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百色眼鏡  作者: 八木うさぎ
第1章 色眼鏡
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無色透明な世界⑤

 家に着いたのは二十時前のことだった。だいたいいつもこのくらいだ。

 ばあちゃんが用意してくれていた夕食をとり、軽く湯船に浸かったあと、少しだけ参考書ーー普段なら教科書を開き、授業の内容をざっとさらうのだが、生憎と今日は授業がなかったので参考書を選んだーーに目を通し、いくらと経たないうちに布団に入った。時刻は二十二時にはまだなっていなかったと思う。



 基本、俺は四時に起きるようにしている。

 それから六時までは適度に休憩を織り交ぜながら自分の勉強へと時間を費やす。

 もはや普通の高校生が起きるような時間でないことは重々承知だが、この時間帯だと俺の家を含めた都営住宅全体が静まり返っているようで夜よりも俄然勉強が捗るのだ。そのことに一年ちょっと前に気づいた俺は、合理性を重視して早起きを習慣づけた。



 ただ、朝からいきなり猛勉強をしてしまうと、日中にガス欠になる恐れがある。だから六時になったらジャージに着替えて室内で適度なトレーニングをし、その後に外に出てランニングをするようにしている。こうすることで、溜まった勉強疲れやストレスが発散できるし頭もリセットされて、再び勉強への意欲も不思議と沸いてくるのだ。

 ただまあ、最初に言ったように日中ガス欠になっては本末転倒なので、それらにも熱を注ぎ過ぎないように注意している。



 健全な精神は健全な肉体に宿る。

 鈴鹿は俺の口癖みたいなことを言っていたが、もともとこれは過労で死んだ父さんがよく口にしていたことだ。その父さんが死んだんじゃ説得力もクソもないが、考え自体は間違っていないと思う。だから俺はこの日課を欠かさない。たとえ雨の日だろうとも台風の日だろうとも。

 こんなふうに言うとちょっとした強迫観念や義務感からそうしているように聞こえるかもしれないが、俺は俺でこの日課を楽しんでいる。



 ランニングを終えて帰宅し、シャワーを浴びて制服に着替えて朝食をとる。

 ここで一食分まるまる食べてしまうと眠気が襲ってきてしまので、玄米と味噌汁を少々といったくらいに済ませる。

 これらを遅くとも七時半までには終えて、そして通学だ。

 


 前にも述べたように、俺は家から近くて学費が安い高校を選んだ。そして学校は徒歩でも二十分とかからない場所にある。

 八時にもならないこの時間に学校に到着しても基本的にはまだ誰もいない。せいぜい部活動に入っている連中が何人か来て朝練をいているくらいだ。

 静まり返った廊下を進んで教室に向かい、自分の席に着いたら、それから誰かが近寄って来るまでの間は朝起きてから取り組んだ内容の復習をする。



 八時を過ぎると廊下から人の歩く音やら声やらが聞こえてきて、二十分にもなると一定の騒がしさが充満してくる。

 このくらいになると集中して自分の勉強をしている余裕はない。たまに、まだ前日の授業の内容についての質問をしに来る奴もいる。そういったことを踏まえて、この時間は俺も前日の授業の復習と今日の授業の予習を行うようにしている。



 そして八時四十分になると朝のホームルームが始まり、そしてその十分後には一時限目が始まる。そうなったらもう、俺の自由時間が再び到来するのだ。

ようは内職だ。



 俺の成績が突出しすぎているため、何をしようとも、どの教師からも何も指摘されないのだ。

 教師からしてみたら自分の手を煩わせることなく生徒の能力が勝手に向上していくのだから、下手にムチを振るうよりもアメを与えて放し飼いにしておいた方がいいということだろうか。

