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破壊のラブビーム

「はっ……!はっ……!空音ってば、一体どこまで行っちゃったの……!?」


私達は、走りながら前方の暗闇の中に空音を探す。


「後ろ姿すら見えないねぇ……。琴葉君、空音君はどこか別の道へ逸れて行ってしまったのではないかい?」

「いえ……!それは無いと思います……!虫を見た恐怖で正気を失ってああなったと思うので、ずっと真っ直ぐ一心不乱に走ってるはず……!」

「そ、そんなにあの魔物の姿がショックだったんでしょうか。……それにしても、あの魔物もしつこいですね……」

言いながら、メナちゃんは後ろを振り返る。


あれからしばらく全速力で走り続けているが、ムカデ魔物は全く諦める様子もなく追いかけてきているのだ。


「ええ。昔から、虫が出た時は私の後ろに隠れてブルブル震えて、『琴葉なんとかして〜』って泣きついてくるんです」

「ふふっ、あの明るくてアクティブな空音さんからは想像できませんね」


私が笑いながら言うと、メナちゃんも微笑みながら返してくれる。

……その様子を見て、《《あの人》》が。


「なるほど……そういう所も好きなんだよね?」

「はい、いつもと違うギャップがまた可愛くて…………っ!??」

「ムッフフフ!そうかそうか……」


…………嵌められた。

自然な会話の流れで気づかなかった……。

顔が熱い。恥ずかしすぎる。


「ムフフフフ……」

ユーリさんは満足そうにニマニマしている。

しばきたい、この笑顔。


「ユーリ様。女神様ともあろうお方がそんな姑息な真似をしないでください。……というか、琴葉さんも結構あっさり引っ掛かりましたね……」

「は、はい……。すみません…………ん?」

「??どうしました?」

「なんか体が軽くなってきたような……?」

「?」


————と、その時。


『てぇてぇレベル130!!』


指輪から声がした。


「え!?こ、これって……!」

「む?『てぇてぇパワー』が発動したようだね」

「で、ですがユーリ様。あれは琴葉さん達二人が揃わなければ使えない能力なのでは……?」

「必ずしもそうとは限らないさ。私が『てぇてぇ』と感じればよいのだから、琴葉君の惚気話を聞いただけでも発動したのだろうね」

「のろ……!?そ、そんなんじゃないです!」

「ムフフフフ……」


……ていうか、流石にガバガバ過ぎるでしょ。

そんなんでいいんならさぁ……。いや、まあそれでいけるなら別にいいんだけど。


「……理屈はよく分かりませんが、琴葉さん!能力が切れないうちに、あの魔物を……!」

「あっ、そうですね。よし……」


…………。


私は、走りながらのまま、首だけを後ろへ向けてムカデ魔物の姿を目視すると、スッとそのまま前へ向き直した。


「琴葉さん?どうしたんですか?」

「……いや、やっぱり素手はちょっと……」

「ふむ。確かに、一般JKである琴葉君には、戦闘経験的にいきなり素手は厳しいか……」


いや、どっちかというと精神的に厳しいんですけど……。


「よし琴葉君、ならば魔法だ。ここは剣と魔法の世界。遠距離攻撃も可能さ!」

「え?ま、魔法??」

「さあ放つがいい!最強の攻撃魔法、『ハイパー好き好きラブ♡ピュアビーム』を!」

「は、はい!?な、なんなんですかその恥ずかしすぎる技は!?」

「琴葉さん、真に受けちゃダメですよ。どうせ適当に言ってるだけです」

「ん。おっとぉ……。メナちゃんの私に対する信頼は地に落ちてしまっているようだね……」


メナちゃんの冷めた物言いに、ユーリさんは少し肩を落とす。

……うん、まあ……。残念ながら当然だと思う。


「しかしだね、琴葉君。愛の力の前に不可能は無いのさ。それ故に、愛の結晶であるてぇてぇパワーにも不可能は無いのだよ」

「は、はあ……。じゃあ、どうやって撃てばいいのか教えてもらえますか?」

「……ラブパワーさ」

ユーリさんが開き直ったような笑顔で言う。


……ちょっとでも信じようとした自分がバカだった。


「はい、期待して損しました」

「はぁ……。前から思っていましたが、ユーリ様って転生関連のことについてはかなり適当なところがありますよね」

「仕方ないじゃないか!『てぇてぇパワー』だって、思いつきで作った即興の能力なんだから!私だって細かいことは知らないよ!」


え、もうはっきり言っちゃったよこの人。

そんな得体の知れない力でこれから戦っていくの嫌なんですけど……。


「し、知らないって……。女神様がそんな無責任でいいんですか?本来転生者をナビゲートする立場であるにも関わらず、そんな適当な……」

「とにかく!!やるっきゃないんだ、琴葉君!大丈夫、愛さえあればなんでもできる!!」

「…………」


お説教を勢いで誤魔化され、メナちゃんは無言のジト目でユーリさんを見つめる。


「ていうかそもそも、愛って言っても私が一方的に———」


————と、その時。


「グルアアアッ!!!」


「「「!??」」」


ずっと後ろを追いかけて来ていたムカデ魔物が、天井を伝って正面に回り込んで来た。


「グルルル……!」

「わ……!?」

「ま、回り込んで来るなんて……!」

「追いかけっこには飽き飽き、といった様子だねぇ。意を決して戦うしかないぞ、琴葉君!」

「……そ、そうですね……。で、でも……」


————と、次の瞬間。


「グオオオオッッッ!!!」

「「「!!!」」」


魔物が口元の牙を剥き出しにし、勢いよく飛びかかってきた。


「ひっ!?」

「琴葉君!!撃て!!!」

「……っ!!は、ははは『ハイパー好き好きラブ♡ピュアビーーーム』!!!!!」


私がヤケクソになって叫びながら、人差し指を魔物に向けて突き出すと、その直後。

「どわっ!??」

凄まじい轟音と共に、視界を覆い尽くすほど巨大な閃光がその指先から放たれた。


そのあまりの眩しさに思わず目を瞑ると、瞼の裏がチカチカ光る。


「オオオオッ!??オオ…………—————」


ビームの轟音の中でも聞こえるほど大きく、魔物は雄叫びを上げた。

そして、ビームはその後数秒ほど続くと、ゆっくりと細くなっていき、静かに消えていった。


「————ゴホッ、ゴホッ……!な、なんですか今の……!?」


土埃の中、メナちゃんが咳払いをしながら言う。


「フフ……ま、まさかこれほどとはね……ゴッホゴッホ!!」

「ま、魔物はどうなったんで……ゴッホ!!ゴホッゴッホ!!!」


全員が咳き込んでまともに喋れない中、土埃が少しずつ落ち着き、視界が晴れてきた。


————すると、そこには。


「…………え」


……魔物の姿は影も形もなく、地面は抉られ、横の壁面もボロボロになった衝撃的な光景が広がっていた。


「ええ…………」


そして、私はドン引きした。

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