第49話 崑崙
「まぁ、崑崙って言ったらそれだよね」
巨大な寅に似ており、頭上には9つの人面、9本の尾、その爪は全てを切り裂き、その牙は全てを食いちぎる。
神陸吾。
「四神かどっちかなと思ったけど、渋いほうを選びますねぇ……」
「ファイアーボール」「エアストライク」「ウォーターカッター」「アーススピア」「ホーリーセイバー」
「ダークソード」「ポイズンニードル」「アイスシャワー」「パルスインパクト」
突然陸吾の頭上の人面が魔法詠唱を同時に行い攻撃を仕掛けてきた。
「サラ!! 破魔の陣!」「マジックシールド!!」
突然の攻撃にとっさに対魔防御スキルを張る。サラも反応してくれた。
降り注ぐ魔法が障壁に当たってびりびりと大気を震わせる。
「いきなりかよ! サラ! いつも通りナユタを頼むぞ!」
同時詠唱9個はヤバすぎる。
初級魔法を使ってくるためにリキャストも短いことが予想される。
さらには陸吾はトラのような肉体を思う存分利用して肉弾戦も行ける。というかそっちの方が致命的な意味でやばい。
防御不能攻撃に武器防具破壊属性あたりが乗っていてもおかしくない。
「アンブレイカブルオール」
サラが敵のスキをついて補助魔法をかけてくれる。
俺にとって武器破壊は致命的だ。
まぁ、何もかもが致命的過ぎて、致命という単語が軽くなりそうだ。
猛スピードで突っ込んでくる陸吾の爪と牙を避けながらなんとか攻撃を繰り出そうとすると、頭上の人面の魔法が降り注ぐ。
「なんだよこれ、チートだろ!」
「避けられるリョウも大概ね……」
しかも拙いながらも魔法で攻撃したら反射された……全属性魔法反射とかね……
仕方がないのでチマチマチマチマ攻撃をしているんだけど……
「これ、自然回復してるよねエフェクト的に」
「だよね、ナユタがいてくれたら見てもらえるのにね……」
「もう集中してやるしかないね」
「リョウ、気が付いてる? 周囲の景色、どんどん浸食されているよ」
「ああ、だから時間をかけられないんだ。被弾覚悟ででかいのを当てていくしかない……」
「魔法は、私が防ぐ、物理攻撃だけ集中して」
「わかった。サラがそういうなら、全面的に信用する」
「ありがと、全力で、やってやるー!」
完全ガチモードのサラ。ナユタを守りながらも俺を援護する難題をきっと難なくこなしてくれる。
俺はそれを信じるだけだ、あいつが魔法は気にしなくていいと言ったら、気にする必要はない。
完全に直接攻撃だけに意識を集中して強力な一撃を積み重ねていくだけだ。
「こぉい!!」
せめてサラへの攻撃が向かないように大声でけん制してみた。自分への気合入れの意味もある。
陸吾はすさまじい速度で一直線に俺に向かってくる。
ある程度の距離になると人面たちが魔法を唱え始めるが、一切無視。
視線は陸吾本体から離さない、直前で急加速し目前に鋭い爪が迫る。
身をよじり、片方の剣で爪の一撃をギリギリで払い、その回転のまま通り過ぎる横腹にもう一方の剣をねじり入れる。ぎゃりぎゃりとまるで鋼鉄のような毛皮を切り裂いてその下にある肉をとらえる感覚が手に伝わる。
【GYYYYAAAAAA!!】
激しい悲鳴と同時に、着地に使用するべき腕がわき腹を切り裂かれて体勢を崩して地面を転がる陸吾。
「うおおおおおおおお!!!」
自己強化スキル全開で倒れた陸吾との距離を詰める。人面が次から次へと魔法をかけてくるが、俺の目の前でサラの支援魔法によって阻まれていく。
よろよろと立ち上がる陸吾の脇の傷はジュクジュクと回復しているが、まだまだダメージを残している。
ここに畳みかけていくしかない、俺の接近に抵抗して腕を振り回す。傷のせいか動きが悪くなり見切り安い、出来る限り引き寄せて指の間に剣を差し込んでやる。
腕を切り裂かれ半狂乱で噛みついていくる。鋭い牙が大きく開かれ俺に迫るが、俺からしたらでかい的が向こうから来てくれているような物だ。
ズクン
激しい痛みが頭を殴りつける。ぐらりと視界がゆがむが、ここで意識を持っていかれれば、死、あるのみだ。
「じゃーーーまーーーーだーーーーー!!!」
舌を噛み、その痛みで頭痛を吹き飛ばし意識を明確にさせる。
眼前に迫る大口に双剣を突き立てて左右に切り裂く。
上顎の牙が肩口を切り裂くが、その対側の下顎はかみ砕くことなくぶらりと下に垂れ下がる。
「まだまだぁ!!!」
そのままめちゃくちゃに陸吾を切り裂いていく、人面部分を、瞳を、鼻を首を胸を腹を鳩尾を下腹部を腕を足を尾を、斬って突いて、突いて斬って、力の続かんばかりに攻撃に攻撃に攻撃を重ねていく。
肩が痛んだが、気にしない。
頭が痛んだが、気にしない。
視界が真っ赤に変化したが、気にしない。
口の中が切れた舌からの出血で血なまぐさいが、気にしない。
斬って、斬って、斬って、斬った。
「リョーーーーウ!!!!!」
サラの声が遠くに聞こえる。
体が重い、頭が重い、意識が遠のく、最後の力を振り絞って陸吾の首に双剣を振り下ろす。
俺の体ごと叩きつけた一撃によって、ぶっ倒れた俺のそばにごとりと巨大な頭が落ちたことを認識して、俺の外部へのセンサーは全て停止したようだった。
ありていに言えば、気絶した。




