再会
いや……流石にやり過ぎでしょ……。
「フフフ……まさかこれほどとはね。想像以上の溺愛っぷりじゃないか琴葉君」
「いや!いやいやいやいや!!ユーリさんの受け取り方が異常なだけですよね!?私のせいにしないでください!」
「……ま、今はそういうことにしといておこうかね」
言いながら、ユーリさんは満足気な顔をする。
くっそ……!腹立つこの顔……!!
「あの、これ……前にいる空音さんは大丈夫ですかね……?」
「…………あ」
そうだった……前に空音がいること忘れてた。
そもそも、好き好きなんたらビームがこれほどの威力とは思ってなかったんだけど。
……もしかして、ちょっとやばい……?
「ふむ。まあ大丈夫だとは思うが……琴葉君が、心配で心配でたまらないといった顔をしているからね。先を急ごうか」
「なっ!??い、いやそこまでではないですけどね!ないですけど先は急ぎましょう!」
「フフフフ……」
「ユーリ様、さっきから茶化しすぎですよ……」
……こうして私達は、空音を探して再び走り出した。
「————この抉られた地面に、ボロボロの壁……一体どこまで続いているんでしょうか……」
メナちゃんが、辺りを見回しながら言う。
「確かに、ずーっと続いてますね……終わりが見えないくらいです。……空音、一体どれくらい先の場所にいたんだろう。ほんとに大丈夫かな……」
「ふーむ……。確かに、そろそろ姿が見えてきても良さそうに思えるがね」
「…………。空音……」
「心配ですよね……。あの大きな魔物を、チリひとつ残さないくらい跡形もなく消し去ってしまうほどの威力でしたから。もし巻き込まれていたらと思うと……」
「はい……」
メナちゃんは、私の不安な気持ちに寄り添うように優しく話しかけてくれる。
「ンフフフ……。心配すること……それも愛だねぇ……フフ……」
……どっかの、自己満足を追い求めてばかりの女神様とは大違いの、本当の女神だ。
————それから私達は、およそ十分ほど走り続けた。
地面や壁の抉れは流石に無くなっているが、まだ空音の姿は見つからない。
「ハァ、ハァ……。さ、流石に疲れてきましたね……」
「え、ええ……。ユ、ユーリ様は平気でいらっしゃるのですか?」
「ああ。私は問題ないよ。栄養補給は十分させてもらったからね」
「ははっ……なんですかそれ」
くだらないけど、実際それで息一つ切らしていないのだからすごい。
――――と、その時。
遠くの方に、一際明るい一つの光が見えた。
「……ん?あそこ、何か光ってますよ!」
「このダンジョンの出口……でしょうか?」
「ふむ……」
血の気がサーッと引いていくのを感じた。
まだ空音を見つけてないのに。
もしかして、ほんとにさっきのビームに巻き込まれて―――――
「琴葉君、あれを見てみたまえ。何か人影のようなものがあるぞ!」
「えっ……!?」
ユーリさんに言われて顔を上げると、確かに光の場所に影がある。
顔や姿はよく見えないが、人数は四人。そのうち一人は地面に座り込んでいるようだった。
「あれ!?おーーーい!!琴葉ーーー!!!」
「!!」
その座りこんでいる人影は、両手を大きく振りながら、聞き覚えのある声で私達の方へ向かって叫ぶ。
「あ……よ、よかった……」
「ンフフ。よかったねぇ」
隣でニヤついてる人をスルーしながら、次第にはっきり見えるようになってきた向こうの人影の正体を見る。
座り込んでいるのが空音。
そしてその後ろに、いかにも異世界人といったような、ファンタジーモノのキャラクターみたいな服装をした三人の女性が立っている。
「おーーーい!!ことはーーー!!!」
空音が立ち上がり、こっちに向かって走ってくる。
……無事で良かった。
ちゃんと、何事も無く元気そうに走って…………
「ことはーーーーー!!!」
……ん?
もう、すぐ目の前まで来ているというのに、空音はいっこうにスピードを緩めようとしない。
「え。ちょ、待っ―――――ぐえっ!!!」
空音に思いっきり飛びつかれて、私は地面に勢いよく倒れ、その上からさらに空音が覆いかぶさる。
「オ、オオ……!!」
「い……いっっったぁ…………。ちょ、ちょっと空音……!いきなり何すんのよ……!?」
「……ごめん琴葉。それにみんなも……私だけ一人で勝手に逃げるなんて……」
「えっ??あ、ああ、いいわよそんなの。空音の虫嫌いは昔からだし。……どっちかというと、今頭を強打した件について謝罪してほしいんだけど……」
「あ、あっはは……ごめん、琴葉達が無事だったのが嬉しくてつい……。でも、みんな無事でほんとによかったよ。私一人だけ逃げて、それでみんながやられちゃってたらって思ってさぁ……」
「え?……なに空音、私達のことそんなに心配してたの?」
「そりゃあそうでしょ……」
空音が少しうつむきながら言う。
「ふふっ。心配していたのはお互い様だったようですね」
「ちょっ、ちょっとメナちゃん……!」
「あ……!す、すみません」
「ほう。メナちゃんもとうとう百合の良さに気づい」
「違います」
メナちゃんは、ユーリさんを遮ってきっぱりと否定する。
「えっ、琴葉も私のこと心配してくれてたの?」
「ま、まあ……少しだけね?……て、ていうか空音……」
「うん??なに?」
「……あの……そろそろ離れてくれない?……その。目線が気になるし……」
「え?」
私のアイコンタクトを受け、空音は後ろを振り返って見る。
……すると、そこには。
「「「…………」」」
私達は何を見せられているんだ、と言わんばかりの困惑した顔でこっちを見ている、三人の女冒険者の皆さんがいた。




