暴発すると対象年齢が上がります
頭上でスマホの目覚ましが鳴り響く。
レイはうるさいそれを止めようと手を伸ばす。すると体の隣で柔らかいものに触れた。
「……何……?」
レイはうっすらと目を開ける。
寝ぼけた彼の目に映っていたのは隣で幸せそうにしているミソラの寝顔だった。
「な、な、何でいるんだよ!ミソラぁ!」
被っていたブランケットを派手に飛ばしてレイはその爆発物よりも危険な代物から距離をとる。彼女がまだ寝ていることを確認するとレイは部屋を見渡した。夢遊病の類でミソラの部屋へと来てしまったのかと思ったがそれは杞憂だった。窓に向かっている机に教科書が散らばっている彼の部屋だ。
「……むぅ。レイ。起きたのか…」
レイの焦りを感知してしまったのかミソラが体を起こす。寝起きの彼女は髪はボサボサでボーッとしている。それはそれで無防備で不覚にもレイはドキッとしてしまう。
「何で寝てるんだよここで!」
「?何でって昨日私のそばにずっといるって言ったから…お腹が減って起きたら居なくて寂しかった……」
レイはなまじそんなことを言った自覚があるぶん気まずかった。
昨日はあのあと泣きつかれて寝てしまったミソラをベッドに横たえてそのまま寝かしておいてしまっていたのだ。夕食を食べていないから夜中に起きるはずだ。
「起きたって何時に」
「1時くらい?」
「そりゃ居ねぇよ」
レイは諦め混じりのため息をついた。ミソラはレイの言葉をそっくりそのままの意味で解釈したらしい。
「…で?何で今いるんだよ」
「イリスに頼まれてレイを起こしに来たんだが…そばにいたすぎて寝てしまった」
「本末転倒じゃねえか」
レイはスマホに手を伸ばし、見ると時刻は8時を過ぎていた。
「なあ、レイ」
スマホから顔をあげると視界のほとんどをミソラの顔が占領していた。
「…近いって…!」
「そばにいてくれるのではなかったのか?…もっと近く…離れたくない…」
顔を赤くしてミソラを遠ざけようとするレイをミソラは蠱惑的な表情で追い詰めていく。
「おまえおかしくなってないか?!何で物理的に追い詰められているんですかね?!」
ついにレイの背中が壁についてしまった。もう逃れられない。レイの顔の両側に手をつきミソラがさらにささやく。端から見ればレイがミソラに襲われているようだ。
「レイ。私はずっと寂しかった。離れないでくれよ…」
ミソラの泣き笑いのような顔を見てレイは彼女が病的なまでにそばにいたがる理由に思い当たる。
「…!」
レイに抱き締められミソラの表情が和らぐ。彼女はこれまでためてきた孤独な思いを発散、いや暴発させているだけなのだ。孤独感が消えれば落ち着くだろう。そう結論づけレイは自身の温もりをさらに伝えようと彼女を強く抱き締める。
「…レイ。すまんな。少々高ぶりすぎたようだ」
「もう勘弁してくれ…」
ようやくミソラが落ち着きレイがほっと一息ついたその時、
「ミソラ!起こすのにどんだけ…!」
怒りながらイリスが勢いよくドアを開ける。
あ、とレイの口からかろうじて母音がでる。抱き締めあっているのを見られるのはさすがにまずい。レイは慌てて手を離したがミソラはひしと抱き締めたままだ。
「…なにしとるんじゃあ!!」
「イリス様!これには深い訳が……」
レイの言い訳もむなしく女神キックが飛んでくる。
「問答無用ォ!!」
「話を聞けぇ!!」
朝の住宅に鈍い音が響いた。
どうも紙村滝です。
ノベルアッププラスでも活動しようと思ってます。そちらでもよろしくです。