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私が異世界転生?

「あの、これ……私の『人生手帳』じゃないですか……?」

「えっ!?」


私の言葉に、メナちゃんも私の横に来て本のタイトルを確認する。


「ほ、本当ですね……。琴葉さんの名前が入ってます。それに、この表紙のキャラクターも、よく見ると琴葉さんにそっくりです」

「ん??どういうことだい?」

「……えっと、さっきまでユーリさんが読んでたのは、百合ラノベじゃなくて私の人生手帳ってことですね……」

「なんだって?ということは、君が、この本の主人公の藍町琴葉なのかい?」


ユーリさんが目を見開きながら聞いてくる。


「ええ、まあ……はい」

「なんと……。つまり私が、内気な少女とその幼馴染の甘酸っぱい片思い百合ラノベだと思っていたのは、君の実話だった。という訳かい?」

「~~~っ…………!!まあ、その…………はい……」

「ほお……なるほどねえ…………」


いや恥ずすぎるって。何この拷問。


「全く……。普通間違えますか?」

「仕方ないじゃないか。表紙がそっくりなんだから」

「それもユーリ様のせいですよね!?」

「ハハハハ。まあ細かいことはいいじゃないか。それより、私が読んでいたのが琴葉君の人生手帳だったのなら……話は早いね」

「……まあそうですね。もう既に内容は把握済みという訳ですから。では、さっそく琴葉さんの行き先をご判断ください」

「うむ。もう決まった」

「えっ?も、もうですか?…………で、では、言い渡しの方をお願いします」

「うむ」


ユーリさんが、こっちを向いて爽やかな微笑みを見せてくる。


……え、ていうかもう?もう今から天国行きとか地獄行きとか言い渡されんの?

こんないきなり?ちょっと待って、まだ心の準備が…………


「藍町琴葉君。君の行き先は……異世界だ」


…………へ?


「!??ユーリ様!?」

「もちろん空音君も一緒にね。二人で異世界転生して、私にあの続きを見せてくれ」


…………はい??


え、今なんて???


「な……な……何を言ってるんですか!?」

「ん?どうしたんだい?異世界転生という仕組みがあるのはメナちゃんも知っているだろう?」

「いや……あるにはありますけど!でもあれって、元の世界で人類史に残るような活躍をした人間や、別の世界の危機を救えそうな見込みのある、人並み外れた能力を持つ人間のための特別措置ですよね!?」

「うん。そうだね」

「その……琴葉さんには申し訳ないのですが、それほどまでの突出した人物であるようには…………」


気まずそうに私の顔を見てくるメナちゃんに、私もうんうんと縦にうなずいて返す。

いや、異世界転生ってのはちょっとしてみたい気持ちもあるけどさ。

話を聞く感じ、私には少しばかり荷が重いと思う。


というか、それよりも…………


「というか、それよりも!二人で異世界転生ってどういうことですか!?」


そう、それ。

空音と一緒に、って…………えっ。

それって…………。


「あの。もしかして、空音も死んじゃってるってことですか……?」

「いいや。生きてるよ。君が命がけで助けたおかげでね」

「……そ、そうですか……。良かったあ……」


私はほっとして安堵の息を漏らす。


「い、いや、それは良いことですけど!だったら余計に意味が分かりませんよ!まだ生きているのに異世界転生なんて!」

「あ……た、確かに……」

「なあに。転生、というのは言葉の綾でね。本当に命を生まれ変わらせるわけじゃないんだ。魂を別の世界に移動させるだけさ」

「は……そ、そんなこと……!か、仮に出来たとしてもですね。魂が別の世界に行っちゃったら、それは死んだも同然じゃないですか」

「ううん。魂の空いた肉体には、代役として別の魂を入れとくからそれも問題ない」

「代役……?」

「ああ。二人が異世界の魔王を倒して、無事琴葉君が復活するまでの代役さ」


……ん?復活??


