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解離性フラジール  作者: 雪時雨
第一章 ペンフィールドの小人たち
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未知なるものは無知を嘲笑う

「香織!冬樹!援護頼む!」

その幸助の掛け声とともに、香織と冬樹は標的を幸助の後ろに回っていたアグレッサーへ変えて攻撃した。続けて後続に射撃して、幸助に触れさせまいと必死に抵抗する。その甲斐あってか、幸助が対峙していたディフェンダーを倒し終わる頃にはその周りはアグレッサーの死体で埋め尽くされており、それらが消散する光でまるで幸助がライトアップされているかのようだった。

「二人とも援護サンキューな。俺ばっか狙われて…全く人気者も大変だ。」

戦闘終了後、幸助は縁起射撃してくれた2人へ感謝を述べつつ、笑いながら冗談を言った。するとその冗談に指山が返す。

「ですが、集まってくるものがユーオであるなら、プライバシーだけでなく命も失ってしまいますな。」

人気者に群がる報道陣でもかけたのだろうか。人気者であればプライバシーがなく色々報道されるというのと、ユーオが群がってくると命の危機が迫ると言うことをうまいこと掛け合わせて指山が話した。それを聞いて幸助は一瞬キョトンとしたが、意味を理解したらしく大きな声で笑った。

すると霧島が大きな声で早く移動を始めるように急かした。

「あんたちさっさと行くよ!さっさとコマンダーぶっ殺してえんだわ。」

見ると冬樹・桜園・幸助・指山以外はすでに前へ進んでおり、そろそろ接敵するであろうコマンダーを撃破する気満々であった。どうやら彼らは見たこともない上位種のユーオを拝めることの好奇心や、重要で強力な敵を倒すことで自分の名声が上がることに対する野心によって、足が速く進んでいるようだ。

それを聞いて、隊列を乱してはいけないから早く行こうと、指山は苦笑しながら幸助らに声をかけた。それに対して幸助も苦笑して返す。

「さて、行きましょうか。」

「あぁそろそろだしな。」

2人は歩き出したが、桜園は止まって何やら考えている。その様子を不思議に思った冬樹は声をかけた。

「香織さん?何か気がかりでもある?」

すると桜園は少し考えた後、首を横に振ってこたえた。

「いえ何も。たぶん大丈夫だと思うので。」

「そっか、ならいいけど。何かあったら言ってね。」

そう言って歩みを始めた冬樹と桜園は、幸助と指山の後に続いてコマンダーがいると思われる地点へと向かった。




メンバーがしばらく歩いて行くと、そこには森の中ではあるが少し開けた場所があり、小川が流れていて空気が澄んだ地点に出た。あたりは若干の霧が出ており、苔むした岩とも相まって幻想的な雰囲気が漂っている。その光景に息をのんでいたメンバーだったが、桜園の声によってその視線を前方の遠くにある方へ向けた。

「あれがコマンダー?いや、形は完全にオブザーバーね…。」

桜園が見つけた巨大な球体状の物体、オブザーバーは今までの戦闘と同様に動く気配すらない。そして本来いるはずのガーディアンらは周りにはおらず、一体でポツンと佇んでいるような様子である。

その光景を見てそれ以外に奇妙に思った冬樹は、その疑問を口にした。

「オブザーバー?と言うことは今まで隠密効果を付与していた個体はどこなのでしょうか…?」

するとそれに対して何か持論があるのか、ため息をつきながら鏡音が言葉を返してきた。

「でも今までの感じ、直接視認した敵はきちんと隠密効果が消えてたよな?一応あたりを見渡したけどそれらしい影はなかったし、戦力を使い果たしたんじゃね?余計な心配するよりさっさとあいつをつぶした方が先決だと思うんだが。…まったく、強い上位種が出てくると思ったがとんだ期待外れだったな…。」

確かに格好のチャンスだからオブザーバーを潰した方がいいのは確実なんだけど、なんか気にかかるんだけどな…。空気もここだけやけに澄んでるし…。

偉そうな態度で鏡音の話す言葉は悔しいが確かにその通りだった。冬樹はそれでも何か奇妙な感覚は払拭できなかったが、「そうね。早く片付けましょう。」と言う桜園の言葉もあって、それを思うだけに留めた。そして桜園と樹木を含めた全員が十分にオブザーバーから距離で待機し、2人は銃を構えた。

