瞬雷のゲイボルグ
腹を貫かれたハイオーガは、そのまま動かなくなった。
血が地面に広がっていくが、俺は特に気にも留めない。
生きていようが死んでいようが、もう勝負は終わっている。
「……弱い、か」
そう呟いてから、少し考える。
いや、違うな。
弱いわけじゃない。
足りなかっただけだ。
力も、速さも、経験も。
どれも人間やモンスターとしては上澄みだったのだろう。
だが――
「“勝ち方”を覚えた時点で、限界ってことか」
俺は踵を返す。
シルバーウルフは、しばらくその場から動けずにいた。
目の前で起きた出来事を、どう処理すればいいのか分からないのだろう。
「……神田」
「ん?」
「お前は、何者だ」
少し考える。
だが、答えは出なかった。
「知らん。俺もそれを知りたい」
嘘ではない。
本当に、そう思っている。
この世界に来てから、何かを“頑張った”記憶がない。
出来ないことがない。
だから、成長という感覚もない。
気付けば出来ている。
理解する前に終わっている。
「神の御使い……ではないな」
「さぁな。神に会ったことはあるが、別に何か貰った覚えもない」
シルバーウルフは、低く唸った。
「……ならば、お前は“神才”だ」
「なんだそれ」
「天才は、世界の中で最適解を選ぶ存在だ。
だが、お前は違う」
ウルフは俺を真っ直ぐに見た。
「世界の前提そのものが、お前には通用していない」
その言葉は、なぜか妙に腹に落ちた。
なお、シルバーウルフは面白いからという理由でついてきてくれた。一瞬大騒ぎになったが、従魔という扱いになったので、問題はクリアした。
毛についてはシルバーウルフに手伝って貰い、殺しはしなかったが、他のウルフには可哀想なことをした気がする。
ギルドに戻ったのは、その日の夕方だった。
依頼の報告を済ませると、ギルド内がざわつく。
理由はすぐに分かった。
視線の先にいたのは、一本の槍を持った男。
立っているだけで、空気が張り詰める。
冒険者達が無意識に距離を取る。
――強い。
だが。
(理屈型、か)
立ち姿、呼吸、視線の運び。
全部が“整いすぎている”。
俺が観察していると、ゲイボルグの視線がこちらに向いた。
一瞬で、互いを認識する。
「……お前、さっきのクエスト帰りだな」
「そうだが」
「面白い。
計算できない存在に、初めて会った」
周囲が息を呑む。
――始まるな。
ギルド内で、天才が天才を測ろうとしている。
だが、それは一つだけ致命的に間違っていた。
(測れると思ってる時点で、もう詰んでる)
俺は槍を見た。
次の瞬間、ゲイボルグは理解することになる。
天才と神才は、同じ土俵に立っていないということを。




