01
小さな泡が水面に近づいていく。
泡はぷかぷか頼りなく水の中を浮上していき、そして、水面から顔をだした瞬間に姿が分からなくなる。
私は、その泡の中のどれか一つ。
けれど、空気と混ざり合ってしまったら、見分けがつかなくなってしまった。
私はだあれ?
私っていったいなに?
そんな風に悩んでいたら、誰かが私に呼び掛ける声がした。
その言葉を聞いた私は、さっきまでの悩みが嘘の様に自分の姿を思い出していった。
君が好きな私。
君に助けられた私。
君の事が気になっている私。
どれも君に関係していることで、他社に依存しているように見える。
けれど、それでも私は私だとはっきり言える。
そんな私は、君といつまでも一緒にいたいけど、君はどう思っているんだろう。
水城友理奈。
名前を呼ばれた私は、はいと返事をして教師の問いに答える。
友理奈ちゃん。
友達に笑顔を向けられた私は、うんと言って同じ表情を作る。
周囲の空気に応じて、人が求めている私を作る。
それが私。
だって小さい頃からそれが当たり前だったもの。
私が育った家庭は、たぶんあまり良くない方。
お母さんとお父さんが絶えず喧嘩をしていたから。
だから私は二人の間で、邪魔にならないように良い子を演じているしかなかった。
でも、そんな努力はちっぽけでしかなくて、この間ついに命を落としかけてしまった。
なのに、それでも彼が奇跡の様に私の前に現れて、私を助けてくれた。
この間、白亜君とデートをしたけど、ちょっとあれだなって思ってしまった。
白亜君は、自分の事冷たい人間だと思ってるけど、きっとそうじゃない。
ただ、人にやさしくするのが不器用なだけなんだ。
怖がりで、臆病で、手を伸ばすことに時間がかかるだけ。
本当の白亜君はとっても優しい人だと思う。
けど、白亜くんはそんな自分に全然気が付いてくれないから。
私が本当の白亜くんの姿はこうだよって教えて上げられたらいいなって思う。
でも。
白亜君が女の子を助けるのはちょっとむっとしちゃうかな。
白亜くんって、ほら。
ちょっとカッコいいところあるじゃない?
面倒くさがりつつも、面倒みてくれるところとか、けっこう可愛いじゃない。
そんな白亜君の事好きになっちゃわないか不安。
水城さんには、ぴったりの子がいるから大丈夫そうだけど。
乙女心って、色々と大変みたい。
そんな白亜君が、たまに私に昔の事を話してくれる。
自分は不思議な力を持っていてうんぬん。
昔はそうじゃなくて、かんぬん。
私は難しい事は分からないけど、その話は白亜君にとってきっと大きな出来事なんだろうな。
人を信じたくて、助けたくて、力になりたくて、
誰かに必要とされたくて。
そんな白亜君が今の白亜君になった理由を私は耳にするたびに、心がきゅっとなってしまう。
彼がその昔の出来事をきちんと消化できるようになればいいなと思ってしまう。
私じゃ癒せないかな。
力になれないかな。
こういうのって難しいね。
美術館デートの終わりに白亜君が高坂先輩のことを話してくれた。
自分の力?のことも。
あとはずっとずっと昔についた傷のこと。
とっくに傷跡になってしまった、治らない過去の話を。
親しかった誰かを守りたくて一生懸命な男の子がいて。
それでも守れなくて。
何かをやるたびに、それが悪い結果を読んでしまった。
そして男の子は最後に、大勢の人に嘘吐き呼ばわりされた。
とてもかなしい、話だった。
私は君の傍に寄り添う事しかできない。
話を聞く事しか。
もっと他にできることがたくさんあったらいいのにな。
いつか君の心の傷が癒えるといいな。
嘘吐きだなんて私は思わない。
その傷を治す薬でありたい。
きっと今も未来も、どんな時だって私は白亜君の言葉を信じるから。




