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95.予定調和

『了承するよ、アリーシャ』


『私はまだ何も言っていませんよ?』


『視えてたからね。君の持ち物に手を出した夜会どもを潰すのに手を貸して欲しいんでしょ?』


『その予見の力はあいも変わらず鬱陶しいですね』


『君の鑑定眼もね。魔眼なんて誰にとっても疎ましい力さ』


『未来視で会話をコントロールする貴女が気持ち悪いのでは?』


『心に秘めてあることを問答無用に暴いて利用する君も相当のものだけどね』


『私は清廉潔白ですよ。それで見返りは?』


『ならあたしは純情可憐だね』


『・・・・・・ふっ』


『そのパターンが一番傷つくんですけどー』


『それで、荒唐無稽様は何がお望みで?』


『じゃあ、怒らないこと』


『?』


『君に損害を出さない。利益も出そう。けれど、この騒動の顛末に怒らないで』




『あたしの望む報酬(未来)はそれだけだから』




   ◇




 死ぬかもしれない。

 光線が頬を掠めた時、呑気にそんな感想を浮かべていた。

 じゅぅって肉の焼ける音と匂いがする。焼けたのは俺。


「焼き肉は嫌だ」


 無数の魔法が乱舞する戦場を走って逃げ回る。

 逃げてないで戦えって?

 無理だ。


 イズに対してウィルと俺の一対二の戦況から、ケイトさんが加わって一対三。

 戦況はこちらが圧倒的に優勢。戦いは激しい魔術戦で俺の出番は全くないがウィルとケイトさんだけでもかなり押している。


 懸念があるとすれば、未だに勝負がつかないこと。

 あのケイトさんを相手にしているというのに、イズは粘り続けて敗北に至っていない。

 戦況は優勢。イズの攻撃が届くことはなく、防戦一方。しかし、戦いは続く。


 決着が、つかない。


 理由は単純にイズの能力故だ。


 傍目から見ても彼女に勝ち目はない。本人もそれがわかっているので勝ちに行く戦いをせずに、生き延びるための戦い方をしていた。


 無理に攻めることはせず、けれど隙は見逃さず、牽制は欠かさない。回避と防御を徹底し、逃走の機会を絶えず探っている。

 この戦い方のせいで、ウィルとケイトさんも勝負を決めきれずにいる。

 しかし、こんなやり方じゃあ、先にガス欠を起こすのは向こうのはずなんだがなぁ。


「死ね」


「うおっと」


 炎の槍が降り注ぐ。俺はそれをなんとか逃げて躱す。

 最初の頃と全く変わらない魔法の威力。攻撃、回避、防御と常に何らかの行動を行っているのに精彩を欠く様子が微塵もない。


「バフ系の魔道具かなんかか」


 でなければこの二人を相手に戦闘を長引かせるなど不可能だろう。

 ウィルも相当だが、ケイトさんは規格外も規格外。

 ドーピング込みで戦いを続けられるイズもヤバいけど。

 だが、これもいつまでも続くはずがない。

 イズのやっていることは戦闘を長引かせることだけ。逃走に関しては、二人に徹底的に防がれている。

 持久戦に持ち込んだところで勝ち目はない。それは相手もわかっているはず。

 勝つことも、逃げることも出来ず、負けぬよう死なぬように凌いでいる。


 ――――そんな殊勝な女か?


