いざ……銭湯?
「ん?――――ひゃっ!?」
つ、冷た……!?な、なに!?なんか前が真っ白なんですけど……!?
「こ、琴葉さん!?大丈夫ですか!?……こ、これは……?」
「あっ、琴葉、顔拭いてあげるからじっとして」
「……ん。あ、ありがと空音」
「はい、なんかこんなん頭についてたよ」
「えっ?これ……コーン?」
「うん。琴葉、ソフトクリームまみれになっちゃってる」
「ええ!?こ、これ……」
口の周りを舐めてみると、確かに甘いバニラの味がする。
じゃ、じゃあ頭が冷たいのも……。でも、 なんで?
「君、大丈夫かい?ほら、立ちたまえ」
ユーリさんの声がする方を見ると、一人の女性が床にうつ伏せになっていた。
立ち上がると、ユーリさんよりは少し低いくらいの背になる。
「うう……あ、ありがとうございます……。……って、ああっ!!」
その女性は、私を見た瞬間、すぐさま駆け寄ってきて凄まじい勢いで頭を下げる。
「ご、ごごごごめんなさい!!!私が不注意で転んでしまったばっかりに、ソフトクリームを頭からぶっかけてしまいました!!」
「あ……こ、これ、あなたのなんですか?でも、なんで冒険者ギルドで……?」
「私、ここのソフトクリームが大好きで……!ほ、本当にごめんなさい!」
……?
「ここのソフトクリーム」??
「ふむ。どうやら、ここでは食べ物を売ったりもしているみたいだね」
「あっ、ほんとだ!なんかお肉料理みたいなの持ってる人もいる!あっちの人はポテトだ!」
「なるほど……。ここは、冒険者に向けた大衆食堂のような役割も担っている、という訳ですね」
「ああ、それでソフトクリームを持ってたのね……。そして、こけた勢いで放り投げてしまった、と……」
「ご、ごめんなさい……!私の不注意で……」
「大丈夫ですよ、そんなに謝らなくても。幸い、服には付いてないみたいだし」
「ですが、どうなさいますか琴葉さん?その頭、流石に洗った方がよろしいのでは……」
……確かに。
頭がベタベタして気持ち悪いし、クエストの前にどうしかしたい気持ちはある。
「あ……。それでしたら、うちの銭湯をお使いになってはいかかでしょうか……?も、もちろんお代は頂きませんので!」
「うちの銭湯?」
「は、はい!私、この町の銭湯を経営していまして……ここからすぐ近くの所にあるので、お詫びの印にぜひ……!ど、どうですか……?」
「おお!いいじゃん琴葉、お願いしたら?」
「……そうね。えっ……と……あなた、名前はなんていうんですか?」
「フ、フユと申します!」
「それじゃあフユさん、お言葉に甘えさせてもらってもいい?」
「は、はい、もちろんです!ご案内します!」
―――――こうして私達は、偶然出会った女の子と共に冒険者ギルドを後にした。
◆◇◆◇
「着きました!ここです!」
それから十分もかからないうちに、フユさんの案内で大衆浴場へ辿り着いた。
「おおー!凄い立派だね!」
「う、うん……!」
入口がちゃんと男女で分けられていて、横幅や奥行きからして中も結構な広さになっていそうな感じ。
異世界の銭湯だから、もっと簡易的なものかと思ってたけど……すごくちゃんとした銭湯だ。
「えへへ……ありがとうございます!では、早速中へどうぞ!」
フユさんが赤いのれんをくぐってドアを開けると、そこはまさしく日本の古き良き銭湯といった感じだった。
番台さんの座る高い椅子が男女の風呂の間にあって、木製のロッカー、そして奥にはお風呂場に繋がると思わしき透明な扉がある。
「今日はまだお店開けてないので、貸し切り状態ですよ!えっと、あちらの正面にある扉を入っていただくと、大きな湯舟があります!お三方はあちらへどうぞ!」
「我々も入ってよろしいのですか?」
「はっ、はい!もちろんです!」
「え!?やった、ありがとう!実は私も入ってみたいな~って思ってたんだ!」
「ふむ。風呂、というものには今まで無縁だったからね。興味があるよ」
「それは良かったです……!湯舟に入る前に、桶でお湯をすくって、体を流してから入ってくださいね!」
…………?
お三方、って言われたけど……。私は……?
「では、コトハさんは頭を流す必要があるので、こちらへどうぞ!」
「あっ、は、はい……」
部屋の右奥に進むフユさんに、私は不思議がりながら付いていく。
……すると、人が一人入れるくらいの小さな部屋があった。
「こちらが、ウチの自慢の最新機器、『シャワー』です!」
「えっ……!?」
ちょ、ちょっと待って、シャワーまであるの?
流石にオーバーテクノロジーすぎない??
「この天井からお湯が出てきて、一気に頭や体全体を洗い流せるんです!こちらの赤いボタンを押すと、上からお湯が出てきます!」
フユさんが扉を開けて見せてくれる。
「す……凄いですね……」
「王都の方から取り寄せた最新機器ですからね!非常に高価なものなので、まだ一台しか導入できていませんけど!」
「こ、これ……どうなってるんですか……?」
「すみません、仕組みは私にもよく分からなくって。天才発明家として有名な、『サトウ』という方が開発したらしいのですが……」
「……え」
サトウ……佐藤?
もしかして、私達の他にも転生者がいるの……?
「おーい、琴葉ー!!先入ってるよー!」
「えっ!?ちょっ……」
後ろから呼ばれて振り向くと、空音達はドアの向こうへ行ってしまった。
「……もう。せっかちなんだから……」
「ご、ごめんなさい!私が説明のために琴葉さんを引き離したせいで……!」
「ああいや、フユさんが謝ることないですよ!……それじゃあ、早速使わせてもらっちゃいますね」
「は、はい!どうぞ!」
―――――私はササっと服を脱ぐと、シャワー室に入った。
……まさか、異世界に来て早々お風呂に入ることになるとは……。
でも、この世界でも普通にシャワーが使えるのは嬉しい。
位置が固定されているからちょっとだけ使いづらいけど、全然許容範囲だし。
っと、のんびりしてる場合じゃないんだった。
早く空音達の所に行かないと…………
―――――ん?ちょっと待って。
お風呂……?
空音と……一緒に……!?




