【幕間】正月だね、なんかあっけないね。
あけおめだね、みんな!ハッピーニューイヤー!! _(┐「ε:)_ウオオオオオ
今年もよろしくお願いします、新規さんもよろしくお願いします!
…Nice to meet youって使いやすいテンプレNo. 1な気がするんだけど、みんなはどう思う?
あーあ!
女の子が退屈そうにリビングのソファでくつろいでいる。その側には、夕食まで自身の髪をまとめあげてくれていたものが雑に放られていた。
「ハッピイ、ニューイヤア!…はぁ。」
女の子はため息をもらす。彼女の瞳には、1人の男が写っていた。
「どうした?新年早々、憂鬱になってよぉ。」
茶髪の男は不思議そうに、同じ髪色の女の子を覗き込む。まあ、男…と言っても、女の子と変わらない歳頃の男だ。
男が尋ねると、女の子はその身体をより沈めた。
「いや…ね。ハッピーニューイヤーいえど、コレを準備しているのは数刻前の話であって。年明けすぐのLINEトークと違って焦燥と喜びが皆無じゃない。」
女の子の言い分に、今度は男がため息を吐いた。
「あのな。ンなこと言ったら、他のイベントだって大層変わんないだろ。それに、LINEのあけおめスタンプなんかクリスマス前から用意されているんだぞ。」
「そういうことじゃない。」
男は至極まともなことを言ったつもりだったが、女の子の求める回答とは違っていたようだ。
「私はね、今のこのやり取りの記録こそ意味のないものだと言いたいの。」
【記録】という言葉が男の頭に引っかかった。
「記録?盗撮でもされているのか??」
男は純粋に疑問に思った。今、家の中にいるのは自分とその親と彼女だけである。そして、両親は年越し直前に寝落ちるという、前代未聞の大戦犯をしでかしていた。
男の疑問に女の子は一瞬だけ固まったが、バグが修正されるかのようにすぐさま柔かな笑みを浮かべた。
「ああ。そうだった。貴方に言ったところで何も解決しないんだった。」
女の子は納得したように頷くと身体を急激に起こした。そのお陰で、危うく男と衝突事故を起こすところだったが。
幸運なことに、男の身体能力は高かった。そのため、男は「うおっ」と声を上げて身を翻すだけで事なきを得た。
「何すんだよ!年明け最初の怪我がお前との接触事故なんて、冗談じゃねぇっ。」
男は少し怒った様に言うが、女の子の表情が死に面から真顔になっただけだった。
「怪我はそもそも記念するものではないよ?」
女の子は悪びれる様子がない。
「そりゃ、そーだけどさ。」
男は高鳴るフリをする心臓を落ち着かせる。
「ふぅ。あのな、確かに【HAPPY NEW YEAR】の瞬間は、現在の俺らにしか感じることの出来ない感覚がある。しかし、過去の俺らにしか感じられない感覚もある。」
「過去の私たちにしか感じられない感覚?」
女の子は復唱した。
「そうだ。」
男は肯定する。
男の返事に興味を示した女の子は、自身の髪が既に解き放たれていることを忘れて男に飛びついた。
「ホント!?教えて、教えて!」
女の子は子どもらしい、無邪気な声で男にねだった。
刹那、男は「(女の子の)胸が当たっていることは指摘しない方が良いかなぁ。」と考えていた。
しかし、「胸の感触って二の腕の感触と同じらしい」という謎知識も同時に思い出したことで「治療云々で二の腕程度なら既に触ってるし問題ないか!」と開き直った。
「過去の俺らにしか味わえない感覚。それは、【期待する】楽しみだ。」
男は女の子の髪をさりげなく整えた。
「【期待する】楽しみ…。」
女の子は再び復唱するが、先程とは違ってしみじみとした声をあげる。
「そう。例えば、正月祝いに過去の俺が予約投稿をしたとする。その時、俺は思うわけだ。『ああ、新年投稿する同士はどのくらいいるだろうか!』とね。」
男は愉快そうに言う。男は、うっかり女の子を締めつけないように力加減をしなければならなかった。今にも動き出しそうな男を見て、女の子はクスクスと笑う。
「おまけに『コンマ0秒に手動操作する馬鹿はいるかな?』とか考えてるんでしょ。それともアレかな。『結局、半年以上も待たせておいて本編がまだ入学式止まりなのはいたたまれない…。』とか?」
女の子は楽しくなってきたようだ。メタいジョークも入れてニヤけ面を晒している。
「だから、何の話をしているんだよ。頭がぐちゃぐちゃになるじゃないか。」
軽口を叩いてはいるが、男の口元も楽しそうに歪んでいる。
「ソウゾウの話よ。たとえ。楽しいでしょ?」
女の子は男の腕を掴んで男をソファへダイブさせた。衝撃でソファの歪みは大きくなった。
「楽しいねぇ。」
男は一言返事をした。
「それにしても…」
男は寝転んだまま、ソファの先を見つめた。視線の先には、彼の両親がいる。
「なんでだろう。何故、俺の両親は起きないのだろう…?」
男は先程とは打って変わった、色のない目をした。
「分かる。だって今、わざと音を立てて倒れたもの。それ以前に騒いでたけど。」
女の子も死んだ魚のような目に戻っている。
「あ。ゾロ目だ。」
男が無意識に呟く。彼は最近、時計を見るとゾロ目になることが多いのだとか。
はてさて。我々は、何故こんな生産性のないやりとりをしているのだろうか。しかし、考えてみればそこまでオカシイことではないのだ。年越しは、我々に年の区切れを教えてくれたに過ぎない。すなわち、認識の変化に人間各々が一喜一憂、または無関心を感じてしているだけということだ。
ああ、なんて、あっけない。
でも、
「あー!その様子だと、またヒトリガタリしてるわね!!」
女の子が怒ったように叫んだ。近くにいた男は、もれなくその叫びの犠牲となったことだろう。
「知ってるわよ。まだ私がお呼びじゃないってことぐらいわね。いいわ。でも、すぐにそっちに行くんだから。」
女の子は立ち上がった。いつのまにか、彼女のほどかれたはずの髪はひとつに束ねられている。
「ああ、なんだか、楽しみになってきちゃった!今年中に会えるといいな。」
女の子はソファの方を振り返ると目を丸くしたままの男にゆっくりと近づく。
「ね?信にぃ。」
佐々木はさらに目を丸くさせた。
そういや、初夢って見たことある人ー?
麦畑は…ない。




