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デブスな公女は愛を知る

作者: 下菊みこと

ソフィア・アガット。公爵家に産まれた可愛い末っ子長女。蝶よ花よと育てられた彼女は、しかし生来の優しさを失うことはなく、真っ直ぐ素直に育てられた。


性格も良く、成績も優秀。家柄も十分な彼女は、当然のように皇太子の婚約者に選ばれた。優秀な彼女は当然のように皇太子妃教育をこなしていく。誰もが彼女の未来は明るいと信じていた。


そんな彼女の唯一の欠点、それが彼女の運命を変えるとは知らずに。


「ソフィア様、どうされたのですか!?」


この国の貴族の子供の通う学園で、寮生活を送っていたソフィア。彼女が突然涙でぐちゃぐちゃになった顔で帰ってきたことで、彼女を愛する使用人達は騒然。すぐに彼女の父親である公爵が呼ばれた。


ソフィアの父、ガレット。彼は娘の涙におろおろとしながら、ハンカチを差し出す。ソフィアはそのハンカチで涙を拭うが、次から次へと涙が溢れて意味がなかった。


「ソフィア、どうした。何があった?」


「皇太子殿下が…」


「ああ」


「あんなデブスと結婚したくないと…陰口を」


「…何?」


ガレットはその言葉に耳を疑う。こんなに可愛らしいソフィアをデブスだと?と。


しかしながら、その言葉は事実だった。ソフィアを可愛い可愛いと可愛がるのは彼とソフィアの兄であるルイズ、使用人達くらいのもの。彼女はあまりにも肥え太っていた。母親譲りの元の美貌は、肉に埋もれて見る影もない。そしてソフィアはそれを悩んでいたが、どれだけダイエットしても効果がなかったのだ。


「お父様、どうか皇太子殿下との婚約の解消をお願いします。彼を縛り付けたくないのです」


「当たり前だ!この婚約は皇室から頼み込まれて結んだもの。それをこんな形で裏切るなど…目にものを見せてくれる!」


今すぐにでも皇室に喧嘩を売りに行きそうな父に、ソフィアは焦る。そんなことをさせるために帰ってきたわけではないのだ。


「待って、お父様!そんなことのために帰ってきたわけではないの!皇室に目にものを見せてくれるというなら、どうかそれは私に任せてください!」


「…どういうことだ?」


「どうせ卒業に必要な単位は取ってあります。だから…卒業までの一年間、ダイエットをして皇太子殿下とその側近達を見返したいのです!」


「…ダイエット…しかし」


「お父様…お願いです…」


「…わかった。ただ、無理はしないように。それと、皇室に喧嘩を売るのはやめるが正当な慰謝料と婚約の白紙はもぎ取ってくるからな」


「はい、お父様!」


ソフィアの言葉でようやく穏便に済ませようということになったが、その瞬間部屋にルイズが飛び込んできた。


「俺の妹を泣かせたのはどこのどいつだ!?ぶん殴ってやる!」


次期公爵家当主とは思えないほど乱暴な言葉を放つ兄に、ソフィアは目眩がした。


ー…


その後、どうにか兄を宥めダイエットへの協力も取り付けたソフィア。ルイズはソフィアに、学園で同部屋だった男を紹介するという。


「医学を専攻していたから、何かの役には立つだろ」


そういって紹介された男、フレデリクはガーランド公爵家の五男。学園を卒業後は医者になる予定だったが、お前は商人が向いていると周りの人間から口々に言われて断念し商人になった男だ。実際、フレデリクは商人としては天才的でかなりのお金を稼いでいる。今ではガーランド商会はこの国に無くてはならない存在となっていた。実家のガーランド公爵家でも帰るたびに褒め称えられるほどだった。


「ご機嫌よう。ソフィア・ガレットと申します」


「ご機嫌よう。お噂はかねがね…僕はフレデリクと申します。どうぞお見知り置きを」


挨拶の後、フレデリクがソフィアと二人きりにして欲しいと言う。ルイズと使用人達は大切なソフィアに万が一があったら困ると断ったが、ソフィアから頼み込まれて渋々部屋を出た。


「でさあ、ソフィア嬢」


ルイズと使用人達が部屋から出て、雰囲気がいきなり変わったフレデリクに何を言われるかと身構えたソフィア。


「…なんでしょう?」


「君、多分病気だよ」


「え?」


「だって、そんな見た目になっても痩せようと思わないとか終わってる。じゃなきゃ病気だ。終わってる奴なら兄を通して僕に会おうなんて思わない。つまり君は病気だ」


あんまりな物言いに、しかしソフィアは恥ずかしそうに顔を下に向けた。


「その…実はダイエットは何度も試していて、効果が無くて…」


「なるほど。じゃあ診察するから手を出して」


「え?」


「体質に合わせて効果的なダイエットを考える。ほら、早く」


「は、はい」


フレデリクの手に手を乗せるソフィア。フレデリクは魔力をその手に込めてソフィアの太る原因を探り…溜め息を吐いた。


「そりゃあダイエットの効果が無いはずだよ」


「フレデリク様…?」


「ソフィア、君は病気だ。魔力膨張症という、珍しい病気に罹ってる」


「魔力膨張症…?」


「魔力回路に溜め込めない程強大な魔力を持ち合わせてしまったんだよ、君は。魔力を使わないと、こんな風に太ってしまうんだ。つまり、ダイエットの方法は魔力を使うこと。それだけで君は簡単に痩せるよ」


