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令嬢、惜しむ

クラリエル学園の敷地の一角にある演習場、そのあちらこちらでカンッ、カンッ、と木のぶつかり合う音が響く。

ある者は木の剣を振るい、ある者は受け止める。

放課後、この演習場は騎士団の鍛錬の場となる。


クラリエル学園には騎士団が存在する。

公式の、国王直属ではなく、あくまで学園のために在る騎士団で、ほとんど部活とシステム自体は似ている。

この学園騎士団で優秀であると認められれば、王国騎士団への近道となる。


実際、ここにいるほとんどの生徒が王国騎士団を目指し、日々鍛錬している。

第2王子であるアーロンも属しており、現在は彼が指揮をとっている。

いずれ王国騎士団の団長になるのでは、と噂されるほど、彼は優秀である。


そしてもう一人、際立って優秀な者がいる。


ズザッ、と誰かが地面に倒れる音がした。

一人の男子生徒が尻餅をつく目の前には、彼に木の剣を突きつけるクレアの姿。


アーロンに次ぎ学園騎士団で優秀な人物。

女性でありながらその技術はもちろん、策士としても一流である。

入団当初は女性だからと侮られることも多かったが、今では彼女を慕う者が多いほどである。



「残念だったね。でも昨日より良くなってるよ。

ちゃんと教えたこと、出来ているね、偉いよ。」


そう言いニコリと笑い、彼に手を差し出す。

男子生徒は褒められたことが嬉しいのか、少し頬を緩ませながらその手を取った。


「次は視野を広く持ってね。

狙う箇所だけををずっと見ていると、相手に次の手を読まれてしまうし、複数人相手だと別の相手にやられてしまうからね。」


「はいっ!気をつけます!」


「うん、いい返事だね。

力は抜いてね、でも緊張感は持っていて。

油断した時が相手にとって、一番の狙い目だから。」


そう言って笑いかけ近くにあったタオルを彼に渡す。

そして自分もタオルを持ちその場を離れていく。

そのまま演習場を抜けようとした時、ふと目の前に影が差す。

見上げればクラスメイトのネイトの姿がそこにあった。


彼は騎士団の人間ではないし、クラスでの用事も無かったはずだ。

エリオットには騎士団の鍛錬に出ていることをつい先ほどメールで送ったから、連れてこいなどと言われるはずもない。

そもそも彼は誰かに何かを強要する事がとても苦手な子だから。

ネイトが来た理由を考えるも何も思い浮かばないクレアはとりあえずそれとなく探ろうと口を開く。


「やあネイト、珍しいねこんな所で。

アーロン様に何か用事?彼なら「エリカに、あったよ」


そういうとクレアは一瞬顔を強張らせたものの、すぐにいつものように笑みを浮かべる。


「へぇ、それで?」


「クレアのこと、すきだって。」


「……そう。」


そう言ってタオルで口元を覆う。

そして何かを考えるように黙った後、タオルを外しネイトをまっすぐ見つめる。


「ネイト自身は、彼女をどう思った?」


「いいこだなあって。」


「そう、ならいいよ。

悪いけど、先に失礼するよ。」


そう言って笑い、ネイトの横を通り過ぎていく。

そんなクレアの後ろ姿を見て、ネイトは一人優しげに笑っていた。

しかし、彼女の後ろ姿が見えなくなった頃、あ、と声を漏らす。


「あめ、おしえるのわすれてた。」








カツカツとクレアの吐いているブーツの音が校舎の廊下に響き渡る。

時折すれ違う生徒から時折挨拶をもらい、軽く返しながらとある場所へ足を進めていく。

ほんの少しではあるが、いつもより歩く速度は速いように思える。


ふと彼女が外を見ると、ちょうど雨が降り始める。

ポツポツと校舎の窓に水滴をつけ、やがてサーと雨音が辺りを包む。

それを見てクレアは歩みを送らせ、やがて止めた。


「残念。」


残念そうにしながらも、その口角は上がっていた。

そして彼女はクルリと踵を返し、いつもの速度で元来た道を帰っていった。

クレアちゃんキャラぶれてね?大丈夫?

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