「てぇてぇ」inお風呂場
「…………」
ササっと頭を洗い流し、私はシャワー室を出た。
「お疲れ様です!いかがでしたか?」
「…………」
「コトハさん?……その、あまり気に入りませんでしたか……?」
「えっ?あ、ああごめんなさい!ちょっとボーっとしちゃって……!とっても気持ちよかったです!流石最新機器って感じで!」
「……!!そうですか……!ありがとうございます!あっ、タオルをどうぞ!」
「あっ、ありがとうございます……」
フユさんから長方形のフェイスタオルを受け取る。
「では、あちらの浴場へどうぞ!ソラネさん達が待ってますよ!」
「……は、はい……」
……どうしよう。
空音と一緒にお風呂。何度か入ったことはあるけど……今となっては大昔の頃だ。
恋愛的な目で見るようになった今、空音と同じ湯舟に入るなんて………。
…………いや、落ち着け私。
大丈夫、ただ服を着ていないだけ。逆に何を恥ずかしがることがあるんだ。
私は、半ば無理やり自分に言い聞かせて、浴場へと繋がる扉を開けた。
「―――――あっ、琴葉!!遅いよもう!」
「っ!!……う、うん……。ごめん……」
私が浴場の中に入った瞬間、空音は湯舟から立ち上がった。
く……そ、そんな無防備に……!
ちょっとは羞恥心とか、ためらいとかそういうのは無いんか……!
「あぁ~~~……。いい心地だねぇメナちゃん……」
「そうですねぇ、ユーリ様ぁ……。体の芯からポカポカしてきます……」
「見て琴葉、広いでしょ!これが貸し切りだよ、貸し切り!!」
確かに、かなり広くて立派な浴槽。
空音達三人が入っていてもまだかなり余裕があって、スーパー銭湯のそれと同じくらいの大きさだ。
「琴葉、ボケーっと突っ立ってないで早く入りなよ!」
「えっ?……あ、い、言われなくても入るわよ……!」
……よし、大丈夫。前はフユさんから貰ったタオルで隠せてる。
このまま行けば……。
「琴葉さん。タオルを湯舟につけるのはマナー違反だと聞きましたよ」
「へっ」
「あっ、そうだよ琴葉!異世界といえどマナーは同じだからね!」
「……あ、ああ、そうだった!うっかり忘れてた……!はは……」
くっ……いや、冷静に考えたらそりゃそうだ。
仕方ない……。
「……よい、しょ……」
「……?琴葉、なんで後ろ向きで入ってんの?」
「べ、別にいいでしょ。なんとなくよ」
「ふ~ん……」
……よし。
お湯の中に入ってしまえばもう大丈夫―――――ん?
空音がこっちをじーっと見ている。
何か良からぬことを考えている時の、ニヤニヤした顔で。
「……ことはぁ~」
「な、なに?」
「そんなに恥ずかしがらなくたっていいんだよ?《《小さい》》のを気にしてるのかもしれないけど、世の中にはそっちの方が好きって人もいるし」
「!??はっ、はあ!?ち、違うわよバカ!!そんな訳ないでしょ!」
「じゃあ立ち上がってみてよ」
「…………。やだ」
「ほらやっぱり!」
「違うってば!そ、空音よりはあるし!」
「ほーーーう??……それじゃあ見せてもらおうか!」
「ちょっ!?」
空音が飛び掛かってくるのを寸前でかわす。
「あっ、逃げないでよ琴葉!」
「そんなに気にすることじゃないでしょ!どうでもいいじゃんどっちの方が大きいかなんて!」
「いーや気にするね!どうでもよくない!」
くっ……!しまった……!
適当に流せばいいものを、つい反論しちゃったせいで面倒なことに……!
「―――――皆さん、お湯加減は…………って、えっと……?これは一体何をされてるんですか……?」
フユさんがドアから顔を出して聞いてくる。
けれど、今そっちの方を気にする余裕はない。
「お気になさらないでください。湯加減は、私にとってはちょうど良いです。ユーリ様はいかがですか?……ユーリ様?」
「ンフフフフ………ンフッ、エフッ………」
「…………。ご満悦、ですね…………って、あっ」
『てぇてぇレベル270!!!』
「えっ??」
突然指輪から声が聞こえ、私の意識がそっちに向いた。
その瞬間。
「隙ありーーーっ!!!」
「わっ、ちょっ……」
空音が思いっきり飛び掛かってきて、私の姿勢が前に崩れ…………
「「わああああ!!???」」
…………その勢いのまま、二人揃って前にずっこけた。
瞬間、ゴンッ!!という鈍い音と共に、額に硬い感触を感じる。
「ああっ!!だ、だだだ大丈夫ですか!??」
「ご、ごめん琴葉!!」
「うう…………ん?」
痛…………くない???
「ああーっ!!???」
その瞬間、フユさんが悲鳴を上げた。
「???」
「あ……!!こ、琴葉さん……!」
「なんと……」
な、なに?そんなにすごい血が出てるの?
痛すぎて逆に痛みを感じない的なやつ??
「こ、琴葉、それ……」
空音が私の方を指差す。…………いや、私じゃなくて、その後ろ……?
「……?何が―――――えっ」
後ろを振り返ると、浴槽の一部が粉々に砕かれ、そこからお湯が床に流れ落ちていく所が見えた。
…………えっ、と……これは……???
「ふむ……。琴葉君の激しい頭突きによるものだろうね」
「ちょっ……!?頭突きなんてしてないです!そ、空音がいきなり後ろから思いっきり飛び乗ってきたせいでしょ!?」
「うう……で、でもさあ!あんなに強く飛び掛かるつもりじゃなかったの!なんか勝手に力が溢れ出してきて、自分でも制御が効かなくなっちゃって……」
「か、勝手に力が溢れてくる、というのは……」
「うむ。『てぇてぇパワー』が発動したからだろうね。まさかこの非常に強固な浴槽にも負けないほどの硬さとは……」
「そ、そんなことを言っている場合ではありませんよユーリ様!」
「うう……。そ、そんな……」
「ご、ごめんなさいフユさん!!必ず弁償しますから!」
「いえ…………大元をたどれば私のミスから始まったことですから、皆さんに修理費を払わせるのでは申し訳が立ちません……」
「でも、流石にそういう訳にはいかないよ……」
「うん。…………ちなみに、それは幾らくらいになりそうなんですか?」
「…………少なくとも数百万Gは掛かるかと…………」
「「えっ!?」」
「流石にすぐには払えないので、当面の間は片側だけの浴場を使って、時間ごとに区切って男女兼用で使っていただくしかないですかね……」
「……それでは、かなりの損失を受けることになってしまいますね……」
「うむ。片側だけしか使えないのではね」
「……ど、どうしよう琴葉……」
「…………」
何も弁償せずにこのままっていうのは絶対にダメだ。
でも、流石に数百万Gは…………
「…………あ」
あった。
一気に1000万G手に入れる方法。
「……空音。それにメナちゃん、ユーリさん。こうなったら…………あのクエスト、受けてみよう」