 どんな思惑なのか本当のところは定かではないが、俺にとっては願ったり叶ったりなので俺も何も言わない。いわば、一種の暗黙の了解と化している。



 それでもまれに、割り当てる順番の関係とかで教師が俺に問題を当てることがある。

 だが、朝の予習をしておけば授業中にどんな問題に取り組むのか事前にわかるし、一時間分の進捗も大方予想がつつく。答えに窮したことは今まで一度たりともない。



 そんな俺も、さすがに実技の授業だけは内職ができないので、仕方なく真面目に受けている。

 とはいえ、本当に嫌なのは音楽と美術だけだ。保健体育はストレス発散になるし、家庭科はあれで意外と学ぶものが大きい。料理はもとより、裁縫も学んでおいて損はない。ある意味では一番将来役に立つ授業といっても過言ではない、と俺は密かに思っている。 




 昼になれば、みんなが昼食をとりに三々五々になる。

 そんななか、俺は毎度のように一人図書室に向かっては参考書を片手に板状のチョコレートを頬張っている。

 とは言っても一枚丸ごと食べるわけじゃない。通常の四分の一ほどだけにとどめる。飲み物以外にはそれだけだ。



 その様子を初めて見た奴は、こぞって「そんなので足りるの?」と聞いてくる。

 もちろん足りるわけがない。いつも腹がぐうぐう鳴っている。

 でも俺だって逆に聞きたい。そんなに満腹になるまで食って眠くならないのか、と。



 これは俺だけなのかもしれないが、俺は空腹よりも眠気の方が我慢できない。それを理解しているからこそ、昼に、一日の半分しか経っていないその時間に、時間を無駄にするようなことをしたくはないのだ。まさに、背に腹は代えられないからな。



 さすがに昼ともなると、俺に質問に来るような奴はほとんどいない。だいたいの奴らは昼食後は校庭に出るか、教室で携帯を片手にだべっているかのどちらかだ。

 きっと普通の高校生にとっては貴重な自由時間なのだろう。ましてここは底辺の学校。そもそも図書室に来るような奴も全学年合わせても極めて少ない。ともすれば、昼の時間の開始直後から図書室にいるなんて、俺以外にはせいぜい窓口当番の生徒くらいのものだ。



 狙い目はその瞬間だ。

 その瞬間、学校内で唯一、俺の周りから人目が皆無となるような束の間が成立する。

 そこを狙って、何かしらの伝言があるときだけ鈴鹿は俺の前に現れることになっている。

 


 現れたところで、互いに言葉は一切発さない。俺の席の後ろを立ち止まることなく素通りし、そしてそのまま奥にある本棚の迷路へと向かい、適当に本を物色するフリをして、そしてしばらくして図書室を出て行くのだ。



 一見した限りでは何のやり取りもしていないようでいてその実、鈴鹿はあらかじめ用意しておいた、伝えたいことを記したメモを幾重か折りたたみ、俺の足元に落としていく。そして鈴鹿が図書室を去ってから、適当なタイミングで俺がそれを拾うーーこれが、俺たちなりの緊急伝言のやり取りの仕方だ。



 これなら、例えば急遽俺の都合が悪くなって放課後に鈴鹿の家に向かえなくなった場合でも、鈴鹿と同じくメッセージを用意し、前もって俺の席の近辺にそれを落しておけば、鈴鹿にそれを拾わせることで無言のメッセージを送ることができる。万が一鈴鹿でない奴が来た場合には、そそくさとそれを拾い上げればいい。



 これが普通の高校生ならこんなことをしなくても携帯電話で隠密に連絡を取り合うことができるのだろうが、俺が携帯電話を持っていないばかりに、こんな古めかしい方法を取らざるを得なくなっている。もっとも、だからといって携帯電話を買う気にもならないが。

 ちなみにそのメモは、当然ながら学校内で捨てはしない。秘密裏に隠し持ったまま、鈴鹿の家で処分することにしている。あとで誰かに拾われたりしようものなら火に油だからな。



 昨日だって、チョコレートを頬張っているところに鈴鹿がやってきた。

 勉強を教える者と教わる者という関係である以上、普通であればテストの出来具合を互いに語り合うような状況だけど、そうであっても一言も交わさずに、さっき述べた方法でメッセージのやりとりをした。



