魔獣注意報
駅のホームに降り立つとすぐに土と草の匂いが立ち上ってきた。駅前だと言うのにレイたちの目に入ってきたのは少しの住宅と一面の青々とした畑のみ。他の区とはうってかわって超がつくほどの田舎っぷりである。
β区は先程までいたΔ区のちょうど反対側にあり農業神デメテルのもとでの食料生産や狩猟神アルテミスのもと動物や魔獣の狩りを行っている区画だ。
「本当に自然だけなんだな」
駅からオリュンポス山へ続いている長い道路を歩きながらミソラがこぼす。さっきから車とも人ともすれ違いあわない。見渡してみても畑にちらほら餌を探しに来た小鳥がいるだけ。
「まあ、農業区画だからな。小学校の遠足とかでよく来たよここ」
「芋掘りでもしたのか?」
「何で芋掘りなんだよ。俺らがやったのは―」
レイが小学校の思い出を語ろうとした矢先、彼のポケットから電子音が鳴る。
取り出したケータイの画面には少しピクセルの荒い両生類のアバターが映っていた。
「β区第三地域ニ魔獣注意報ガデテルゼ。セイゼイハヤクカエルンダナ」
「しゃべった?!」
急に言葉を発したちんちくりんに奇異の目を向ける。
「こいつはUUPっていうサポートAIだよ。今大体のスマホについてるんじゃないか?」
「そうなのか…」
ほえー、としげしげとUUPを眺めるミソラ。
「オマエ、住民登録ニナイ顔ダナ。不法入国カ?」
「失礼だな。私は不法入国なんかしてないぞ」
「ソレヨリハヤクカエレ。ココ、ヒュドラガデテルゼ」
「まじか…」
ヒュドラとは神話の時代から存在している九つの首を持つ蛇だ。今は絶滅に近い状態だと聞いていたが出没するとは珍しい。
レイの額から嫌な汗が吹き出てくる。万が一遭遇してしまったらいくら神官といえども一溜りもない。
「ミソラ、α区にいくぞ」
短くうなずいたミソラを引き連れレイは駅へと戻る。その間カエレ、カエレとうるさかったUUPはポケットのなかで黙らせておいた。
どうも紙村滝です。
実生活が忙しくなってきて全然勉強が出来ていません。ピンチ!!
インプットが不足中です。