表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解離性フラジール  作者: 雪時雨
第一章 ペンフィールドの小人たち
2/22

賑やかで穏やかな日常

「であるからして、このRNAの機能はー」

だんだんと夏が近づきつつあるため、外ではもちろん、部屋の中まで熱気と共に蝉の声も漏れていた。そこではエアコンがあまり効いていないためか、広い講義室で大学の教授が一生懸命汗をかきながら説明をしていた。ふと鷹塚冬樹(たかつか ふゆき)が授業に向けてた集中力を回りを見ることに使うと、大抵の学生はスマホを弄るか、寝るか、はたまたレポートを書いているかに三分割される。さらに隣に座っている友人に目を向けた。すると、座っている2人のうち、1人が彼も集中力が切れたのかこちらを見返してき、少しうんざりした様子で小声で話しかけてきた。

「この講義の内容は面白いんだけど、教授の教え方がクソ過ぎてわからん。」

その言葉を聞くと、声をかけられた冬樹は回りに聞こえない声でそっと言い返した。

「ま、この講義が終わったら今日は終わりだし、我慢我慢。」

そしてしばらくすると、教授の「じゃあ今日は少し早いですがここで終わりにします。」の言葉と共に、教室は生徒の声で活気に溢れかえり、それぞれ生徒は思い思いの場所に向かっていった。



冬樹たちは3人はいつも授業後に駄弁っているメンバーを待つために、食堂へと向かった。食堂には、まだ他の授業は終わってないためかあまり人はいない。3人が席に着くと、先ほど授業中に話した飯沢祐太(いいざわ ゆうた)は愚痴をこぼした。

「やっぱあの先生の授業つまんねーよな。ほんっとぜんっぜん面白くない!まぁテスト簡単で単位取りやすいから仕方なく受けてるけど…。」

机にうつっぷしになりながら手を伸ばして“お手上げ”のようなポーズを取った祐太に対して、藤峰哲(ふじみね とおる)はひらひらと手を振って無駄だと言わんばかりのポーズをして返した。

「あの授業は受けるだけ無駄だよ。よっぽどレポートしてる方が有意義。」

確かにあの先生の授業はつまらないし、単位が簡単にもらえなければあんな授業は受けようとは思わない。自分たちはまだ大学理学部2回生で、他の理学専攻科目が難しいから、できるだけ単位が取れるなら取っておきたいし。でも先生もそれなりに準備をして講義に臨んでいるわけだし、一応フォローだけどもいれておこうかな。

「まぁまぁそう言わずに。先生もきっと一生懸命説明してるんだよ。うん、たぶん。」

そう言って何とかありきたりのフォローの言葉で冬樹が話をつなげた後、ちょうど待っていたメンバーが食堂のドアを開けて中に入ってきた。彼女らは周りを少しきょろきょろ見回した後、冬樹らの場所に気づいたのか、手を少し振って席に近寄ってきた。彼女ら3人は冬樹らの横に座って、そのうちの1人がこれまた同じような愚痴をこぼした。

「あの教授の授業さー」

そのようにだるそうに大声をかけるのはショートヘアの滝摩耶(たき まや)だ。いつも元気がよいのはいいことだが、少々うるさすぎる時もある。だが、その行動力には結構みんな好感が持てていて、クラスの盛り上げ係だったりする。滝が話している途中で、何を話そうとしたのか理解して、さらにそれに激しく同意したのか、首を上下に振りながら祐太は返事した。

「わかる―!なんであんなに退屈な授業になるんかなー。」

「よねー!やっぱり祐くんもそう思う?」

などと飯沢が滝の言葉を汲み取って、さらに同様の意見を持っていることからも滝が嬉しく思い、2人の会話がすぐ盛り上がった。

そのように滝と飯沢が話している横で、相菊朱里(あいぎく しゅり)が冬樹に話しかけてきた。

「ねぇねぇ冬樹くん、こ、今度のキャンプの話なんだけど…。」

その相菊の話す様子を見て、冬樹はふと思考に耽る。

今日の相菊さんは後ろでひとまとめにしていて、いかにも女の子って雰囲気を纏ってるなぁ。そういえば、最近同じクラスの奴から聞いたけど、結構相菊さんは人気あるらしいな。確かにかわいいけど、1回生のころから同じ仲がいいメンバーで過ごしてきてたし、1年以上も友達として付き合ってたらあんまりそんなこと気にしないよな。でも男子から人気は結構あるけど、付き合ってるって話はあんまり聞かないな。みだらに付き合ったりせず、もしかしたら結構相手を選んで付き合うタイプなのかも??そういえばこの6人の中で付き合ってる人は祐太と滝さんだったな。ま、このメンバー以外の人と付き合ってる人がいたらそもそもキャンプで何泊かする計画なんて立てないんだけど。

