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ただすれ違っただけの君を助けたい 月城白亜の物語  作者: 透坂雨音
月城白亜の物語

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12/30

11 君の一言



 また、次も。

 暇な時があったら。

 一緒に買い物をしよう。


 この短い言葉をひねり出す為に、僕がほんの少しの苦労をした事を君は知らない。知る必要はないと思う。


 そうして僕達は別れた。

 メールアドレスを交換して。


 これで、今度は偶然僕の携帯に君のメールが届くなんて奇跡は起きないだろう。

 もしあるのだとしたら、それは必然だけだ。


 一番最初の、始まりの時の無言電話の様に。

 偶然辿り着いてしまうなんて、ことはもう起きない。


 彼女は僕を避けることができるのだ。

 そして……彼女は僕をあえて選ぶ事が出来る。


 もう彼女は、顔も見えない。言葉も交わした事のない誰かに助けを求める事はしないはずだ。


「友達第一号だね」


 なんて、笑った君のアドレス帳には本当は何人の名前が乗っていたのかなんて、僕が知る必要はないのだろう。


 普段の彼女は知らない。

 でも、想像通りなら、彼女の周囲にはきっと僕が思っているより多くの人間がいるはずだった。


 君の背中を見送って僕は歩きだす。


 向かうのは家じゃない。

 目指すのは君の家。


 馬鹿げた行為だ。

 昔の僕が今の僕を見たら、正気を疑う。


 ただすれ違っただけの君を、本気で助けたいと思っている僕がいるなんて。


 関係ない他人だっただろう。

 昨日までは知り合いですらなかったのに。


 何度もそう思った。

 けれど答えはもう出ている。


 だから僕は、もう足を止めなかった。







「ただいま」


 君の姿が君の家の中に消えた。

 それからどれくらいの時間が過ぎただろう。


 僕は君の家の前にいる。


 たまに通行人に不審がられる。通り過ぎて行った人に振り返られる。

 けれど、無視した。


 そしてごくごくたまに話しかけられもした。

 そういう場合は、適当にごまかした。

 きっとあとあと面倒になるのだろうけど今はどうでも良い。

 

 いい加減な僕だ。

 彼女を助けると決めたのなら、もっとしっかり怪しまれないようにするべきなのに。


 携帯を取り出して画面を見る。

 着信はまだ。


 鳴らない。

 鳴らない。

 鳴らない。


 僕は決めていた。

 君が助けを求めるまで待とうと。


 僕は確かに君を助ける為にここに来たはずだ。

 けれど、僕は自分の意思をこれ以上押し付けたくはなかった。

 僕の醜い勝手な思いで、彼女の世界に土足で踏み入りたくなかったんだ。


 違う。

 怖いんだ。


 今更、君に言われるのが。

 助けてほしいなんて言ってない。って言われるのが。

 そうやって拒絶されるのが。


 人を助けるのが。怖い。

 その人が、生きながらえてしまった人生に責任を持たなきゃいけないのが。

 残りの人生に責任を持たなくちゃいけないのが。

 余計な事をしたとなじられるのが。

 思い上がりを指摘されるのが。

 運命を変えられると思い込んだ事をあざ笑えるのが。

 生きる意味を失ってしまった人の、絶望を目にするのが。

 その絶望を、僕が作ってしまう事が。


 生きながら責められ続けるのが怖かった。

 生き地獄に放り込まれるのが怖かった。


 死んだ人間は僕を責めない。

 責める為の口がもうないんだから。


 君は、一体何を望んでいるのだろう。

 助けて?

 それは本当に君の本心?


 臆病でごめんなさい。

 待ってます。

 だから、僕が君を助ける事が出来る一言を。

 どうか下さい。



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