知恵と戦術の神官
「え?」
名前を呼ばれたレイが、反射的に顔を上げる。そこにたっていたのは端正な顔立ちの凛とした女子高生だった。見知った顔である。
「あれ、ニンフィ?どうしてここに?」
「それは…パトロールでね…ついでにイリス様に配送の確認をしようと思ってたんだけど…」
普段の調子で話しかけたレイに、彼女はなぜか警戒したような態度で答えてくる。
彼女の視線の先にはレイの隣に寄り添うように立っているミソラ。
「その子、誰?」
「ミソラだよ。これからうちで…」
そこまで言いかけてレイは口を閉じる。ニンフィのこめかみのあたりでピキッと嫌な音がしたからだ。
「うちで?なにするの?」
ニンフィは笑みを浮かべてなおも問い詰める。目が笑っていない。
「えーと…」
「レイ、その女は誰だ」
ミソラの警戒してニンフィに目を向ける。
痺れを切らした彼女の問いかけに助かったとばかりに飛び付いて、
「ニンフィだよ。俺と幼なじみで高校の同級生」
「ニンフィ・オプローです。知恵と戦術の女神アテナ様の神官でもあります。レイとはそれはそれは長い付き合いなのでご承知おきを」
ニンフィが優雅に一礼する。ミソラはじっと見つめて、
「ミソラ・コムラだ。これからレイの家に居候させてもらうことになった。よろしくな」
「今その話はいいって!」
ミソラの口からでたのはレイが絶対面倒なことになるため言わなかった事実。案の定、ニンフィは作り笑いを捨ててこちらを睨み付けてきてしまっている。
「説明してもらえる?」
「そ…そう、一人で廃ビルにいたからさ保護したんだよ」
ようやく角の立たない言い回しを発見して、レイは声を弾ませた。そもそも真実をそのまま語ったとしても、ニンフィがそれを信じてくれるともあまり思えないが。
「廃ビルに?」
「ああ。こいつ記憶喪失らしくて何でいたかはわからないけどな」
「…つまりレイがその子を家に連れてきたってこと?」
「まあ、そうかな」
あながち間違いというわけでもないので、レイは適当に受け流す。そんなレイとニンフィのやり取りを見ていたミソラが何かに気づいたのかレイに哀れみの目を向けてくる。
「綺麗な子だね」
ニンフィがレイの耳元に口を寄せ、小声で言った。いたずらっぽい笑みを浮かべているが、やはり目がなぜか笑っていない。
「そうだな」
レイは特になにも考えず素直に同意。客観的に見てミソラの容貌は美少女の域にある。
「ふーん。そっか」
ニンフィは人形のように笑みを浮かべたままレイから離れた。そんなニンフィの様子にただならぬ雰囲気を感じて、
「えと、ニンフィさん?」
「じゃあ私行くね」
静かな怒りを覗かせた笑みを浮かべてニンフィはレイたちが歩いて来た方へ去っていた。その瞳が、あとできっちり説明してもらうから、と無言のメッセージを伝えてくる。
「じゃあ私たちも行こう」
「え?ちょ、待てよ!」
何事もなかったかのように歩き出すミソラのペースにレイは引きずられていくしかなかった。
どうも紙村滝です。
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寒いですね。霜焼けが辛いです。足先に張るカイロが暖かくて重宝してます。