そうやって色々冬樹が考えていると、しばらくして誰かが必死に声をかけていることに気づいた。

「ゆきん…。冬樹くーん!あ、やっと気づいた。何考えてたの…。ほら、今度のキャンプどこに行くか話し合うんでしょ。」

相菊は少し顔を膨らませながら必死に冬樹に話しかけていたらしく、冬樹がその呼びかけに気づいたときは安心したとともに、顔をプイっと背けた。

その様子に可愛いなと思いながら冬樹は適当に話を変えてごまかす。

「あはは、そういえば相菊さん、今日はポニーテールしてるんだね。結構似合ってていいと思うよ。こう、そのゆらゆらが男心をくすぐられるというか!」

「もー!すぐそう言ってごまかすんだから。」

その言葉に若干嬉しそうな顔をしながらも、相菊は冬樹にぷんぷんとして言葉を返した。やっぱり見た目や仕草は可愛いな。そりゃ男子に人気があるわけだ。そう思いながら、本題に入るために冬樹は話を続ける。

「ごめんごめん。で、夏に行くキャンプの話ね?結局海じゃなくて山にするんでしょ?やっぱり山だったら川で遊んだり虫取りしたりするのかな?」

冬樹がそう話すと、川と言うワードに食いついて藤原が話し始めた。

「やっぱ海でするのもいいけど、川で釣りするのもいいよね~。やっぱり川だったら虫に疑似させてるルアーがいいだろうし、なんだったらみんなで楽しむために現地で竿を作ったり餌を調達してもいいし…。」

まーた釣りオタクが始まったよ。

そう思って冬樹は肩をすくめながら、相菊と目を合わす。すると相菊も同じことを思ったのか、ニコッと返した。と言っても二人とも別に嫌な気持ちではなく、いつもの藤原モードに入ったなと思っただけである。

彼は実家が海の近くにあり、昔から水場に慣れ親しんできた。また、彼自身は釣りが好きで、その中でも川釣りが好きらしい。そのため、今回は海か山かでキャンプの大まかな場所を決めようと思っていたのだが、藤原は海よりも山を推していた。普段はおとなしい藤原だが、自分の趣味にかかわる話になると途端に熱くなる。

するとテーブルの脇で、ちょっと小さめの声で訴えかける人がいた。

「でも私、虫はちょっと…苦手…。」

その声の主は、先ほど来た女子3人のうち小柄で、眼鏡をかけて三つ編みをしている蒼霧美咲(あおぎり みさき)だ。彼女はとてもおとなしく、普段からあまり物申さない性格だ。そんな彼女が話に割って入った理由は、どうやらキャンプ地の山に原因があるらしい。

それに対し、相菊が蒼霧に、「え、でもでも」と言って返した

「でも美咲ちゃん、この前に海でキャンプは嫌って言ってたよね?」

「だって、海っていっぱい微生物がいるし、なんかね…。海か山かだったら山だけど、虫取りは私したくないなぁ。」

そう言って彼女は机に腕組して、そこに顔を沈めながら、こちらをチラッチラッと見た。彼女は見た目通り、勉強はできて、たいていの物事は何でもこなす人間だが、たまにわがままになる時もある。ただし、そこまでひどくわがままになるわけでもなく、本人曰く、甘えられるときに甘えられるだけ甘えているのだという。また、異性に興味があまりないらしく、普段は薄化粧しかしてないが、それなりに目鼻は整っているため、言動を変えれば相菊みたいに人気もでると思うのだが…。

そう思いながら、冬樹はこちらを見られたからには何か返さなくてはと思い、言葉を探して返した。

「うーん、そう言われても結構意見が山方面に固まりつつあるからなぁ。虫は我慢してよ。ほら、虫は無視ってね。」

冬樹は困ったと顔に出しながら、なんとなく”虫”と”避ける”で頭をよぎった言葉を自然に口にしてしまった。すると相菊や藤原だけでなく、何かキャンプとは関係ないことで議論が白熱していた滝と飯沢も、こちらを見て静まり返っていた。誰もがどう返していいか、返答に困っていたのだ。

これはやってしまったか!