「そうなのですか!?」


「そう。それ以外のダイエットは全部時間の無駄。ご愁傷様」


あんまりな事実に唖然としたソフィア。そんなソフィアにフレデリクは持ち掛ける。


「ところで、どうせ魔力を使うなら僕と商売しない?」


「え?」


「宝石を持ってくるからさ、魔力を使って魔法石に加工してよ。君は痩せる。僕は儲かる。ウィンウィンだろ?」


「は、はあ…」


「じゃあとりあえず、今から馬車に詰め込めるだけ宝石を持ってくるからよろしく」


「今からですか!?」


「行ってきまーす」


「フレデリク様!?」


ー…


それから一年が経った。結論から言えば、ソフィアは痩せた。それはもう絶世の美女となった。ガレットとルイズ、使用人達はどんなソフィアも可愛いといつも通りだが、ソフィアは泣いて喜んだ。フレデリクも、かなり儲かったと喜んだ。なんなら、魔法石に加工した儲けだけでなくダイエットの成功報酬までルイズからもぎ取り泣いて喜んだ。


そんなフレデリクだが、魔法石の加工で得た儲けの半分を使って様々な装飾品とドレスを買い込んだ。そして、それをソフィアにプレゼントした。


「ソフィア。学園の卒業式、これ着て行きなよ」


「え?」


「あと、卒業式のエスコートは僕がやるから」


「え?」


「僕とのラブラブっぷりを皇太子殿下に見せつけて羨ましいと思わせてやろ」


「あ、あの…フレデリク様。何故そこまでしてくれるのですか?」


「…だからぁ!僕と婚約しろって言ってんの!」


「え?」


その後フレデリクからのごり押しで婚約を結んだソフィア。ソフィアはフレデリクからエスコートされ、学園の卒業式に。


「おい…あの美人、まさかソフィア様か!?」


「嘘!?あんなに痩せたの!?別人じゃない!」


「エスコートはフレデリク様!?婚約したって本当なのか!」


「やだー!美男美女じゃない、羨ましいー!」


「皇太子殿下…あんな美人な公爵令嬢を捨てて、たかが男爵令嬢なんかと婚約したんだな…」


「もったいねーなー、皇太子殿下」


「てか、あの可愛いだけで何もできない男爵令嬢、まだソフィア様と婚約してた頃から付き合ってたらしいぜ?」


「え、なにそれ最低」


ソフィアの生まれ変わったような美しさに目を奪われていた皇太子は、自分の隣に立つ男爵令嬢を冷たく突き放しソフィアの元へ行く。


「ソフィア!俺のために痩せてくれたんだな!婚約を結び直そう!」


「はい…?」


「ソフィア、僕の後ろに。皇太子殿下。人の婚約者に言い寄らないでください」


「うるさい!元は俺の婚約者だぞ!返せ!」


ソフィアに手を伸ばす皇太子。しかし、その手はソフィアの一言で止まった。


「皇太子殿下がそんな人だと思いませんでした」


「え?」


「昔はあんなに優しかったのに…どうしてこんな風に変わってしまわれたのですか?私は悲しいです」


その、ソフィアのゴキブリでもみるような冷たい目に、皇太子は射殺された。


「そ、ソフィア…俺は…」


「もう、金輪際話しかけないでください」


冷たく突き放すソフィアに、皇太子は今度こそ静かになった。


ー…


その後、ソフィアとフレデリクは結婚。ガーランド商会は、ソフィアの多過ぎる魔力を魔法石に加工して、相変わらずかなりの額を稼いでいる。


一方で、皇太子の方はあれから落ち込み自信を無くし、皇太子の地位を弟に譲った。男爵令嬢とも上手くいかず、結婚もせず中央教会で出家。猫を可愛がり穏やかな生活を送っている。そんな今では、ソフィアには申し訳ないことをしたと反省し謝罪の手紙を送ったという。ソフィアは許しますとだけ書いて返信したらしい。


男爵令嬢はちゃっかり金持ちの後妻に収まって幸せに暮らしているのだとか。一番上手くやったのは、案外彼女かもしれない。


「フレデリク様」


「ん?」


「何故、私を選んでくださったのですか?」


「そりゃあ…可愛かったからだよ」


「まあ、フレデリク様のお陰で痩せましたものね」


「そうじゃなくて…」


「え?」


「会いに来るたびに、フレデリク様、フレデリク様って懐いてきて、痩せました、また痩せました褒めてくださいって…なんか…飼い猫みたいで…」


「…そんな感じでしたか?」


「うん」


真っ赤になるソフィアに、フレデリクはキスを落とす。


「フレデリク様、不意打ちはダメです!」


「だから、そういうところが可愛いんだってば」


今日もソフィアは、フレデリクからの愛を受ける。皇太子からの陰口に、今では感謝さえ感じるソフィアだった。

敦君はいつだって楽しそう


という短編小説もよろしくお願いします٩( 'ω' )و

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