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 目を開けると部屋は光と色でいっぱいで、外ではクモの巣がほとんどできあがっていた。蝉が鳴いている。

 きのうのポテトサラダがはさまれたホットサンドを食べ、ミルクを多めにしたカフェオレを飲んだ。歯をみがくころには背中に汗をかき始めていて、顔を洗う水が気持ちよかった。


 夏休みのプリントにある決まりだと、朝早いうちは友達の家へ遊びに行ってはいけないので、父さんが出かけてしまい、母さんが洗濯や掃除をしだすと、部屋で座っているくらいしかすることがない。


 癖がついて、お気に入りの生き物がすぐ出てくる図鑑をひらいて眺めていると、暖かい風が入ってきた。風というより空気がゆっくりずれて動いているようで、少しも涼しくならない。

 蛙の絵を描いていると昼になった。鶏のサラダとコロッケを食べ、麦茶を飲んで外へ出た。帽子を自転車の前かごに放りこんで土手へ向かう。誰かいるだろう。


「おーい」


 土手に上って見下ろすと、あいつらがいた。また二人でなにか捕ってる。


「こっちこいよ」

「蛙たくさーん」


 二人の自転車のそばに自分のも止めると、そばへ駆け寄った。


「ほら」


 バケツの中には、大きな蛙がつかまえられてあきらめたように浮かんでいた。

 周りを見ると、水がよどんだようになった浅瀬には、おたまじゃくしや、尻尾をつけた幼い蛙がいた。


「魚は」

「今日は捕れない。逃げ足速い」


 豆腐屋がくやしそうに答えた。


「不思議だよな、草の影でじっとしててすぐ捕まえられるときと、今日みたいにだめな日は全然だめ」


 豆腐屋といつも一緒にいる隣のクラスの奴が、手を振ってしずくを散らしながら言った。


「どうしたの、それ」とそいつの頬の絆創膏を指差して聞いた。


「自転車でこけたんだって」と、豆腐屋が代わりに答える。「顔から突っ込むって、普通ないよな」

「うるせえ」

 絆創膏自身も恥ずかしいと思っているのか、小さめの声だった。


「あっ、そこ」


 茂みの影に魚が三匹ほどかたまっているのを見つけた。網を持った豆腐屋がゆっくり近づいていったが、網が届くところまで行けずに逃げられた。絆創膏が、ほらな、という顔をする。


 水道の水と違う、ぬるくて、ちょっと青臭い浅瀬の水は、流れているのかいないのか見ているだけではわからない。蛙や魚が跳ねた波紋も吸い込まれるようにすぐ消えてしまう。

 その水に反射した日光は鋭く、空を見上げたほうが目が楽なくらいだった。蛙を捕まえ、魚に逃げられながら見上げる空は青く透き通っていて、落ちて行けそうだった。


 今日は夏休みで、明日も夏休み。夏休みはもうずっと終わらないんじゃないかという気がした。


(了)

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