 このままじりじりと削られてやられるのを良しとする相手ではない。何か、逆転の一手を隠している。

 嫌な予感を覚えた俺は、タイミングを見計らってウィルの元へと駆け寄った。


「どうした?」


「お前の未来視であいつの狙いはわかんねぇか? すんなりと終わってくれる相手じゃないだろ」


 するとウィルは飛んできた魔法を弾きながら監視したように頷いた。


「へえ、気づいてたんだ?」


「気づいてた、ってお前」


「いや、何とか相談しようとは思ってたんだけどね?」


 俺が離れてうろちょろしててできなかった、と。


「・・・・・・そこは未来視でこっちの行動を予測して上手くやってだなぁ」


「いやいや、これってそんなに便利じゃないから。むしろ使い勝手はクソだから」


 未来視なんて便利能力を羨んでいたら、ウィルが荒んだ目で己の魔眼への愚痴を吐き出し始めた。


「未来の光景を見終えるのは一瞬じゃなくてリアルタイムと同じなの。一秒先の未来を十秒見てたら、現実では見始めた時点なんて九秒前に過ぎてるし、それを勘案して遠くの未来を見たら、ちょっとした行動で全然違う未来になる。つまりクソ。平行世界がクソ。未来を見てそれに対応した未来を見ないといけないとか、はあ? いちいち、小難しい手順を踏まないと使えないとかなんなの? しかも、未来視で見たとおりに動けばその通りになるって・・・・・・一回見ただけでそんな完璧に同じ動きができるか! 生き延びるために、曲芸師みたいな動きが必要だからって本番一発でできないし! いくつもある分岐から自分の求める未来を探すのも手間だし、それを確認するにもいちいち時間が掛るし、その通りに自分が動けるとは限らないし、できなかったら簡単に変わったりするし、他にも」


「ごめん、俺が悪かった」


 チートとか思ってごめんなさい。

 気持ち、今までよりも威力の乗った火炎球を飛ばしながら、ウィルは咳払いをして話を戻した。


「まあ、あれよ、あたしはそんなクソな魔眼も使いこなしているわけで、イズの奥の手にもちゃんと対応しております」


「おおっ」


「そのためのケイトちゃんですから」


 視線の先には、接近するも決めきれないまままた距離を取られるケイトさんの姿があった。確かに、なんともすごい違和感がある。


「ケイトちゃんが勝負を決めきれないのもイズの奥の手を警戒してるせい」


「そんなにヤバいのか?」


「それとイズの魔眼も厄介だからねぇ」


 イズの魔眼は千里眼。聞いた限りでは遠くの場所を見られるという能力で、便利そうではあるが戦闘に使えるようには思えないのだが。


「戦況を俯瞰して見ることも出来るし、障害物を無視できる性質を利用して筋肉の動きを透視できたりもするの。そこから得られる情報で相手の動きを予想して立ち回るから厄介なのよ」


「それって、お前のより予知能力高くないか?」


「うるさい」


 向こうの魔眼のほうが使い勝手がよさそうだと思ったら、ウィルも気にしていたらしく不機嫌になる。


「正直、あたしも交換して欲しいくらいだけど、あっちにも弱点がないわけじゃないんだから」


「知ってるのか、弱点」


「ええ。だから、とっととこの戦いを終わらせましょう」




  ◇




 阿呆の口車に乗るんじゃなかった。

 後悔する俺だが、今更やめるわけにもいかない。

 ここ動くわけにはいかないし、動けない。


 俺の今の役割は、魔法の準備をしているウィルに邪魔が入らないように盾となることだ。殺意全開で魔術を飛ばしてくるイズから、ウィルを守る。

 言葉にすると簡単だが、現実は魔法の嵐を剣と肉体で乗り切れという肉壁役だ。

 馬鹿なのかな?

