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解離性フラジール  作者: 雪時雨
第一章 ペンフィールドの小人たち
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始まりの鐘

冬樹らが現地に着いたのは夜中の0時近くで、完全に夜の闇に包まれていた。そこで簡易的な管理施設を解離精神協会の役員が組み立てている間、もう一度作戦内容を確認していた。

「もしかしたら、雨の影響で俺の通信波も回線が悪いかもしれない。何かあったときは臨機応変に対応して、死なないように。」

篠原が少し心配しながらも、緊急時には自分の命を優先するようにと告げた。また彼の心配している通信は通常の電波と異なり、少々特殊なものである。彼などのコマンダーのフィルスマの1つである”スピリットセンス[精神感波]”は戦闘において非常に重要となる。と言うのも、ゲートから出現するユーオの中には精神妨害電波と言う波形を出し、健常者の意識・電子機器の通信を妨害する種がいる。そのため、通常の通信機器では遠距離の通信は出来ず、連携が非常に取りづらくなる。一方[精神感波]は、そのフィルスマ保持者が専用の機器に触れていることで電波とは違う波形の通信波を一定範囲内に放出し、通信を可能としている。このことからもコマンダーは非常に重要なポジションであり、失うとかなりの戦力喪失になるため、たいていの場合は後方の簡易的な管理施設に待機している。また同時にコマンダーのフィルスマである”パートディソシエイション[部分解離]”によって、自分の視覚を自分から切り離して上空から閲覧することができ、戦況を俯瞰的に見ることができる。そのためどのみち後方配置でも活躍し、かなり重要なポジションとなっている。まさにコマンダーのフィルスマは、司令塔と言った言葉が当てはまる。

その言葉を最後に、篠原は後方の完成したらしい管理施設に歩いていき、機械の準備を始める。今まで作業していた数名の作業員はすぐさま撤収準備をし、あっという間に戦闘範囲から去っていった。

その様子の一部始終を見ていた一同の中で、いつ見てもすごいと栗北が感想を述べた。

「いつみてもあの撤収の手際は素晴らしいですね。」

それに対して、やや卑屈気味に樹木が会話をつなげた

「まぁ、あの人たちも命は惜しいのでしょうな。戦闘範囲内にいたらほぼ確実に精神妨害電波を食らって即気絶ですし。」

いつもの流れだと、樹木の会話には返答がしづらいことが多いため、ここですかさず橋立が会話を切り替える。

「と言うことで準備もできましたし、それぞれ配置につきましょう!」

その言葉を皮切りに、みんなはそれぞれの配置につき始めた。



『あー、あー、こちら篠原。幸助、そっちに聞こえるか?』

「こちら飯沢、恭二さん、今のところはばっちりです。このまま通信が持ってくれるといいですね。」

そこそこの雨が降る中、少し遠くにいればその会話は聞こえないだろうが、同じく誘引する部隊である冬樹は近くにいるため聞き取れた。聡子さん、幸助さんと通信の確認が来たから、次は自分に来るだろうな。

そう思いながら少し周りを観察しながら待っていると、案の定篠原から通信が入る。

『あー、あー、こちら篠原。冬樹、そっちは聞こえるか?』

「はい聞こえます。一番離れている香織さんらにもきちんと通信は届いてますか?」

通信状況は良好なので、素直に冬樹は返した。それと管理施設から一番離れている桜園たちにはしっかり通信が届いているか一応念のため確認した。

『あぁ。少々離れていたから心配していたが、今のところは問題なく繋がる。そろそろ奴らが来るからしっかり心の準備をしろよ。あとたぶんそこからの眺めはなかなかいいぞ。じゃあな。』

「わかりました。では。」

眺めがいい?見る限り、雨と点在する樹木と濡れた土壌しかなくお世辞にも景色がいいとは言えない。でも、恭二さんが言うならそうなるのだろう。

と思いながら返事をすると、確認が十分に取れたので通信は切れた。

と言うかそもそも他の人はいいけど、桜園さんを下の名前で呼ぶのは慣れないな。教会の方針で、メンバーには下の名前で呼ぶよう言われてはいるけど、普段は苗字はおろか、声すらかけない相手を名前で呼ぶのだから。まぁ別に呼び方なんて些細なことだけれど。

