……ふう。私は望んでいないのだけど」

 日が落ちていく中、裏路地を抜けて奥へ奥へと進みスラムの奥一角に周りと大差ない古汚い家屋に向かう。私はいつものように無音歩みでその家屋、つまり現在いるオルガンスト国の拠点に戻ってきた。

 家の中に入ると相棒のアルヴスに迎えられ、なぐさめにもならない言葉を掛けられる。

 有名税。別に好きで有名になったわけではない。行動してきた結果《災厄の魔女》という二つ名が付いてしまっただけだ。誰かのせいも多分に含まれているが。

「アルヴスだって《軌跡の雷光》なんて名前が付いてるじゃないか」

「僕は受け入れてるけどね。でもまあ、いいじゃない。セリスのめんどうだって、その名のおかげで随分減ったし」

「本気じゃないよな? 殴るぞ」

「それこそ本気じゃないだろう?」

 苦笑いをしながら大げさに両手を挙げて肩をすくめるアルヴスに溜息で返した私は、椅子に腰掛けてテーブルに足を乗せるとアルヴスを見る。たしかに雷よりも速いアルヴスに当たるわけがないか。ふん。

「はいはい、その様子だと今はカモミールの気分かな。お茶請けにクッキーがあるよ」

「さすが私の相棒。で、どうだった」

「そうだね、カリウス公爵の影がこそこそしているようだよ。おおかた継承問題の対立相手、ロクシール第一王子の暗殺でもするつもりなんじゃないのかな」

 手際よく慣れた手つきでハーブティを入れて、クッキーといっしょにテーブルに出したアルヴスが目の前につきながらそう答える。

 私達はオルガンスト国に偵察に来ていた。この国との間に二つほど小国を挟んで向かいにイスマルク帝国、私達の国がある。

 その皇帝の手足と呼ばれる影、黒霧に属している私達は、普段は冒険者としてギルドに登録し本来の名を知られぬよう動いているのだ。

 私とアルヴス以外にあと三人いるのだが、いずれも皆特例として宰相クラスの権限が与えられている。まあその権限を使うことはほぼない。大体それ以前で片付いてしまうので。

「で、どうする?」

「うーん、僕はどっちでもいいかな。いずれにしてもいつかは……だしね」

「だな。公爵の方が簡単だが、王子だと民衆もついてきやすい。先見的には王子か?」

「セリスがそれでいいのなら」

「清廉潔白で王道中の王道、私としては苦手な相手だけど」

 クッキーを口に放り込んでハーブティで流し込むと、私は両足を床に下ろして立ち上がる。相手も決まったし、一眠りすることにしたのだ。

「じゃ、アルヴス後はよろしく」

「おおせのままに」

 すっと霞のようにその場から消えたアルヴスを見ながら、あと三時間は仮眠できそうだと寝室のベッドに潜りこむ。細かい現地の下準備はアルヴスに任せておけばいいのだ。

 数分せぬうちに眠った私は、夢を見ることもなく三時間後に目を覚ます。起き上がり寝室から居間へ行くとちょうどアルヴスが戻ってきたところだった。

「深夜〇時ジャストでいいよね」

「そうだな、誰にも覚られないのがいい。ダナジュラの毒でいいよな」

「そうだね、あの毒は僕らの国の研究院青霧でしか作られていないものだし、どこの国が死因を調べてもただの心臓発作にしかならない。毒の検出はできない特殊な作りだからね、今回のにはぴったりだだろうし」

「ああ、なら私は侵入準備でもするか」

「僕は仮眠でもしてるよ」

 そう言って寝室へと入っていったアルヴス。

 私は隠し収納庫から小瓶を取り出すと、太もものベルトに差していたナイフの刃を小瓶に入れる。小瓶の液体はナイフに付着してナイフを抜いたあとはすぐに乾いた。

「ナイフは一本でいいか」

 今回の対象は公爵だ。自己顕示欲の塊である邸に忍び込むのは簡単なのは知っている。今までにも何度も侵入しているからな。

 あそこの警備はざるで、護衛騎士とは名ばかりだ。かえって雇われ冒険者のほうが、それも裏のだが。そちらのほうが腕がいい。まあ、どちらにしても私達の存在はしられることはないが。

 公爵の邸の見取り図を頭の中で描き、ルートの確認を終える。

 深夜〇時に侵入するとして、今は夜一〇時。ここを出るのは三〇分前で十分間に合う。さて、あと一時間半は何をするか。

「ああ、たしか伝達があったな」

 キッチンの戸棚の隠し戸に閉まっておいた読んでいない伝達書を取り出すと、椅子に座り読むことにする。当然両足はテーブルの上だ。

 “セリス、アルヴス両名はこれを読んだ後速やかに戻られたし、尚、拠点は破棄せよ”

