海道周という男の子 -新たな未来を求めて 赤のクリスマス後-
由姫視点でまずは出会い編です。実は凄く重大な言葉を周は言っていたりもします。
「いい加減にして!」
始まりは私の大好きで、そして、当時は妬ましい姉である姉さんからの一言でした。そんな姉さんと遊ぼうとしていた私は精神集中をしていた姉さんを怒らせたのです。
怒った姉さんは当時の私からすれば見たことのない未知の顔でした。
「私はあなたと違うの! あなたは呑気に暮らしているけど、私は白百合を継がないといけないの! 才能が無いダメなあなたとは違うんだから!」
「おねえちゃん?」
「どっかに消えて! あんたなんか、大嫌いなんだから!!」
私は孤独でした。白百合の才能が無いからか一族の会合ではただ一人だけ廊下に置かれていました。ちょうど、一人でいるのが好きだったので耐えることは出来たんですけどね。
お父さんもお母さんも私に構ってくれなくて、ずっと、ずっと姉さんばかりを見ていました。今考えてみれば、姉さんは私と少ししか変わらないのにその才能の高さから様々な教育を叩き込まれていたんだと思います。
姉さんからすれば私は自由にいる妹。私からすれば両親に構ってもらえる妬ましい姉。そんな関係でした。
でも、長続きするわけがなく、姉さんは私に怒ったんです。ちょうど、両親が留守にしている最中に。
「私だって遊びたいのに、どうして由姫だけが遊べるの? 姉妹なのに由姫だけが。大嫌い。大嫌い大嫌い大嫌い! あんたなんて見たくないんだから! 出て行ってよ! あんたの味方なんて誰もいないんだから!」
私は姉さんみたいな教育は受けていないので姉さんが言った言葉の意味は理解出来ない部分がありました。でも、何となく、姉さんが言いたいことはわかったんです。
私はいらない存在だ。私は消えた方がいいって。
どうしてそう思ったかはわからないんですけど、当時の私はそう思いました。だから、私は家を出たんです。
靴を履いて、鍵を開けて、そして、外に。
その日はちょうど雪が降っていました。寒いとは思いましたけど、私はただ歩いていました。
どこに向かっていたかなんて覚えていません。でも、ただ歩いていたんです。知っている道から知らない道にまでずっと。最終的には迷いましたけどね。
疲れ果てた私の前に現れたのは小さな公園でした。今は無い公園ですけど、私はそこにあったベンチに腰掛けました。
今の私でも少し困惑しているんですが、当時の私はそこで自分自身について考えていたんです。五歳か六歳かそこら辺の子供が自分自身についてですよ?
私はいらない。消えた方がいい。一族の恥曝し。邪魔者。忌み子。
今まで言われた言葉が理解出来なくても頭の中に駆け回っていました。言ってくる大人達はみんな怒りながら言っていました。
私は何もしていないのに。私はただ座っているだけなのに。私はただ遊んでいただけなのに、誰かと一緒にいただけなのに。それなのに大人達は私をばい菌のように扱います。腫れ物のように扱います。だから、一人が好きでした。
何も言われないから。干渉されなければ平和に座っていられるから。
だから、私は長い間、一時間近くそこにいたんです。ふと、空を見上げると雪はだんだん強くなり、積もるのではないかと思えるくらいでした。
私は空から地面に視線を戻したそこには、同い年くらいの男の子がいつの間にか目の前にいました。その男の子を見た私は本当に驚いたんです。瞳に生気が無かったから。まるで、人形のようだったから。
男の子が私に向かって手を伸ばし、私はビクッと身をすくませて固まっていると、男の子は私の頭の上に積もった雪を払ってくれました。そして、男の子が着ていたジャンパーを男の子が脱いで私に渡してきたんです。
その時になって私はようやく体が冷えていることに気づきました。
「こんな寒空の中で、そんな薄着でいるなんて、バカなの?」
「だれ?」
「着なよ。僕は死んだ方がいい人間だからいいけど、バカでも風邪はひくだろ?」
いちいちバカを強調していましたけど、そんな意味もわからず、私はただジャンパーを着たんです。ジャンパーは不思議と暖かく、私は思わず涙を流してしまいました。
こんな経験は無かったから。
ずっと、ずっと姉さんばかりにみんながいたから、私には誰も話しかけてくれなくて、優しくしてくれなくて、誰も、そばにいなかったから。