「撃ちます」

その桜園の掛け声とともに、桜園と樹木はフィルスマ[要素崩壊]と[電子過与]を放った。2人の後ろで待機していたメンバーだったが、スナイパーフィルスマをこれほど間近で見ることはほとんどなかったため、射出された時の風圧・振動・威圧で気おされて尻もちをつく者もいた。

そして2人の射出された攻撃がオブザーバーへと直進して、その中心に直撃する。




はずだった。しかしそれらの攻撃は、突如として出現した3m手前の謎の障壁によって阻まれた。攻撃が当たった障壁らしき個所がテラテラとまるで輝かしい宝石のように光っている。

「なっ!!」

その光景を見て何が起こったのか理解できないメンバーほとんどは、驚きの声を漏らして茫然としていた。

なんだこれは…!?障壁?それってあり得るのか?他の人は何か知ってるのでは?

経験が浅く、目の前で起きている現象が果たして今まで起こりえた出来事なのか判断できない冬樹は、周りのメンバーを見渡した。

「障壁!?今までこんなのは見たことない…。それにスナイパーのフィルスマ2つが効かないなんてありえない…。」

樹木も自身の渾身の一撃が全く効果をなさなかったことにショックを受けたのか、しきりに独り言をブツブツと言っている。その他のメンバーも「なんだこれは…」「信じられない…!」など同様の言葉を言っていた。

やはりこれは想定外の出来事か…。そうだ桜園さんは!?

周りのメンバーは冬樹同様に驚愕の表情となっているため、おそらく異常事態と言うことは察した。そして頼みの綱である桜園の方を振り向こうとした時だった。

攻撃を受けた直後はテラテラと光って明確に目視できた障壁だったが、だんだんとその形が薄くなっていき、いつのまにか今まで見えていた球状のオブザーバーが別の形に、まるでコマを逆さまにしたような形へと変わっていた。

「なんだ!?オブザーバーの形が…!」

冬樹はその事実に驚愕したが、他のメンバーも同様に驚きを表していた。

しかし驚くのはここで終わらない。

よく見ると、いやよく見なくてもわかるのだが、そのコマのような形をしたユーオのそれほど遠くない後方に、高さ40mは越えているだろう、八本足のまるで巨大な蜘蛛のようなものが存在していた。その一本一本の脚はまるで樹木のように太く、その付け根に当たるジャガイモの形のような下部からは、大きなミラーボールのようなものが6つぶら下がっていた。

それらの一連の様子を見て、あまりの目の前の環境の変化に、ほとんどの人は何もすることはできなかった。そしてその様子を見て冬樹が何かピンときて発言した。

「あれがもしかしてチャージャー…?」

それに対してやはり気を保っていた桜園は返した。

「いえ、そう思うのも無理はないけど違うわ。チャージャーは6本脚で、あの下部にあるでっぱりのようなものは持っていないはず。でも、だとしたら…何?」

桜園は途中まで冬樹に説明するような口調だったが、しきりにその巨大蜘蛛のようなものを見つめて、自問自答始めた。桜園の瞳をよく見ると小刻みに動いていた。

じゃあ一体あれは何なんだ…?他のメンバーも見た感じわからないようだし、桜園さんも予想外に慌てている…。もしかしてヤバいのでは?すぐに引くべきか…。

するとその巨大蜘蛛の下部にあるミラーボールすべてが黄色に激しく輝いた。

なんだこの眩しいほどの輝きは?確かまだこの距離ではどのユーオにも発見されないはず…。いったい何をしようとしているんだ…?

今まで冬樹らが遭遇したことのある個体は通常種である、スカウター(偵察)、アグレッサー(攻撃)、ガーディアン(防御)、コントローラー(補助)、サボタージ(妨害)、オブザーバー(統率)であるが、教えられた限りでは100m離れていればまずどの個体からも気づかれることはないということだった。それゆえに冬樹が感じたように他のメンバーも同様にそれを思い出し、今から何をするのかとその不思議な発光体を棒立ちで眺めていた。しかしその時、桜園は何かに気づいたのか、慌ててポケットから何かを取り出し、焦った様子で大声を出して叫んだ。

「緊急回避して!!!!!」

そして桜園はそのポケットから取り出したものを持っている銃に押し込み、タイムラグなしですぐ放った。すると同時にミラーボールが一気に輝きを増して、中心から巨大なエネルギー光線が発射された。そして視界が光一色で染まり、世界が暗転した。


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