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ハロー、麦畑だよ|( ̄3 ̄)|
久々に続き〜
一方、美術室前では。
「優香、どういうことなの?」
伊崎果南は友人である松下優香に震え声で聞いた。
「あの、その。これは…。」
松下はどうにか言い訳をしようとしているようだが、動揺から呂律が上手く回らない。菜子は軽く腕組みをして2人の動向を観察していた。
「あかりが、私抜きであなただけに用事?しかも演劇室に…。」
伊崎は相当ショックを受けていた。
「そういえば優香…。最近私抜きであかりと会ってたでしょ?私、見たんだから。」
「え?」
松下は伊崎を凝視した。
「見たって…。いつ?」
「ついこの前よ。私が野暮用で先に帰るって言った日。あの日、偶々先生に呼び止められて委員会の仕事を回されたのよ。それでもって、その仕事に時間を結構取られて。どうせ優香とあかりは先に帰ってると思ったから連絡はしなかったわ。」
伊崎の疑いはどんどん増していく。
「もしかして、あの時に何かあったんじゃないの?どうなの…優香。」
伊崎は松下を完全に疑っているようだ。
「え、あ、その…。あの…。」
松下は目が泳いでいるのを隠すように下を向いてしまった。
「…伊崎さん。落ち着いて。松下さんの話も聞いてあげましょう?これでは白黒が付けられないわ。」
しばらく沈黙していた菜子が伊崎を咎めた。疑うことは大事だが、一方の主張ばかり聞くのはフェアではない。物事を判断する時は、その事柄を多面的に見つめることが大切だからだ。
「伊崎さん。一応、貴方も疑われる立場にいますよ。別に貴方だけを疑っているわけではないわ。単に松下さんと同様、入学式の日に無断登校してまで学校に居た事実があるから疑っているんです。」
菜子は厳しく言い放つ。
「あ…。ごめん、優香。それと新入生ちゃん。私、焦っちゃって…。最低だよね、友達を疑うなんて。」
伊崎は2人に頭を下げた。
「気にしないで、果南。元はといえば、私の行動が怪しかったわけだし…。」
松下は申し訳なさそうに苦笑いをした。
「そうね。攻めすぎだったけれど、伊崎さんの主張自体はもっともよ。松下さん、まずはメールの件について聞かせていただけるかしら?」
菜子は松下に尋ねた。
「は、はい。でも、先に果南が見たっていう放課後の話をしても良いかな…?」
「ええ。」
「うん!全然良いよ。」
菜子と伊崎は松下の提案に合意した。
「ありがとう…。」
松下は目を閉じて、胸に手を当てて深呼吸をした。
「あの日…多分、2週間ぐらい前の話だと思う。私は放課後、果南とさよならを言った後にあかりと2人っきりで廊下で話をしたわ。果南が用事で早く帰るって聞いてチャンスだと思ったの。」
伊崎が言っていたこと…松下が放課後に雪本あかりに会っていたことは事実のようだ。
「チャンス?」
伊崎は不思議そうに聞いた。
「うん。本当は果南にだけは言っちゃいけなかったのだけれど、こうなった以上は仕方ないから言うわね。実は、明日は果南の誕生日なのよ。だから、果南に2人でサプライズしようって話になって…。」
なるほど。松下と雪本は伊崎の誕生日サプライズを計画していたらしい。春休み前からしていたということは、さぞ力の入ったサプライズだったことだろう。だからこそ、伊崎には隠し通さなければならなかったのだ。
「丁度主要イベントも終わった頃だったし。ただ、春休み明けはあかりの部活動関連で中々時間が取れなかったから焦ってたわ。そんな時にメールが送られてきたから、サプライズの用意で呼び出されたのかなって思って。」
松下の主張がひと通り終わった。
「そうだったの?優香…!」
伊崎は感激のあまり泣きそうであった。そして先程の罪悪感も相まって、その表情は崩壊しそうになっていた。
「事情は分かったわ。メールはあくまでそのサプライズのことを暗喩していると思ったわけね。」
菜子は松下の主張を要約した。
演劇室は、雪本あかりの活動拠点のひとつ。暗幕もあり隠れて作業するにはもってこいの場所。伊崎の主張も彼女の主張も、そこそこ自然に感じる。
「それでは、御二方。立証をしていただけませんか。」
しかし菜子は、あくまで第3者を貫く。
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「ここは、作品を乾燥させるのに使ってる小スペースだよ。中学には無かったのかな?」
吉田さんが説明してくれる。
「そうですねー。俺の中学には無かったかもしれません。雑巾を窓枠に引っ掛けて干してたぐらい、だった気がします。」
俺流会話術その2【かもしれないっすね〜】!
「確か…。」「…だったかもしれない。」「…な気がする。」といった曖昧な表現を使うことで、いざ間違っていた時でも安心。汎用性の高い会話表現だ。
だって、いちいち過去の出来事をこと細やかに覚えてる人間なんていないだろ?特に、自分が関わってこなかった分野のことについては。僕の場合は、通ってた中学の美術室の構造程度なら余裕で覚えてる。だって、何かが起こった時に建物の構造が鍵になるケースってよくあるじゃないか。それは僕の興味の範疇に入る。
ちなみに、俺流会話術その1は【口調】だ。相手によって口調を変えるのが大事ってこと。社会的な地位の確立にも役立つし、キャラ付けもやりやすくなるから。
「そっかぁ。まあ、老朽化の心配もあるからわざわざ付け足さなくても良いよね。僕的にはあった方が嬉しいのだけど。」
吉田さんは残念そうに眉尻を下げた。ごめんな、吉田さん。実を言うと、俺の中学は美術室じゃなくて美術準備室にバルコニーがあるんだ…。
「あ、バルコニーに入ってみても良いよ。この窓をズラすと男子でも入りやすくなるんだ。」
吉田さんがバルコニーの窓をガコン、と外す。
「あ。あざっす。」
俺はバルコニーに入れてもらえた。入れたからといって自由に動き回れるわけではなかったが、むしろ少し狭く感じるこの空間が落ち着く気もする…。
「ところで、どうして君は美術室に?」
来たァ!待ちに待った突っ込みが入って、俺は嬉しいよ。
「それなんですがね、先輩。俺、さっき絵の具まみれになったばっかりなんですよ!」
俺は堂々と述べた。
「…絵の具塗れ?」
吉田さんが聞き返してきた。その時、彼の目が微かに動いたのを俺は見逃さなかった。
「そうなんです!聞いてくださいよぉ〜。」
俺は【泣きそうになっている後輩】になりきることにした。
「入学式の最中、列に並んでたら絵の具が降ってきたんです!酷いでしょう?お陰で気分がブルーになりました。」
近くの手すりに腕をかけ、布団の二つ折りのような姿勢になる。そして、しくしくと泣いているようなジョークを挟んで軽快な雰囲気で話しあげる。有原くんならまだしも、俺が真面目に話したら馬鹿馬鹿しいことこの上ない。
「あ、ああ…。それは、大変だ。血じゃなくて幸いだったね。」
「嫌だなぁ、先輩!流石に物騒ですよー。」
見なくとも分かる。吉田さんは動揺している。彼は絵の具騒動を知っていたのだろう。少なくとも、吉田さんは今回の事件に関連していることが窺える。その上で墓穴を掘ったのだから、もう逃れられない。
おめでとう、吉田さん。貴方は有原推理ショーの助演に選ばれました。
そろそろバトンタッチかな?
やっと有原くんのお時間がやってきそう。