そう思いながら、これから戦闘に入るんだからしっかり気を保たなくては、と冬樹は両手で顔をペシペシした。冬樹らがいる地点は比較的高いので、下の方は割と見えた。晴れていればそれなりに良い景色だっただろうなと思いながら、そろそろ予定の時刻になるので、ゲートが出現する予定の位置をずっと見ながらその時を待った。


しばらくすると淡い黄色の光が予定位置に出現し、確認して「なんだあれ?」と思った瞬間、その光が紫色に輝き、一気に膨張して高さ50mはあろうかと言う大きな楕円形の形となった。あまりに一瞬の出来事だったので、冬樹もしばらく何が起きたのか認識できておらず、しばらく棒立ちしていた。しかし、横で戦闘態勢をしている幸助と霧島を見て、慌てて冬樹も戦闘隊形を取り、いつ敵が来てもいいように構えた。

出現した紫色の楕円形のゲートをよく確認してみると、何かが次々と出現している様子が見て取れた。ざっと数えるだけで人型のような小さな影が数百、大きな四足歩行の影が2つ、その中間くらいの大きさで球状の影が1つ。いや、影と言うのは正確に間違っている。雨で視界が見えないにもかかわらずそれらが確認できるのは、その物体が淡く光り輝いているからだ。敵だ、と冬樹は確信し、手に握る専用の銃剣からは雨だけではなく汗も滴る。もう少し見ていると、その集団はみるみると陣形を変えて、1つの丸い舞台とその前に3つの長方形の部隊が出来上がった。この距離であれだけ動くのだから、実際目の当りにしたらもっと早いだろう。雨で敵の気動力がかなり落ちていると思っていたが、冬樹の期待していたほどの効果がないのではと少し不安がよぎる。

すると幸助が冬樹に話しかけてきた。

「おそらくあの分かれている部隊のうち、先兵の部隊がまずこっちに来るはずだ。気を引き締めておけよ。あと付け加えると、見た目ではあいつらの移動速度はあまり落ちてないように見えるかもしれない。だが、確実に反応速度・攻撃速度は落ちているはずだ。そこがねらい目だ。」

幸助さんは俺の様子を見て落ち着かせようとしたのだろうか?本当に面倒見がいい人だ。だが戦闘中はその行為に甘えてられないな。

敵の部隊が編成し終えてからおよそ30秒後、耳元の通信機に篠原からの通信が入った。

『こちら篠原、各員へ告げる。敵は前衛にアグレッサー8体にコントローラー1体を1部隊とし、それら6部隊1編成の計3編成あり、敵のスカウターの情報が入り次第こちらへ攻撃的に仕掛けてくるだろう。また、後衛には球状のオブザーバーが1体、四足のサボタージが2体、それを取り囲むようにガーディアンが30体以上配置されている。だが雨の影響もあってこの後衛部隊はほとんど動かないだろう。くれぐれも攻撃部隊を殲滅するまで、サボタージの射程圏内に入らないこと。さらに敵のスカウター20体の出動を、ゲート開放と同時にすでに確認した。誘導部隊には今から最短60秒で接敵することが予想される。報告はひとまず以上だ。健闘を祈る。』

いつになく篠原が真剣な様子で、部分解離で得られた情報をメンバーに供用した。そして、敵との戦闘まで60秒と言う短い時間に思わず心臓が跳ねたが、覚悟を決めて再び武器を握りしめた。

そして、幸助がそれぞれ武器を握りしめている霧島と冬樹を鼓舞する。

「そろそろ来るぞ。先方は俺が引きつける!全体的に敵を引き付けながら徐々に頂上へ後退しろ!被弾はなるべくするなよ!」

その声のほんの10秒後、幸助の剣と敵のスカウターのナイフが激しい音を出してかち合った。それは甲高く、そして鐘のように鈍く周りに響き渡った。その後、まるでそれが合図かの様に次々とスカウターが出現し、己の存亡をかけた戦闘が始まった。


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