 鈴鹿が去ってから少しして床に落ちたそれを手に取ってみると、『今日、急に学級委員会が開かれることになったから、遅れちゃうと思う。先に家に行って待っててね』と書かれており、だから放課後になるとさっさと鈴鹿の家に向かい、遠慮なく合鍵を使って中に入っていたーーといったところだ。



それにしても、打ち合わせとは一体何だったんだろうか。

 今日は五月八日の水曜だ。そして修学旅行は今週の土曜日、つまり明々後日のことだ。ここにきて、こんな直近で予定が変更となったのにもおおいに疑問だが、それを学級委員にのみ知らせて他の生徒に周知しないというところがどうにもきな臭い。

 つまり、伝えないでいた方が良い結果を生むということなのか?

 


 なんだろう。想像がつかない。

 ……まあどうでもいいか。どうせすぐにわかるし。



 そんなことを朧げに思いながら教科書に目を通してしばらく待ってみたが、鈴鹿は現れなかった。つまりそれは何も問題ないということだ。今日は予定通り、このまま放課後を迎え、各自鈴鹿の家に向かい、そこで落ち合うという段取りになる。



 昼休みが終わって午後の授業になっても、学年一位の優等生というレッテルを張られた俺に与えられた免罪符は当然のように有効に働く。引き続き内職に勤しむ。

 そんなことをしていると授業もあっという間に過ぎ去り、一気に放課後を迎えた。



 帰りのホームルームが終わると、当番の者は掃除を始める。

 中学のときは昼休み中に掃除をこなしたものだが、この高校では放課後に当番が掃除を行うことになっている。それ以外の者は、帰るか、昼と同じように何人かで駄弁っているか、もしくは部活動に向かうか、その三つに大別される。



 今日に限って言えば、駄弁っている奴がいつもよりも多く散見した。いよいよ修学旅行が明々後日から執り行われるということで、もう用意は済んでいるかどうかとか、所持金はいくらにするかとか、高校三年生にもなって小学生みたいにそんな話がちらほらと聞こえてくる。

 俺はそんなふうに時間を無為に過ごすのは嫌だし、部活にも属していないので、そそくさと帰ることにした。



 靴箱にまで来ると、学年問わず、すでに運動着に着替えた生徒やらが散在していた。そのなかには少しばかり見知った三年生の顔もいくつかある。 

 今はまだ五月なので、三年生でも部活動に在籍している者も少なくない。ただ、半年後に大学受験を控えていることを考えると、俺からしてみれば狂気の沙汰としか思えない。



 そもそも、煩わしくはないのか、と思う。

 必要以上に同級生の交流が深まり、上級生のご機嫌を伺いつつ下級生の面倒を見る。それを毎日数時間、週に五日間ほどこなす日々。一年の初めから三年の引退の時期まで累計すると、そんなことがおよそ二年半続くワケだ。

 俺からしてみれば、はっきり言って無駄な時間だ。



 俺はこの学校で積極的に交流を深めたいとか考えてはいない。

 この学校の蛆虫どもと繋がりを強固にしたって何の得もないからだ。それは教師にも言えることだが。



 あくまでここは大学までの通過点でしかない。

 あくまで俺がしているのは処世術の習得。

 不要な関係は無用。

 だから、勉強の質問を受ける以外に俺の方から積極的に誰かと話すなんてことは基本しない。

 ただし、勉強だけ教えてそれ以外は黙っているとなるとそれはそれで変だから、社交性を捏造するために、どうでもいい話を適度にしているくらいだ。そんな俺が部活に入ると思うか? って話だ。



 だからこそ俺は他の生徒とは違って何のしがらみもなくそそくさと帰宅できるわけだが、それがそうもいかないこともある。女子が質問と称して周りにたかってきたりして、しかも無駄話が延々と続くことがあるのだ。



 休み時間は限定的であるため、仮にどんなに込み入った話に反れていたとしても、次の授業が始まるせいで遮られ、必ず終えなければならない。だが放課後になってしまえばそれがなくなる。

