3 ファミリアと家族になりたくて
短いです。ここまでがプロローグになります。
爆発的な魔力の奔流が収束した先にいたのは銀色のもこもこだった。
「あらあら!可愛い!」
「大方の予想通り、だな。よくやったぞ、坊!」
全魔力を使い尽くして支えられているディンは茫然自失と言った具合だ。まだ理解が追いついていないのか、夢心地の様に目の焦点がぶれている。
彼を現実に戻したのは頬に伝わるザラリとした感触だった。舐められたのだと思い、顔をあげると赤い目と視線が絡み合う。
おずおずと手を伸ばせば、それは頭を差し出して受け入れる。暖かく、確かな繋がりを感じると、ようやく事態を飲み込めた。
「君が、僕の家族?」
「わん」
わかりきった事を聞くなと言わんばかりの不満の声があがる。しかし、ディンは何度も何度も事実を咀嚼する様に頭をなでつづけた。
どれ位の時間がたっただろうか。ディンが自分の足で立てる位に回復した頃合を見てロプトは口を開く。
「アサルトドッグ、かな?」
ディンの呼び出したファミリアは形状から見るに、犬型だった。毛色や目の色が少々珍しいが、千差万別のファミリアは同じ種別に分けられていても姿は別物であることが多い。
大人より大きいタイプもいれば、子供より小さいタイプもいる。手足が長いものもいれば短いものもいて、どんな姿形をしていようとおかしくはない。
だから、それよりも彼の呼んだファミリアが珍しい点は一つだった。
「何だろうな、この愛想のなさ」
愛嬌があって忠実で可愛らしいの三拍子が看板と言えるのがアサルトドッグなのだが、この白銀の犬は無愛想そのものだった。流石に自らの主のことは気になるのか、ディンの側から離れようとはしないが別段触れ合いもしないと言った具合だ。
「これ、まだ坊の方がアサルトドッグっぽいぞ」
当人は無愛想な自分のファミリアを甘える様に抱きしめている。これでは主従が逆だ。
とは言え姿形と同じでファミリアとの関係も千差万別、何でもありなのでいいのだが、主人に抱きつかれているファミリアの方が「あまりくっつくんじゃありません」と言わんばかりにため息をついてるのはどうなのだろうか。
「坊、とりあえず名付けてやるといい」
ファミリアは家族だが、分類としては魔術によって生み出された召喚獣やら使い魔に近い。ゆえに名前は大切だ、一生を左右する程の意味をもつ。
名付けによって儀式は終わり、そして彼らは家族になる。
「名前、考えてきたんだろう?」
「うん、お陰で一月くらいあんまり寝てない!」
「そこは寝ろよ」
「わふん」
「えへへ」
ロプトの言葉に同意する様な声をあげるファミリアを、少年は静かに抱きしめる。ふわふわした毛の触り心地が気持ちよい。
「えーとね、君の名前はフェリス」
それは幸せを意味する言葉だった。強く生きて欲しいやら、いい子に育ってやら、ファミリアへの名付けには大体願いを込める。
彼が願うのはただただ、生きててよかったと思うこと。そして。
「よろしくね、そしてありがとう」
家族になってくれたことへの感謝だった。