絶対百合守護神
―――――視界が開けると、そこは、まさしく異世界といった感じの場所だった。
中世ヨーロッパ風の、ラノベやRPGゲームなどでよくあるファンタジー世界だ。
「おお!なんかワクワクするね、琴葉!!」
「う、うん……。で、でも……」
今は、それよりも気になることがある。
「フフ……それは良かった」
「それは良かった、じゃないですよユーリ様!!私やユーリ様も異世界転生するなんて聞いてないです!」
「おや、そうだったのかい?てっきりメナちゃんは知っているものかと……」
「知りませんでしたよ……あまりに突然過ぎて困ります。ユーリ様には、女神としてのお仕事がありますし、私は女神になるために、もっと見習いとしての経験を積まなければいけないのですから……」
確かに唐突な話。
流石に申し訳ない気持ちがある。
「問題ないよ、メナちゃん。転生者のサポート役となっている間は、女神としての死者を導く仕事は免除される。さらに、もし転生者が世界を救い、復活を成し遂げた場合は、サポート役の女神見習いにもご褒美が与えられるのさ」
「えっ?ご、ご褒美とは??」
「見習い卒業さ。転生者が世界を救うのに貢献したとして、特例として女神への昇格が認められる」
「ええっ!??」
メナちゃんが驚きの声を上げる。
「ほ、本当ですか、ユーリ様!?」
「本当さ。私はそんな汚い嘘は吐かないよ」
「……分かりました。ユーリ様を信用します……!」
「それじゃあ、メナちゃんも気兼ねなく一緒に冒険できる、ってことですか?」
「はい。……なんだか、ご褒美に釣られて同行するようでお恥ずかしいですが……」
「そんなの気にしないよ!ね、琴葉!」
「うん!もちろん」
むしろ、私には復活という特典があるのに、その付き添いのメナちゃんには何もなかったら気が引ける。
「……あれ?それじゃあ、ユーリさんにとってのご褒美は?」
「ん?私かい?それはもちろん……ねぇ?」
ユーリさんがニヤニヤしながら私に目配せをしてくる。
「ユーリさん、言わなくていいです」
「言わなくていいですよ、ユーリ様」
「えっ?な、なんで??」
「フフフ……ま、『その時』までのお楽しみということにしておこうかな。よし、それじゃあ早速、魔物狩りにでも行こうか」
「えっ?も、もうですか!?」
「早く『てぇてぇパワー』がどんなものか見てみたいだろう?」
……いや、確かに気になるっちゃ気になるけどさ。
それを発動するために必要なものが問題なんだよなあ……。
「ですがユーリ様。この世界では、魔物討伐をするには冒険者登録をしなくてはいけませんよ。それに、後々魔王退治を目指すのであれば、まず初めに冒険者登録を行っておいた方が良いかと思われます」
「ああそうか。私としたことが、忘れていたよ」
「それじゃあ、まずは冒険者ギルドを目指しましょうか。……多分、この町のどこかにありますよね?」
「よーし!まずは冒険者ギルドを目指して探検だね!」
「―――――おねーさん達、ちょっといいかな~?」
突然、後ろから知らない男性の声が聞こえてきた。
振り返ると、まさしく異世界の住人といったような恰好の男四人が立っている。
「そこのお姉さん。いやぁ、めちゃくちゃ綺麗っすねぇ」
「む?私かい?」
「他にいないでしょ~。初めて見かけたけど、新人さんっすか?」
「いいや。これから冒険者登録に向かうところだよ」
「そりゃいいや!俺達もちょうど冒険者ギルドに行くところだったんすよ。案内してあげるんで一緒にどうっすか?」
「ふむ。いいのかい?」
「もちろんっすよ!」
「―――――こ、琴葉。これって……」
空音がそっと耳打ちしてくる。
「う、うん……」
……まずい。異世界に来て早々、怪しいナンパ師(?)に捕まっちゃった。
確かに、奇行が目立って気づかなかったけど、ユーリさんはかなりの美人だ。中身を知らない男が見れば、ナンパの対象になるのもうなずける。
「とても親切な方々ですね。私達、実は右も左も分からない状態でしたので助かります」
「ああ。それでは是非甘えさせてもらうとしようか」
「よっしゃ!」
メ、メナちゃんまで……!
そっか、ナンパっていう概念を知らないのか。
まずい。本格的にまずい。
「ちょ、やばいよ琴葉、どうする!?」
「どうするって言ったって……。本人の目の前で、『この人達ナンパ師です!』って言うのも無理あるし……」
「じゃあついていくの?」
「それは絶対やだ。あんなチャラ男、生理的にムリだし」
「私もだよ!だから、どうにか理由を見つけて―――――」
「君達も。彼女のお連れさんだよね?」
……!!男達の一人が話しかけてきた。
「あ、いや……そうですけど……」
「あれ?君もよく見たらめっちゃ可愛いじゃん!」
そう言って、男は空音の手を取る。
って、ちょっ、こいつ何して……!?
「や……離してください!」
「良いじゃん良いじゃん。これから同じ冒険者同士、仲良くしようよ!」
こ、こいつ!!!殺…………じゃなくて、引きはがさないと!!
「あっ、あの!嫌がってるので―――――」
……と、その瞬間。
「ウラッシャアアアアアアア!!!!!」
「ヘブッッッ!??」
横からユーリさんが思いっきりドロップキックをかまし、男を蹴り飛ばした。
「フーーーッ、フーーーッ…………」
「ア、アンタ何して――――グへッッッ!!?」
「ちょ、待っ――――ブフッッッ!??」
「ひっ―――――ゴヘッッッ!??」
そして、たちまち残りの男達をなぎ倒し、全員まとめてKOしてしまった。
「……ユ、ユーリさん……?」
「―――――はっ!??す、すまない……見苦しいところを見せてしまったね。私は、百合の間に挟まる男を見ると我慢がならないんだ」
「……そ、そういえば、一度それで部屋を半壊させたことがありましたね……」
「よく分からないけど、ありがとうユーリさん!助かったよ!」
「フフッ、例には及ばないさ。……これからは、この手で百合を守護ることが出来る。私の目が黒いうちは、何人たりとも間に挟ませはしない!だから安心したまえよ、琴葉君」
そう言って満足げに笑うユーリさんを、恐ろしいながらも、ちょっとだけ頼もしいと私は思ってしまった。




