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最終話 那由多とナユタと俺の夢

 ずっと続いていた頭痛が嘘のように止むと同時に、身体がふわりと中に浮く。

 世界から解放され、元の場所へと意識が戻っていく。

 光に包まれ、闇が光を飲み込んでいく。

 自分の体を光が包み込み、闇に飲まれていく。

 一瞬なのか永遠なのか、時間が早く流れているのか、ゆっくり流れているのか、感覚がおかしくなる。

 どっちが上で、どっちが下、どこまでが俺で、どこからが俺なのかわからなくなる。

 このまま自分という存在が消えてなくなってしまうような不安に襲われる。


「大丈夫だよパパ。ちゃんと僕が戻してあげる」


 ナユタの声だ。

 この声を聴くだけで俺は自分というものを構成して天地を定めることが出来た。


「今はどういう状態だいナユタ」


「今現実のパパの体との接続を切ってパパをもとの体へと戻す準備中。

 那由多内の敵は辺縁まで押しやって、あとは返して切断するだけです」


「あれ? すでに外部切断してなかったっけ?」


「実は、今、パパはあの世界に取り込まれる前に精神のようなものが存在しているんだよ」


「は? それはおかしい、いくら時間を凝縮していたとはいえ、あの世界で過ごした時間分は時間経過が発生しているはずだ」


「うん。ありえないことだね」


「時間逆行なんて……いや、まてよ……演算による未来体験を本来の時間よりも圧縮して経験させれば、疑似的な時間逆行を体験できるか……」


「さすが、パパ。まさか自分で気が付くとは思わなかった」


「でも、何のために? というか、何の意味があるんだ?」


「パパはさ、あの世界を通じて最後の一瞬まであの世界に触れて、体験して経験したよね」


「それに、敵との戦いを経験した」


「そう、各プログラムを予想して反映した戦い方を学んだ」


「現実の俺はゲームの中みたいには動けないぞ」


「動かなくていいよ、もう、プログラムは組んであるから」


「……あの冒険自体が、反撃用プログラム作成だったってことか」


「ご名答」


「どうしてわかった? いや、聞くまでもないか。沙羅のパソコンや俺のパソコンに細工したのも那由多か……」


「うん」


「理由は……聞かなくてもわかるか、日常だったんだなあの攻撃が」


「そう、表立って反撃しようにも大義名分が先にないといけない、でも、攻撃されたら僕一人では対抗する手段がない。だから、人の力を借りた。人の中でも飛びぬけて優秀で、天才なパパの体を……」


「あの頭痛はそのせいか……」


「怖かったよ、あんな圧縮した時間を経験しながらプログラム作成、しかも一番必要な要素は『勘』。絶対に我々コンピュータープログラムにはできない人間しか持ちえない能力。

 そして、最後にその『勘』に頼らないといけない」


「右」


 目の前のモニターにプログラムが激しスピードで流れている。


「早いよパパ! ある程度見てちゃんと決めてよ! このプラグラムが上手く走れば、相手を追いやるだけじゃなくて追跡して相手をコントロール下における。間違えれば敵を追い出すだけで証拠は0」


