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いざ、ダンジョンへ

―――――それからしばらくして。


浴槽の破片の片づけなどが終わり、ひと段落つくと、私達四人は再び冒険者ギルドに戻った。


「あの……すみません」

「はい?……ああ、先ほどの……どうなさいましたか?」

受付のお姉さんに話しかけると、業務的な笑顔を向けながら答えてくれる。


「あの、これ……。受けたいんですけど」

「クエストの引き受けですね。ええっと―――――ええっ!?」

私が、最上級魔物討伐クエストの紙を差し出すと、お姉さんは驚愕の表情になった。


「……これは……どうしてですか……?」

「ちょっと早急にお金が必要になっちゃって。まだ受けられますか?」

「…………あ、は、はい!もちろん可能ですよ!すぐに手配いたしますね!」

お姉さんは、困惑した表情をサッと切り替え、この人達の気が変わらないうちに、といったような勢いですぐにカウンターの奥へ入っていった。


……よし。

ひとまずクエストを受けることはできた。あとはクリアするだけ……だけど……。


「果たして大丈夫なのでしょうか……。お金のために仕方がないとはいえ、いきなりこんなクエストに挑むだなんて……」

「心配いらないよ。『てぇてぇ』の可能性は無限大さ」

「よーし!こうなったらやるっきゃない!だよね、琴葉!」

「……うん」

「そんなに心配なの?浮かない顔して」

「いや……よくよく考えたら、私達二人だけのせいでこうなったのに、ユーリさんとメナちゃんも巻き込んでいいのかな、って……」

「あ……そっか……」

「何を言うんだい?君達二人の全てを見届けることが、私の使命であり悲願でもあるのさ。どこまでだろうと付いていくよ」

「私も、皆さんの全てに付きそう覚悟で来ていますから。それに、一人だけ残るということになるのなら、そっちの方が遥かに嫌ですよ」

「……!ありがとうございます……!」


なんかユーリさんの最後の発言がちょっとだけ怖いけど。


「―――――お待たせいたしました。準備が整いましたので、こちらの方へどうぞ」

と、お姉さんが先導して歩き始める。

それに付いていくと、大きな扉の前で立ち止まった。


「こちらは特別ダンジョンクエストですので、転移用魔法陣を用いて一瞬でダンジョンへ出向くことができます。この扉の奥に入りますと、即座に転移魔法が発動しますが……。もう挑まれますか?」


私は、みんなの顔を見て、全員がうなずくのを確認する。


「……お願いします」

「かしこまりました。では、どうぞ」

お姉さんが扉を開けてくれる。

中には、紫色の大きな魔法陣が部屋の床全体に描かれていた。


「ご武運を祈ります。行ってらっしゃいませ」

全員が部屋の中に入り終わると、お姉さんが扉を閉めた。


……その直後。

私の視界は真っ白に包まれた。



◆◇◆◇



「————ん……」


視界が開けると、私は妙に薄暗い謎の細道にいた。

光はほとんどなく、すぐ先は暗闇になっているような、見通しがとても悪い細道だ。


「うわぁ、いかにもって感じ……。今にも魔物が飛び出してきそう……」

「琴葉、大丈夫大丈夫!もし魔物が出てきても、この力でパパっとやっつけちゃえばいいんだから!」

「うむ、その意気だぞ空音君。琴葉君も、安心したまえ。私が授けた力……そしてそれに加えて私自身もついているのだ。何も心配はいらないよ」


ユーリさんが、私にニコっと笑いかけながら言う。

……いや、むしろその二つが私の心配している点なんですけど……。


―――――と、その時。


「グルルル…………!!」


「「「「!!」」」」

奥の方の暗闇から、不気味な唸り声と、ズルズルと何かを引きずるような音が聞こえてきた。


「えっ、え!?な、ななななに……!?」

「魔物……でしょうか」

「ふむ。さあ琴葉君、出番だぞ!早速『てぇてぇパワー』の力を見せる時だ!」

「ええっ!?そ、そんなこと言われても……」

「よぉし……!ほら琴葉、ハグしよ!」

「へっっ!??ちょ、な、何言って……!?」

「だって、力を発揮するためには私と琴葉の仲良しな所を見せなきゃいけないんでしょ??じゃあハグが一番手っ取り早いじゃん!昔よくやってたでしょ?」

「……そ、そうかもだけど……っ!!」

「はやくっ!琴葉君、はやくっ!!」

ユーリさんが口を手で押さえ、楽しそうにニヤニヤしながら言ってくる。


……もう、ほんとに黙っててほしい。


「ほら琴葉、なーに恥ずかしがってるのさ」

「いや、べ、別に恥ずかしがってるとかじゃ……!」

「んほぉ……!いいねぇいいねぇ……」

「ユーリ様、女神としての威厳を失うような言動は控えてください……」

メナちゃんがため息混じりの声で言う。


……ていうか、これもう能力発動の条件満たしてんじゃないの??


「――――グルルル……!グルルルル……!!」


「!!ま、魔物の姿が見えてきました……!あれは……ムカデ……?虫系の魔物でしょうか」

「えっっ!??」

虫、という言葉を聞いた途端、空音の顔が一気に青ざめる。


……あ。虫……ってことは。

まずい……!


「あ……ああ……」

「そ、空音!落ち着いて!!」

「??二人とも、どうしたんだい?」


「―――――グルアアッッ!!!!!」

その時、暗闇から、巨大なムカデの魔物が飛び出してきた!


「いやぁぁぁぁぁーーーっっ!!!!!」


「「!?」」

空音は、その魔物の姿を目にした瞬間、こっちの鼓膜が破れそうなほど大きな悲鳴を上げ、一目散に走り出した。


「そ、空音さん!??」

「ま、待って空音!ちょっと!」

私の言葉にも見向きもせず、空音はひたすらに走り続け、どんどん背中が小さくなっていく。


「琴葉さん、こ、これは一体……?」

「そ、空音は昔から虫が大の苦手で……!ただでさえ無理なのに、あんな大きなサイズのムカデを見てしまったので、思わず逃げ出してしまったんだと思います!」

「ふむ……なるほどね」

「空音さんがそこまでの虫嫌いだったというのは、少し意外ですね……」

「まあ、虫とか平気そうな感じに見えますもんね。……ああ、空音の後ろ姿、もう見えなくなって―――――」


「グオオオッッ!!!」


「琴葉君、危ない!!」

「えっ」


私は、ユーリさんに襟の後ろを引っ張られ、間一髪で魔物を攻撃を躱す。


「……あ、ありがとうございます……」

「ふむ……。空音君は後で追いかけるとして、ひとまず私達だけでこいつを片付けるとしよう。『てぇてぇパワー』なら楽の勝さ。琴葉君、頼んだぞ」

「…………わ、分かりました……。頑張ってみます……!」


よし……!じゃあ―――――ん?


……いや、ちょっと待って??


「グオオオッッッ!!!」

「うわっ!?」


私は、ムカデ魔物の攻撃を間一髪かわす。


「どうしたんですか、琴葉さん!?早くあの能力を……!!」

「あ、あの……『てぇてぇパワー』って、私一人だけだと使えなくないですか?」

「…………あ」

ユーリさんがハッとした表情になる。


「そうか……。確かに、二人のてぇてぇ姿を私が見なければ、その能力は発動しないね」

「な!?そ、それじゃあ……!?」

「…………。逃げるんだよォ〜〜〜ッッ!!」

「「!??」」


突然走りだしたユーリさんを慌てて追いかける形で、私達は、魔物に背を向けて猛ダッシュで逃げ出した。

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