 仕方なくそれに付き合っていたりすると、そんな様子を見かけた他の女子がまた群がってくる。そんな悪循環に陥ってしまうことがたまにある。



 一年生の頃はまだ我慢できたが、三年生になり、しかも鈴鹿の件もある身からすると、それは我慢ならない。

 ただ、そんな面倒ごとも脱兎のごとく校門さえ出てしまえば関係なくなる。

 後は例によって鈴鹿の家に向かい、そこで鈴鹿の帰宅を待ち、それからあいつの勉強を始める--とまあ、これが最近の、俺の一日のおおまかな流れとなっている。 



 いつものように合鍵を使って入ると、例によって家には誰もいなかった。

 住人の許可も得ているし、ちゃんと合鍵を使ってのことだ。なのに、まるで空き巣にでも入ったような後ろめたい気分に毎度なってしまう。俺が神経質なのだろうか。

 


 とはいえ、仮に本当の空き巣が入ったとしても、この家からは盗めるようなものなどないだろう。

 家財は大型家電や机や椅子と持ち運びしにくそうなものから百円均一で売ってそうな食器類といった必要最低限のものしかない。そうすると残りはせいぜい衣類くらいのものだが、それでもたかが知れている。

 凝った内装などあるはずもない。一言で殺風景なのだ。そこから一体何を盗むというのか。

  

 

 盗まれるようものがないということが、はたして幸せなのか、そうでないのか。

 そんなことを頭の片隅で思い浮かべながら、机に荷物を置き、椅子に腰を下ろす。壁の時計を見つめ、考える必要のないことに意識を向かわせて、黙々と鈴鹿の帰りを待つことにした。

 昨日と違って、今日はメモがない。いくらも経たないうちに帰ってくるだろう。



 しかし、予想に反して、それから一時間半もの時間が経った。



 ……どうしたんだ、一体。

 どうして帰ってこない。

 確かにメモはなかったはずだ。初めてじゃあるまいし、今になって見落とすはずもない。

 ということは、……どういうことだ?



 直前まで、普通に帰ってこようとしていた。けれど、急遽そうできなくなってしまった、とか。

 そんなことあるか? たとえばまた学級委員の集まりとかか?

 いや違う。それならあいつはちゃんとメモを残す。昨日みたいに。



 午後になって、もしも緊急の用事ができた場合には、靴箱の中にメモを入れるように取り決めている。蓋もついているので基本的には安全だが、だからといって誰かの目に触れる可能性を否定できない。過去には靴を隠されたことだって一度だけあったし、女子から迷惑な手紙が入っていたりすることもたまにある。この方法を主流にしないのには、この懸念があるからだ。



 けれど、その靴箱にすらメモはなかった。もちろん見落としもない。

 じゃあ何だ? 他に何が考えられる?

 まさか……まさかとは思うが、本当に事故に遭ったんじゃないだろうな。



 突如沸いた疑心暗鬼が幅を利かせ、途端に言いようのない不安が襲ってきた。

 瞬間、俺は半身を翻して立ち上がり、玄関の横の受話器を見つめた。

 すぐそばには、鈴鹿を始めとする家族の携帯電話の番号が一覧となって手書きで記されたものが壁に張り付けたあった。ここからあいつに電話をかけることは可能だ。



 ……いや、待てよ?

 もしも鈴鹿が事故に遭ったとして、そうだとしたら親族への連絡とかなんとかで、この家にも電話がかかってくるずなんじゃないのか?