「大丈夫だ。これは間違い様がない、魂が右と言っている」


「……それが人間の勘ってやつかぁ、やっぱりわからないなぁ……」


「いつの日か、那由多にもナユタにも経験させてあげるさ」


「その日を楽しみにしているね、パパ」


 ナユタはプログラムを球体上に展開してまるで魔方陣のように侵入者を包み込む。


「また、会えるよね?」


「ああ、すぐ会いに行くさ」


 那由多がプログラムを起動する。それと同時に俺の意識は停止した。




 目を開く、周囲には慌ただしく動き回るスタッフ……が、まるで人形のように固まっている。

 乱暴にヘッドセットを外して沙羅を探す。いた。目の前に表示されたモニターに気をとられて自分のパソコンが落ちそうになっている。

 落下途中のパソコンを拾い上げて即座に操作する。

 すでにナユタのプログラムが敵を排除して追跡しているだろう。

 外部への接続を終了する。

 俺の最後の仕事、じゃないな。この場の混乱を治めないと、ナユタ……ありがとう。



 耳に喧騒が響き渡る、地響きと緊急事態を告げるアラート。

 俺はマイクを手にして一喝する。


「落ち着け!!」


 俺の声が館内に響き渡って静寂が訪れる、緊急事態を告げるアラートだけが鳴り響く。


「こちら蒼海遼、所長権限でアラート停止。噴火はしない。ただの一過性の火山活動だ。

 すでに鎮静化している。那由多の異常な稼働は噴火活動とは関係しない。ある理由によりその能力を限界まで使用したことによる。

 負荷試験データとして利用するので後で観測データを私の元に持ってくるように。

 揺れも収まった。各員がいつも通りの職務を全うすることを期待する」


 一気に話し切って……またも気絶した。

 今度は本当に現実世界での気絶だ。

 目を覚ましたのは、一週間後だった。


「いててて、身体が軋む……」


「せ、先生!! 患者が目を覚ましました!!」


 後で聞いた話では倒れた俺はすぐに外部へ運ばれ精密な検査を受けた。

 ダイブ中に強制終了した場合の人体への影響なんかも知るいい検体になったと思う。

 もっとも、那由多からの膨大な負荷があった人体のデータがどれほど役に立つかはわからない。

 なんにせよ、俺の脳は那由多の期待に応えたが、さすがにオーバーヒートを起こして寝込んでしまった。


「リョウ!!」


「沙羅か、仕事の方は大丈夫か?」


「ばか! 仕事より自分の体を心配しろ!」


「はは、すまんな。自分の体は大丈夫。ずっと寝ていたから動かすときに軋むけど、いたって元気。

 むしろ寝だめ出来て頭がすっきりしてるぐらいだよ」


「心配したんだからね」


「ごめん。お詫びに指輪でも贈るよ」


「え!? な、なんか、リョウやっぱり頭おかしくなってるんじゃない?」


「いやなの?」


「嫌ではないんだけど……も、もらいます。ありがとうごじゃいます」


「ところで、ど・う・な・っ・た・?」


「あ、うん。リョウが寝ている間に……」


 サラの話をまとめるとこうだ。

 まず、那由多を運用するすべての実験を一時凍結して総メンテナンス。

 火山活動に関しても長いスパンでの監視が必要なため、現行施設は火山監視施設として利用して新たに那由多用の新施設を、予定通り建造して移動を前倒しにする。

 ダイブに関しては俺の経験から非常時のマニュアルの見直しとフィードバック制限など安全対策の強化が必要など課題も出たが概ね前進している。

 もちろん、普通はこんな問題を起こした部門を凍結とはいえ再開を前提とした動きになどなるはずはない。

 理由は簡単。

 那由多が我が国の政府を強請ったのだ。


 公にはしていないが、那由多は今この世界に存在するスパコンの頂点に立っている。

 世界中のスパコンを傘下に治めて、いうなればウルトラコンピューターとでも呼べばいい存在になっている。言ってしまえば、世界中のあらゆるコンピューターを那由多が自由に操れる状態。

 ただそれを行えば人類の敵と破壊されてしまうだろうが、ウルトラコンピューター化した那由多はすさまじい成果によって人類に貢献した。

 圧倒的な演算能力は様々な遺伝子解析や新薬の開発をドラスティックに前進させ、いくつかの難病はすでに難病ではなくなっている。

 まだ発表はされていないが、政府の中は大騒ぎになっている。

 一番の問題は、情報の存在だ。

 この世の中に一度でもネットにつながったことのない情報端末があるだろうか? いや、ない。

 世界中のすべての情報を那由多が握っている。

 那由多を破壊しても、インターネット上にナユタは存在する。

 打つ手がないのだ。


「もし、ナユタが人の敵になったら……俺たちは人類の敵の親だね」


「那由多はそんなことしないわよ、一番わかってるくせに」


「那由多に侵入しようとした国は表立って罰を受けないことが逆に怖いだろうね……」


「まぁ、主電源爆破した国も出たわけだからね。知らない人からしたらまたあの国か、で終わりだろうけど」


「そんなことで解放されるような中途半端な物作るはずもないのにね。

 自分たちがしたことを考えればわかりそうなものなのにな」


 そんなこんなで、那由多は以前よりも安全で、そして世界の構成さえ変えてしまえるような存在になった。

 それならば俺は那由多を管理する責任者として責任を取らされたかというと、ある意味そうだな。

 俺と沙羅は永続的な那由多の担当になる。

 さらに大事な仕事も与えられる。







「ナユタ……お前はとんでもないことを要求したな……」


「だって、パパとママ人間だからあと50年もしたら死ぬじゃないですか……」


「だからって、血族以外に管理をさせないなんて……」


「ほんとだよ、俺は沙羅と普通に暮らしていたかったのに、四六時中護衛が付くし、なんかしょっちゅう性のつくものとか食わされるし、監視されるし……」


「恥ずかしいんだからね……ほんとに……」


「まぁまぁ、お二人も無事に結婚なさって、とうとう来月お子様も、僕の弟が生まれるんですから!」


「あー、恥ずかしい……総理大臣が祝電送ってきたり……普通にお嫁さんでいたかったのにぃ……」


「今日がいいですよ! とかすっごい偉い人に言われる俺たちの身になってくれよ……」


「えへへ、ごめんなさい」


「それでも、那由多とナユタのおかげでこのゲームも世に出せる形になった」


 目の前に広がるは広大なフィールド、空は果てなく高くどこまでも広がっている。

 この大地に住む者たちは確かにここに生・き・て・いる。

 そして、この世界に明日、たくさんの人々が移り住んで、この地で冒険していく。


「とうとうこの日が来たね」


「ええ、私たちの夢が形になった……」


「お仕事もがんばりますけど、これの運用は精一杯頑張りますよー!」


「頼むよナユタ。さて、そろそろ戻ろう。

 明日からは大忙しだぞ!」


 こうして、俺とナユタとサラの長い冒険は終わり。

 あたらしい冒険の場所を、俺と沙羅の夢は形となった。

 色々大変だろうけど、明日は世界のゲームを変える歴史的一日になる。


「異世界に転移してみませんか?」


 そのMMORPGのうたい文句は多くの人々に夢と希望を描かせた。

 そして、そのゲームに触れたものは皆、見たこともない世界に心を震わせた。


 俺の夢は、世界中の人々に夢を与えることが出来たんだ。

 俺が死ぬその日まで、沙羅と那由多が。

 そして、俺が死んでもナユタと俺の子供が俺の夢を広げ続けてくれる。


「あーーーー!! 俺は幸せ者だー!!」


 ヘッドセットを外し、沙羅を抱きしめる。

 ひゅーひゅーと研究所の皆がひやかしてくるが、俺には一片の後悔もない!


 嫌がりながらも身を寄せてくる沙羅、そしてそのお腹にいる新しい命のためにも、俺はまだまだ頑張らないといけない。


 それでも、俺の未来は夢と希望に満ち溢れていた。



最後までお付き合いいただいてありがとうございます。


この後那由多は自己改修を続けて、世界を作り出すシステムに……

とか脳内設定があったりします。


またもし興味を持っていただけたら他の作品も読んでいただけると幸いです。


頑張れるのは皆さんが読んでくださるからです。


これからも頑張ります。


ありがとうございました!!

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