キャンプの場所よりも現在の空気に困った冬樹だったが、意外にもその沈黙をいち早く破ったのは蒼霧だった。

「ぷふっ…なにそれ。しょーもない。ま、別に私は山でいいよ…。」

蒼霧はあまり感情を表に出さないタイプだったため、冬樹はその赤らめて笑った蒼霧の顔を見て非常に驚いた。

意外に蒼霧さんにはギャクが受ける…かも。

と心のノートに書きこんだ冬樹をよそに、飯沢らがキャンプの話に加わってきた。

「ま、まぁさっきのはともかく、男組が虫取りしている間、女組はお花摘みだったり、女の話に花でも咲かせればいいんじゃないの?」

と飯沢が、無難な提案をしてきた。彼は意外と見た目や性格とは裏腹に、大学で受講した講義は一つも単位は落とさないなど、結構まじめな性格をしていてやるべきことはしっかりやっている。滝はそういう飯沢のチャラそうに見えて、しっかりしているところに惹かれたらしい。

その後、自分が話した内容について何かまずい内容があったことに気づいたのか、てへぺろと思わせるポーズをとってごまかす。それに対して滝が指摘を入れた。

「あ、あんたが言うとちょっとおかしいように聞こえるの。花を摘むとかあんまり言わないで!」

その少し赤らめた滝の様子を見ながら、ニマニマして飯沢が返した。

「でも、想像したのはそっちでしょ?別に俺は悪くないもんね~。」

ニマニマとしてる飯沢と比べて、滝の方はぐぬぬぬぬ…といった表情をしている。

普段からこんな調子で色々2人は言い合ってる。でも、喧嘩と言うわけではなく、そんなに深刻なムードにもなったりはしない。よく言う喧嘩するほど仲がいいというやつなのだろう。

そんないつもの2人の光景を見ながら冬樹が考えていると、まぁまぁと入って相菊が本題に議題を戻す。

「と、とにかく私は色々なことしたいかな。虫取りも川遊びも散歩も観光も…色々なことしたい!」

それに同意して飯沢も元気よく声を出す。

「そうそう、やっぱりせっかくキャンプに行くなら楽しまないとね!いろいろやろうぜ!」

さらに滝が飯沢の言葉にヤジを飛ばす。

「ま、色々やり過ぎて、夜バテテすぐ寝ないようにね。せっかく夜にみんなで遊んだり話したりするんだから。」

こーりゃまた、2人はしばらく色々言い争うなぁ…。と思いながら、苦笑いしてその様子をしばらく見ていた。

しばらく雑談を続けているとあっという間に時間が過ぎていることに気づき、いち早く気づいた相菊が引き上げて出発する合図をする。

「もうこんな時間だね…。そろそろ時間だし行こっか。次実習だから遅れたらいけないし、ちゃんとみんな予習してきた?」

その言葉に冬樹がもちろんと返し、さらにリレーの様に冬樹が飯沢に問いかけた。

「まぁね、そういえば今日は祐太と同じ班らしいけど、きちんと予習してきた?」

「もちろん!きちんと予習してきたし、書き込みもばっちりよ。ほら見てこの計算量…あれ?」

自信満々に返答をして、なんなら冊子に書いた努力の証を見てくれと言わんばかりに、飯沢はカバンの中をガサゴソ探し始めた。するとそこにはあってはいけない出来事、いや無くてはならないものがそこには無いことに気づき、頭を両手で抑えながらその悲痛を声にした。

「ないないなーい…!」

すると、さっきのお返しと言わんばかりに、滝が飯沢にさらにダメージを与える。

「ほらほら諦めて、さっさと行く!冬樹君に貸してもらって。」

忘れたのは自業自得でしょうがないけど、さすがに可哀想だなぁ。前に冊子貸してもらったことあったし、今回はフォロー入れようか。滝さんもほどほどにしておかなきゃ祐太泣いちゃうよ?

「ま、祐太のことだから予習していれば大丈夫だって。ほら、データ記入欄の箇所、あとで送ってやるから…。」

冬樹の言葉に続いて、同様に可哀想と思ったのか藤原もフォローを入れた。

「今日はそんなに実験量多くないしね。」

そういって藤原が席を立って、実習をする部屋へ行こうとした。忘れたことをずるずる引きずっている飯沢は恨み言を言いながらも、それを含めてみんな次々と立っていき、移動を始めた。



食堂を出る時、ふと冬樹の目の前をさっと通る一つの影と共に、桃色の綺麗な髪の毛がたなびいた。その瞬間、桜が舞ったかと錯覚するくらい綺麗で思わず口が開いた。誰かと思って顔を見るとそこには、桜園香織(さくらその かおり)の姿があった。


とりあえず一気に20話ほど投稿します。

話しは色々捻って考えたつもりです…が初心者なので悪しからず

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