 そんなことしたら、俺が死んじゃうだろ。


「クソがアアアアアアアアアアアアァ!」


 落ちてきた氷の断刀を、身体強化と魔力を乗せた剣で軌道を逸らす。慣性も加わって滅茶苦茶重かった。手が痺れる。


「余所見とは感心しませんね」


「視野の広さには自信がありまして」


 次の魔法を放つ前に、ケイトさんが斬りかかり、イズもそれに答えるように短剣で切り結ぶ。

 傍目から見ても、剣の技術はケイトさんが圧倒。イズも耐えているが、数合のやり取りで追い詰められる。

 そして、ケイトさんの刃がイズの首を刈り取ろうとしたところで、何故かケイトさんが大きく後退した。


「何だ?」


 今のような光景はこれまでにも何度かあった。ケイトさんも眉に寄せて機嫌が悪そうだ。

 俺には何もなかったようにしか見えないが、確実に何かがあるのだろう。

 ウィルの言っていたイズの奥の手という奴なのだろうが。正体が見えてこない。


「あいつも教えてくれなかったし・・・・・・て、また来た!」


 悠長に分析している暇などなく、ケイトさんとの距離が出来たところで空かさず魔法を飛ばしてくる。

 今度は巨大な炎槍。


「殺す気かよ!」


 斬り伏せた直後に視界に爆炎が広がった。身体強化と加護で無理矢理耐え抜く。

 熱い、死ぬ。


「ごほっ」


 全身を焼かれたが、軽い火傷で済んだ。ただ、熱風を吸い込んでしまい呼吸が辛い。

 痛い。痛みがあるってことはまだ死んでいない。

 なら、続投だ。俺の役目を全うする。


「てめぇの攻撃は通さねぇよ」


 絶対にウィルの邪魔をさせない。

 殺意の漲るイズの視線と交錯する。


「【魔霊弓】」


 白光を帯びた弓矢を手元に出現させ、速射。

 狙いは心臓。躱せば背後のウィルに当る嫌な位置。

 選択は一つだけ。


「叩き潰す!」


 全力の振り下ろしと白光の魔力矢が衝突。ピキッと罅割れの音が鳴る。

 結果は何とか相殺。けれど、甲高い音を立てて剣が中程から折れてしまった。

 無茶のし過ぎだったのだろう。

 頑張ってくれたと思うが、もう少しだけ頑張って欲しかった。


「まだあんだろうがっ!」


 一射目で隠すように放たれた二射目。二段構えとは本当に殺意が高い。

 剣は折れた。同じ芸当は無理。避けるのは駄目。ウィルに当ってしまう。

 腹を据える。覚悟を決める。


 ――――手を伸ばし、眉間に突き立とうとする矢を掴み取った。


「っ!?」


「いってぇっ!」


 激痛を堪え、矢を握り潰す。

 左手が完全に逝った。だが、死ななかっただけマシだろう。


 三射目を構えたところで、ケイトさんが肉薄しこちらを攻撃する余裕が消える。そして、


「お待たせ」


 ウィルの魔法が完成し、準備が整った。


「【ディープミスト】」


 直後、闘技場内全域を濃霧が埋め尽くし、視界を白く染め上げる。見えるのは白一色。


『あの子の魔眼は色んな所を見通せるけど、その情報処理能力は人間の域を出ないの。一度に色んな角度、視点を得られてもちゃんと見られるわけじゃない。あたし達が視界の端っこのモノを無意識にはきちんと識別できないように』


 魔法が発動したのを確認すると俺は走り出す。前方に十歩。


『霧や暗闇、どころか壁の中でもあの子は見通せる。けど、昼間のように見えるわけじゃなくて、相応に見づらくなるんだって。見えるけれど、目を凝らさないといけない』


 一呼吸を置いてから、左に九十度方向転換。

 そこから五歩、前へ。


『視界が悪くなって最初に居場所を探るのは脅威度の高いケイトちゃん。次にあたし。だから、その数秒が大チャンス』


 五歩目。

 白き世界に突如、人影が現れた。


『あたしが魔法を発動させたら言った通りに移動してから剣を振り抜いて』


 驚愕に歪むイズの顔。その僅か下方の喉元に横一線に剣を振り抜く。半分になってしまった剣先から確かな感触が伝わった。


『それがあたしの視た、君の剣の届く未来』


 ・・・・・・本当に、届いた。


「すげぇ」




「ええ、本当に素晴らしいですわ」


 聞き覚えのない女の声。

 喉を切り裂かれたイズの隣に、いつの間にか見覚えのない白い女がいた。

 直後、俺の腹に女の拳が突き刺さった。




お読みいただきありがとうございます。

リアルが忙しい。コロナめ・・・・・・

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