「あ? なんだこれは」

 この伝達はいつのだったか、一番新しいのだよな。届いた日付を思い返そうとするがいまひとつだ。

 アルヴスが何も言ってこなかったってことは、やつも読んでいなかったのだろう。

 そもそも、国へ戻るなんていつ振りだ? 半年以上は前だった気がする。これはどうしたものか、今更なのだし公爵殺ってからでもいいよな。とりあえずアルヴス起こすか。

「アルヴス、いいか」

「ん、なんだい」

「これ、いつのだったか覚えてるか」

 私は伝達書をベッドの上で体を起こしたアルヴスにひらりと投げる。

「これはたしか……五日前じゃないかな。セリスが足から受け取って、読まなくてもなんとかって言いながら戸棚へ閉まっていたのだね」

「わ、私か」

「うん、そうだね」

 読み終えたアルヴスがにこやかに笑いながら言う。これは、あれだな。少しまずい。顔が引き攣る中私は愛想笑をしてごまかした。

「ふう、まあ僕もその場で確認しなかったからね」

「悪い。で、どうする」

「どうって、戻るさ。おそらく今回のことに関係あることだろうし」

「ちっ、やっぱりそうなるか」

「そうなるね。セリス、いい加減諦めたら?」

 顔を歪めて舌打ちする私になだめてくるアルヴスを横目で睨むと、準備を始める。アルヴスも荷物を詰め始めた。

「言うまでもなく皆元気……だろうね」

「そうでないことを祈るやつが一人いるがな!」

「ははは、そう言わない。僕らが戻るのは七ヶ月ぶりかな、研究院にも顔出ししないとね」

「そうだな、新薬もあるだろう」

 さて、荷物はこんなものか。あとはこの廃屋ごと無くせばいいだけだ。破棄は決定なのだしどうせなら景気良くいったほうがいいか。

「じゃ、私がやる」

「いいけどセリス、派手にする気だろう」

「これで最後だ、飾ってやってもいいだろう?」

「どんなに飾っても廃屋は廃屋だけどね」

 拠点にしいていた廃屋の前に立つと私は魔法に集中した。今度の目標めがけて、そうだな業火で焼いてみるのもいいかもしれない。

「我求む、深淵を流れる業火よ湧き上がれ――ヘルファイア!」

「ああそうだ、中に爆弾仕掛けておいたのだけど、逃げたほうがいいかもしれないねセリス」

「あっ!? なんだとアルヴス! お前私がこうすることわかってたな!」

 既に遠くのほうに避難しているアルヴスに向かって文句を言うが、魔法はもう発動し廃屋を業火が襲っている。私も急いで離れなければ。

 数軒離れた家屋の屋根に飛び退りそのまま早駆けて私とアルヴスはオルガンスト国を後にした。

 私の業火とアルヴスの爆弾の相乗効果で、スラム一帯は消し飛んだらしいがまあ仕方ないだろう。

「アルヴスお前、私が伝達書確認しなかったの根に持って仕掛けただろ」

「やだな、僕はそんな小さいこと気にしないよ。ただセリスのことだから景気良く破棄したいだろうと思うだろうし、それを手伝っただけさ」

「いらんわ!」

 引き続き早駆けでイスマルク帝国へ向かっている私達。

「ふふ」

 突っ込んだ私をおかしそうに笑うアルヴスに心の内で仕返しを考え始めた私だったが、伝達書のこともあるし大目に見てやろうと寛大な心でもって忘れてやることにした。

「ああ! あそこは私名義で借りてたんじゃないか!」

「また《災厄の魔女》の名が上がったんじゃないかな。良かったねセリス」

「いいわけないだろうが!」

 口には出していないが前言撤回だ! アルヴスに仕返ししないと気がすまん。

 仕返し、仕返し……そうだな。ルヴィエラでも巻き込んでみるか。ははは、アルヴス泣きをみろ。お前の苦手なあの女が待っているぞ。

「ははははっ」

「……セリス、そんなになりきらなくてもいいんだよ」

 いきなり高笑いしだした私に若干引いたアルヴスだったが、そんなのは無視して私はイスマルク帝国へ戻るのが楽しみでしかたなかった。

「まあ、だいたい予想はつくけどね。なら僕は……うん、あれがいいかな」

 さ、小声でなにか呟いているアルヴスのことは置いて速度を上げるか。

 今の私はイスマルク帝国に着いてすぐ、アルヴスが既に察知して手をうっていたことなど知る由もない。この時もっとよく聞いていればよかったのだが、そんなことは今更だった。

 で、アルヴスが何をしたかだが、そんなことは口に出したくはないので想像に任せる。ヒントは私が元気でないことを祈っていたやつが関わっているということくらいか。内容までは言わん、これ以上思い出したくもない。

 しかもこれでこの手の応酬は一三八対一四六で私の負けが増えたということだ。

「アルヴスが相棒とか過去の私に忠告してやりたいぞ」

 くそ。

 私は過去の任命式で決めた相棒選択を考え直させたいと思った。天使のような笑みに騙されたのだ!



ここまで読んでくださった方、本当に有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