 俺がここを訪れてもうすぐ二時間だ。それだけあれば、この電話も一度くらいは鳴っていてもいいはず。それがなかったってことは、……やっぱり取り越し苦労なのだろうか。

 


 いずれにせよ、電話をしてみよう。安否を確認する必要がある。

 不測の事態を考えたのは昨日も同じだ。だが、昨日とは事情が違う。嫌な予感を裏付ける証拠がある。

 万が一予想が当たっていたとしても、この訳もわからず悶々としているのと比べれば、前進するだけマシだ。

 けろっとした様子で電話に出てくれれば、せいぜい俺が赤っ恥をかくだけ。それならそれでいい。

 あいつが無事ならそれでいい。それでいいんだ。



 意を決し、受話器をとって、張り紙を見ながらプッシュボタンを押していく。

 ボタンを押す指が、受話器を持つ手が、震えている。はなから()()だと思い込んでいるかのように。

 そして通話ボタンを押す瞬間、生唾を飲みこんだ。それでも震えは止まらない。受話器が重く感じる。

 わずかの間、受話器は無音だった。そして次の瞬間ーーコール音が起こると思いきや、アナウンスが流れた。


 

 電波が届かないところにいるか電源が入っていないか、といった内容を囁かれる。とりあえず受話器を戻した。

 電源が入っていないというのは考えにくい。電波が届かないところにいるという可能性も微妙だ。携帯電話を持っていないからそういったことには詳しくないが、学校で聞いている限りだとそういうことが起こるのは山奥とか、限られた場所だけらしいし。



 でなかったわけじゃない。繋がらなかったのだ。これが何を意味するのか、俺には考えが及ばない。

 あいつが無事なのかどうか、わからない。


 

 ……縁起でもない例を敢えて一つ、あげるとしたら。

 まさかとは思うが、あいつ、病院にいるのかもしれない。

 事故で搬送されて、手術中とか。

 たしか、病院内では携帯電話の影響を受けやすいような機器が密集している場所ーーたとえば手術室や医療室は使用禁止となっている。そうと考えれば電話が繋がらないのも納得がいく。



 でも、単に電話が繋がらなかっただけじゃないか。それだけであいつが事故に遭って手術中だなんて考えるのは早計過ぎやしないか? 

 百歩譲ってこの予想が的中しているとしよう。でも、あいつが搬送されたのがどこの病院なのかが俺にはわからない。

 つまる話、今の俺が予想しえる範囲はこれが限界だということだ。



 こう考えてているあいだにも、鈴鹿が「ごめん、君島くん、また遅れちゃった」と申し訳なさそうに謝る姿が飛び込んでくるのではないかという期待が溢れて止まらない。

 そうだったとしたら怒る。でも、許す。

 これで昨日みたいに、玄関を開けたのが美乃梨とかだったら……美乃梨?



 そうか。あいつがいた。

 たしかあいつは今日、今この時間もあのエトワールで働いているはずだ。

 もしも鈴鹿に何かあったら、まずあいつのところに電話がいっているかもしれない。それで、あいつが家には誰もいないからとか進言したせいでここに電話がかかってこなかったとか。一応その可能性もあり得る。

 店はここから五分と離れていないところにあるんだ。すぐ行ける。すぐ確認できる。

 


 そうして俺は、荷物も持たずに玄関を飛び出した。

 とはいえ、施錠はしっかりとしておかなければいけない。自分の家ならまだしも他人の家なら尚更だ。玄関まで小走りになって戻る。



 鍵をかけている最中、ふと玄関の脇にある鉢植えに眼が奪われた。

 数輪のスミレが植わっているのだが、その花弁が黄色い。

 スミレというものは文字通りスミレ色のものしかないものと認識していた俺に、スミレには黄色も白も、そしてピンクもあるのだということを鈴鹿が語っていたのを思い出す。たしかこれはキスミレという品種だったと思う。

 そのスミレの黄色い花弁が、枯れていた。

 鈴鹿から聞いた話だと、花期は四月から五月。まだ枯れるには早い気がする。

 嫌な予感がした。


次話で一章が終わる予定です。

二章から、修学旅行に向かい、肝試しが行われる、といった内容の話になります。

ただ、次話が投稿できるのがいつになるのか、現段階ではわかりかねますので、貴重な時間を割いてここまで読み進めてくださったみなさま、頭の片隅でこの『百色眼鏡』のことを覚えておいて頂けたらと光栄です。


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