「はぁ。これだから声はかけない方がいいと思ったのに。ここで野垂れ死んだらこいつの目覚めが最悪じゃないか」
すると、男の子は私の隣に座って私の手に毛糸の手袋をつけてくれました。
「死にたがりは僕で十分だ。僕は生きない方がいいけど、お前は生きた方がいい」
「ありが、とう」
「礼はいらない。僕は最後に僕がしたいようにやるだけだ。こんなことで償えたとは思えないけど」
「つぐな、えた?」
「こっちの話だ」
「こっちのはなし?」
「これだから子供は嫌いなんだ」
男の子は呆れたように頭を抱えてそう呟きました。その時に私は男の子の手にあった火傷の痕を見たんです。というより、包帯と包帯から出ていた痕ですけど。
「そこ」
「ああ。大丈夫だ。あの時は満身創痍だったけど、今は大丈夫。それよりも、お前は大丈夫か?」
「あたたかいよ」
「それは良かった」
男の子が私の頭を撫でてくれます。それは本当に嬉しくて嬉しくて、私は男の子の胸に飛び込んでいました。
本当に嬉しかったから。嬉しくて嬉しくて近くにいたいと思ったから。
「ったく。何で抱きつくのかね」
「うれしいから」
「うれしい? 優しくされたことがないのか?」
「やさしい?」
「これだから同い年くらいは。まあ、いいや。こういうことだよ」
そう言いながら男の子は私を抱き締めて、頭を撫でてくれます。暖かくて、優しくて。初めての経験だと感じたから。
「うん」
「うんって。はぁ、大丈夫だ」
男の子が優しく私に語りかけてきました。今から考えても納得できるんですけどね。
「僕の名前は海道周」
「かいどうしゅう?」
「そうだ。海道周だ。よくわからない内にここら辺に住むことになったから逃げて来た。また会ったら抱き締めてやるから。お前の名前は?」
「なまえ? しらゆりゆき」
その瞬間、男の子がビクッと震えたのがわかりました。そして、男の子は小さく溜め息をつきます。
「マジかよ。はぁ、不幸だ」
そして、離れようとする男の子を私は離さないようにさらに強く抱き締めました。男の子は一瞬だけ抗うように身をよじりましたが、すぐに諦めたように動きを止めました。
「今はいてやるよ。でも、これからはダメだ。オレは死んだ方がいい人間だから。だから、今の内だけ甘えておけ」
「うん」
男の子がゆっくり私の頭を撫でてくれる。だから、私はゆっくりと目を閉じました。
今まで忌避していた誰かと一緒にいることに私は安心して眠ってしまったんです。当時の私からすれば本当に驚くことでした。それくらいまで嬉しかったんです。
そんな幸せを感じていると私は身体が揺すられているのに気がつきました。目を覚ましたそこには、青ざめた姉さんの顔。
「おねえちゃん?」
「バカ! 何、人様に迷惑をかけてるのよ! 私の妹ならちゃんと迷惑をかけないようにしてよ」
今思えば姉さんは私を追い出したことが怖かったんだと思います。だから、それを紛らわすためにそう言ったのだと思います。でも、私は初めて、その時になって初めて姉さんに反抗したんです。
「わたしはおねえちゃんとはちがうからいいの!」
多分、怒っていたんだと思います。でも、初めて反抗されたおねえちゃんは一瞬だけ驚いた後、そして、手を上げました。叩くつもりだったのだと思います。でも、それはずっと隣にいてくれた男の子が受け止めてくれました。
「こらっ。姉妹なら仲良くしろよ。オレが勝手に関わったんだ。こいつは関係ない」
「関係ない? 由姫は私の妹なの! 由姫が何かしたら私にもとばっちりが来るんだから!」
「オレは迷惑とは思っていない。まあ、迷惑ならオレが消えるよ。だから、こいつは許してやってくれ」
「あっ」
立ち上がった男の子に私は思わず手を伸ばしました。でも、男の子はそれを避けるように動きました。
「また、な」
そう言いながら男の子は私から離れて行きます。残ったのは私と姉さんだけ。
すると、姉さんは怒ったように私の手を掴みました。
「帰るわよ! 私が怒られるんだから」
「うん」
私は男の子がいなくなった方向を見ていました。そして、小さく呟きました。ありがとうと。
家に帰ってしばらくしてから、私はまた出会うことになるんですけどね。その男の子と。
次は続き、ではなくお茶会パート2です。