「そ、それって生き返れるってことですか?私が元いた世界で……」

「正確には、死ぬ直前から人生を再びやり直せるってことだね。異世界転生した後、その世界を救うような素晴らしい活躍をした者にのみ与えられる特権さ」

「……じゃあ、魔王を退治することが復活するための条件ってことですか?」

「必ずしもそうではないがね。例えば君がいた世界に転生する場合だと、核戦争を止めるとか、人類滅亡クラスのとんでもない病気の治療法を見つけるとかかな」

「な、なるほど。人類をまるごと救うくらいの偉業ってことですね」

「イグザクトリー。それならば、剣と魔法の世界で魔王を倒す。これが一番分かりやすくて面白いだろう?」

「…………。は、はい。それはそうですけど……」

「ん?」

「わ、私にそんなこと出来ますかね……?」


私、ただの一般JKだし。体育の授業ですらまともに活躍できないし。

……それに、ぶっちゃけ魔物とか怖いし……。


「ふむ。安心したまえ、琴葉君。特殊な能力……いわゆる転生特典を、特別に、女神直々に授けてあげるからね。戦闘面での問題はないはずさ」

「お、おお……!あ、ありがとうございます!」


ユーリさん……いやユーリ様が、さっきまでとは違って本当に女神様に見えてきた。


「それでも、いつかはきっと一筋縄ではいかないような強敵も現れるだろう。でも大丈夫。君は一人じゃないのだから」

「……!はい!」

「ピンチはチャンス。同じ壁を乗り越えることで、二人の仲はさらに深まり、そしていずれは…………ふふ、ゔふふふふ……。今から楽しみだねえ……」


……やっぱりそんなことないかも。


「あの……水を差すようで申し訳ないのですが、大事なことを忘れてませんか?」

「??なんですか、メナさん?」

「事前に空音さんとも話し合わなければいけないでしょう。流石に無許可でいきなり魂を移動させるのは、流石にモラル的に問題があるでしょうし……」

「あ……確かにそうですね……。……そっか。確かに、空音が私と一緒に転生してくれるとは限らないですもんね……」


……そうか。空音には、私の他にもたくさん友達がいる。私はそのうちの一人にすぎない。

……今の暮らしを捨ててまで、私に付き合う義理なんてない。


「そして、その、今私達がいる場所から、空音さんがいる世界にコンタクトを取る方法はないんです……」

「え……!?じゃ、じゃあ事前に空音と話し合うことはできないってことですか?」

「はい……。ここと人間界の繋がりは、原則として人間界からの一方通行しかないので……」

「そ、そんな……」

「いや?できるよ」

「えっ??」


当然のことのように放たれたユーリさんの言葉に、メナちゃんが不思議そうな声を上げる。


「い、いや……こればかりは流石にユーリ様でも……」

「ふふふっ。百合を見るためなら、私に出来ないことはないよ。……ハッ!」


かっこいいのかそうでないのかよく分からないことを言いながら、ユーリさんは自身の足元に手をかざし、魔法陣を出現させた。


「わ……す、すごい……」

「これは……?一体なんの魔法陣なんですか?」

「ふふふ。まあ待ちたまえ、メナちゃん。琴葉君、この上に立ちたまえ」

「は、はい……!」


私は、初めて見た本物の魔法陣に興奮しながら、言われた通りに立つ。


「では、これから琴葉君を一時的に元の世界に戻すから、空音君と会って直接話をしてくるんだ」

「え……」

「も、元の世界に!?そんなことが可能なんですか!?」

「ああ。ただし、向こうにいれるのは長くて五分。それに、今の琴葉君は魂だけの存在だから、普通なら君の姿は向こうの世界の人間には見えないし、君の声も聞こえない」

「えっ……じゃ、じゃあどうすれば空音と話せるんですか……?」

「フフッ。それは…………」


それは……?


「…………愛の力で」

「いや、じゃあやっぱり無理なんじゃないですか」

「うるさいなメナちゃん!他に方法はないんだよ!」

「じゃあ軽々しく出来るとか言わないでくださいよ。ユーリ様のことだから、ほんとに何かすごい方法があるのかと思っちゃいました」

「元の世界に戻れるって聞いた時は驚いていたくせに……。……えー、こほん。琴葉君。まあそれくらいの試練は自力で乗り越えてみたまえ、ということさ」

「なんですかそれ……」

「あ、あはは。まあやれるだけ頑張ってみます」

「うむ。大丈夫、私は信じているよ。君達のラブパワーをね」


言いながら、ユーリさんがウインクをしてくる。


「それは知りませんけど……。あと、空音がいる前でそういうこと言うのはやめてくださいね」

「もちろん。君達の仲に干渉するような無粋な真似はしないさ」

「…………。分かりました……」


今はこの人を信じるしかない。

いまいち信用していいのか悪いのか分かんないけど。


「では、健闘を祈っているよ。―――――それっ!!」

「っ!?」


ユーリさんが手を上に振り上げると、その手が光り輝き、私は思わず目を閉じた。

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