序章:最終兵器ができるまで
性懲りもなく挑戦してみる。
異世界モノです。
主人公最強です。
最終兵器です
みなさまの暇潰しになれば幸いです。
そこは暗い研究室といった部屋だった。
その部屋の中央で初老の男がある作業に没頭していた。
男は生まれてからずっとこの機械大国オメガニアに仕えてきた。
ある時、国にその技術の腕を見込まれて、敵国の魔術皇国ゼシアに対抗するための様々な兵器を開発した。
そんなことを繰り返していると、いつしか兵器開発総責任者という兵器開発のトップに立ち、千年に一人の天才技術者と呼ばれるようになっていた。
そして数年前、ある命令が下された。
我々、人が築いてきたもの証である兵器。
最終兵器を開発せよと。
開発は全て彼に一任された。
そこでふと、彼は思った。
そういえば自分から何かを作ろうとしたことがないな、と。
生まれてこの方、ずっと兵器ばかり作らされて、自分で何かを作ろうとしたことがなかった。
開発は全て自分に一任されたのだ。
それは自分の思う通りのものを作れということだ。
男は決意した。
己の人生における最高傑作を作ろうと。
それは初めて己の意思で何かを作ろうと決めた瞬間だった。
そして男は自分の持てる人生で培った全ての技術をそれに注ぎ込んだ。
一切の自重をせずに。
そして開発を進めていくうちにそれに対して一つの感情が芽生えた。
愛情である。
初めて己の意思で作ったものだからだろう。
彼は独身だったので、それが我が子のように思えた。
他の兵器はどんなことに使われようとも構わなかった。
しかしこの子だけは使われるのが我慢ならなかった。
自分でもこの感情には驚いたものだった。
何かを作ることが初めて心の底から楽しく、そして嬉しいと思った。
この子の力はこの子だけのものだ。
もし仮にこの子を使う者が現れたとしても、それはこの子が自分の意思で認めた者でなければならない。
男はこの子に感情をつけることを決めた。
だが、それは難航した。
そもそも感情というものは心があって初めて生まれるのだ。
機械には感情というプログラムをつけてやればそれらしくなるが、プログラムはやはりプログラムでしかない。
彼は本物の感情を、心を欲した。
しかし元来、心は生物が持ち得るもの。
生物でない機械が心を得るのは自分の技術を持ってしても不可能だった。
そこで彼は魔術に希望をかけてみることにした。
魔術とは神から賜った神の御技であると言われてている。
とはいうものの基本的な魔術の原理は前に自分が解き明かしてしまったのだが。
その時は大層、国王に感謝されたの覚えている。
何せ神がいないことの証明の一つとなったのだから。
だか、そんな彼にも未だに原理が解明できない魔術があった。
それが神術である。
彼は魔術の一つである謎の多いその神術に一縷の望みを託したのだ。
しばらくして、その答えとなる神術の魔術書は見つかった。
ただ、取り寄せようにも無神主義であるオメガニアはそんな魔術を忌避しているので国内で魔術関連の物を扱うのは絶対禁止されていた。
しかし、そこは兵器開発総責任者という立場を利用し、あらゆるコネを駆使して何とかその魔術書を入手することに成功した。
魔術書に書かれた神術の名は転魂の法と言った。
効果は輪廻をめぐる魂を対象に定着させる、いわば転生させるといったものである。
そしてその代償は使用者の魂、つまり命だった。
「これでよし……」
そして今、ついに最後の調整が終わった。
目覚めたときは右も左もわからないだろうからデータベースのプログラムも組み込んでおいた。
これで知識方面は安心だろう。
命を捨てることに後悔はなかった。
たった一人の我が子のためなら命など惜しくもない。
それにどのみち自分は死ぬ。
魔術書を国内に持ち込んだことがバレたのだ。
いくらここが自分しか知らない秘密の研究室だとしても見つかるだろう。
国内への無断魔術持ち込みは重罪。
死刑は免れない。
今の自分には関係ないことだが。
この子の寝ている床に刻まれた転移の術式を二分後に自動起動するように設定する。
転移先は伏魔の森。
あそこなら人もよりつかない。
魔物が唯一の心配点だが、自分の技術の粋を集めて作った最高傑作の子だ。
大丈夫だろう。
魔術書を開いて、そこに書かれている発動するための呪文を読み上げていく。
唯一の心残りは時因子と空因子の因子制御盤を時間がなくて取りつけられなかったことだ。
概念因子は強力無比なのでつけてやりたかったのだが。
呪文を読み上げていくにつれて意識が薄れていく。
何とも味気のない人生だったが、最期は悪くなかった。
強く生きろ……………リーサル。
呪文を最後まで読み上げた瞬間、男はこの世を去った。
しばらく静寂が場を支配したが、研究室の扉が乱暴に開けられたことで破られた。
衛兵たちが研究室になだれ込む。
内一人の兵士が床に倒れ伏した男に気づき、近づいた。
「残念ながら死んでいるようです、陛下」
陛下と呼ばれた風格と威厳を身に纏った男が衛兵の中から現れる。
その男は死体と化した男を見おろす。
「魔術なんぞに頼るとは……。貴様も堕ちたものだな」
侮蔑を込めて、薄く笑う。
「陛下! こちらに転移の術式が!」
「また魔術か……」
心底嫌そうに唸る。
恐らくこれで最終兵器を逃がしたのだろう。
「……この場で勅命を言い渡す。これより最終兵器の捜索、捕縛を命ずる。各方面にこのことを速やかに伝達し、事に当たれ」
「はっ!!」
衛兵たちは直立で敬礼する。
陛下は身を翻して、去っていった。