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俺だけが、彼女のスキルの“最後の条件”を知らなかった

作者: 美波

彼女の回復は、いつも俺にだけ効きが良かった。


仲間が同時に傷ついていても、俺の痛みだけが、先に消える。


「相性、いいんだね」


そう言って笑う彼女に、俺は深く考えず頷いた。

都合のいい理由を、そのまま信じた。


彼女のスキル【祝福】は強力だが、制限が多い。

そう聞かされてはいたが、詳しい内容までは誰も知らなかった。


――知ろうともしなかった。


彼女は、いつも一歩後ろにいた。


前に出て戦うことはない。

それでも、誰よりも戦場を見ていた。


傷ついた仲間の名前を、一人も間違えずに呼ぶ人だった。


「大丈夫。まだ、立てるよ」


そう言いながら自分の顔色だけは、どんどん悪くなっていく。


俺は、それにも気づかないふりをしていた。


魔王討伐の日。


彼女は珍しく、俺の前に立った。

震える手を、胸の前で組んで。


「絶対に、生きて帰ってきてね」


その声は、祈るみたいに静かだった。


そして俺にだけ、祝福をかけた。


光が身体を包み、力が満ちる。

視界が澄み、恐怖が消える。


俺は迷わず、魔王を討った。


勝利の後。


歓声の中で彼女だけが、その場に崩れ落ちた。


「おい……?」


呼びかけても、返事はない。

回復も、祈りも、届かなかった。


そのとき初めて、胸の奥に嫌な予感が広がった。


後で、俺は知る。


彼女のスキル【祝福】は、“想いを向けた相手一人を、生涯守る代わりに、使用者の未来を削る”。


未来――

それは、時間であり、可能性であり、生き続けること。


俺は、愕然とした。


守られた理由も、優先されていた意味も、全部、あとから理解した。


「……それでも」


俺は彼女の手を握り、囁いた。


冷たいはずの指先は、かすかに、まだ温かい。


「君が守った未来を、俺が生きる」


それは誓いであり、懺悔だった。


その瞬間、微かな光が指先に灯った。


彼女の瞼が、わずかに動く。


「……ずるいよ」


かすれた声。


「一人で終わらせようとしたのに」


俺は、泣きそうに笑った。


「今度は、俺が守る番だ」


彼女は、弱く笑った。


その笑顔を、俺は二度と、見失わないと決めた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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