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94.先見

「魔眼の姉妹ってのは、珍しいこともあるもんだ」


 左右で色彩の異なる瞳を露わにしたウィルとイズ。

 オッドアイは異能の力を秘めた魔眼の象徴であり、またその存在は極めて貴重だ。俺もアリーシャ様に出会うまでは伝説の類いだと思っていた。

 それが目の前に二人、しかも姉妹だというのだからその希少性は計り知れない。

 感嘆の声を漏らすと、嘲り笑う声が耳朶を撫でる。


「珍しい・・・・・・確かに偶然であれば、ね」


「どういう意味だ」


「そのままの意味だけれど?」


 素直に答える気がないようで混ぜ返すイズに、これ以上の会話は無駄かと剣を構える。


「――――魔眼を持って生まれてくるように調整されたってこと」


 背後に立つウィルへと振り返る。

 返答を期待してたわけではない、軽口めいた問いに思わぬ答えが返ってきた。


「調整?」


 できるのかそんなこと。

 生まれてくる子供の性別を呪いや食べ物で操作しようというようなことはこの世界にもあるが、所詮は迷信程度のものでしかない。

 魔術にはそういうものも存在するかもしれないが、俺は耳にしたことがないため少なくとも一般的なものではないはずだ。

 それなのに、魔眼を持つように調整?


「馬鹿じゃねぇのか、そんな話」


 それこそありえない。

 魔眼というのはアリーシャ様が言うには加護に近い希少体質らしい。その目に映る世界を、現代の魔術で再現することは不可能で、当然ながら作ることもできない。

 魔眼というのはあらゆる要素がいくつもの偶然が重なって生まれる奇跡的な存在なのだ。

 それを人工的に産みだそうだなんて、馬鹿馬鹿しいと一笑に付す与太でしかない。


「酒場で聞けば鼻で笑っちゃうような話だけど、あたしたちを前にして本当に嘘だって思える?」


 ウィルの問いに、俺は閉口する。

 あり得ない、と思う一方で、まさか、と考えてしまう自分がいたのも確かだ。


「そんな人体実験めいたことを、お前らの親はやったのかよ」


「親というか国だね」


「国・・・・・・?」


 嫌な想像が頭を過ぎる。そしてそれは、イズの口によって肯定された。


「この国フェニキシアが行っていた実験。魔眼を有するホムンクルスの製造、その成果物がわたしたちということよ」


 新たにもたらされた情報を処理しきれずに硬直する俺に対し、堪った鬱屈を吐き出すかのようにイズは滑らかに口を動かす。


「二十年くらいまでやってた戦争に投入するために作られていた魔眼兵。その完成にいたるまでに王国はいくつもの非道な実験を行ったし、同じくらい多くの犠牲を払ったわ。そう、沢山の姉妹達が死んでいった・・・・・・戦争に勝利するためにね」


 憤怒を抱えた冷笑に、全身に鳥肌が立つ。


「実際には投入されることなく停戦。民衆や他国に悲惨な人体実験が知られると不味いから、魔眼兵に関するものは全て隠蔽か処分されたわ。ふふふ、本当にわたしたちのことをなんだと思っているのかしらね?」


 煌々とイズの足下から紅の炎が燃え上がる。感情の高ぶりに比例するように焔は勢いを増していく。


「わたしはね、この国が憎くて憎くて堪らないの。わたしたちを身勝手に造って身勝手に捨てた貴族が、わたしたちの存在を知らないまま平穏を享受する国民が、人間の非道を見逃し今も守り続ける精霊が、嫌い。大嫌いだわ。全部無茶苦茶にしてやりたいくらいに」


 紅炎は地面を舐めるように走り、瞬く間に俺たちを覆って逃げ場を塞いだ。


「イズ」


 炎の大波が俺たちをのみ込もうとした直後、風が吹いた。火炎とは真逆に周囲へと広がるように放たれた爆風は、大火を吹き飛ばし散らしてしまう。


「この国が憎いのはわかるよ。でも、だからって無関係の人まで巻き込むのはやめよう。皆も復讐なんて望んで」


「お前がわたしたちの気持ちを語るな! この裏切り者がっ!!」


 悲しみに満ちた声を、激昂した怒声が切り裂いた。


「仇を討つどころか、王国に頭を垂れて尻尾を振る雌犬め。生き延びたわたしたちが、あの子の、あの子達の無念を晴らさずにどうするというの!?」


「逆だよ。生き延びたからこそ、あの子達の分まで生を謳歌しないといけないの。つまらないことにせっかくの人生を無駄にしないで」


 二人の意見は平行線。そしてどちらも譲るつもりはない。

 恐らく、根底にある思いは同じなのだろう。

 死んでいった姉妹達を想っているのは両者ともに変わらないはずなのに、彼女たちの思いは交わらない。


「それに、あたしが今の地位にいるのは貴女を止めるため。イズが復讐をやめてどこかで幸せに暮らすなら、あたしだって別の国に行ってるよ」


 イズの肩がぴくりと跳ねる。彼女と同じ境遇であるウィルも王国に対して悪感情がないわけではないようだ。


「可愛い妹の馬鹿な行いを止めるためなら、あたしは仇敵にも頭を下げるよ。あたしの願いは、姉妹の幸福なんだから」


「ウィル・・・・・・っ」


「城下で暴れさせるつもりだったお友達の死霊兵は、召喚先に騎士と冒険者を配置したから誰も殺せてないよ」


「――――ちっ、本当に貴女の瞳とは相性が最悪ね」


 千里眼で確認したのか、イズは忌々しげに顔を歪めて舌打ちする。

 こいつ、貴族だけじゃなくて城下で賑わう国民まで手に掛けるつもりだったのか。

 この女の憎しみが本当に王国全てに向いているのだと実感した。


「もう一度聞く。復讐をやめるつもりは、ない?」


「ないわ。必要なら、貴女たちをこの場で殺してやり遂げる」


 そして、二人は決裂した。


「・・・・・・俺はお前らの事情なんて全然わからねぇけどよ。あいつが俺の周りの人たちを傷つけるなら、俺はあいつを切るぞ」


 過去に王国がどんな非道をやらかして、それを理由に目の前の女が復讐に走ろうとも、正直なところ俺はあまり興味がない。

 最も優先することは、俺が大切に思う人たちを守ること。

 同情すれば剣が鈍る。剣が鈍れば、守れたはずのものを取りこぼしてしまうかもしれない。

 だから、興味を持たない。関心は寄せない。


「うん、それでいいよ」


 ・・・・・・ちっ。


「まあ、二人がかりでも勝てるか微妙なところだけどな」


 二人の実力は拮抗している。俺が加勢している分だけ、ウィルの方が有利になるはずなのだが、戦況はそれほど傾かない。

 つまり、俺の戦力なんざ誤差の範囲と言うことか。

 ・・・・・・いや、まさかそんなはずは。


「大丈夫」


 俺は現実から目を背けるように、ウィルへと視線を向ける。


「何とか間に合った」


 ウィルが掲げた指先には見覚えのある指輪があった。俺がアリーシャ様から借りていた魔道具だ。そういえば、ウィルに渡したままだった。

 いつの間にか、イズによって効果を封じられていた指輪を、ウィルが解除しようとしていたはずだ。それを今、こうして掲げて見せたと言うことは、つまり。


「――――おや、これはどういった取り合わせでしょうか?」


 目の前の空間が歪むと同時に現れた青い髪のメイド。その冷淡な美声に震えるのは、頼もしさか植え付けられた恐怖心からか。


「お久しぶりですね。しかし、三席(・・)ともあろうお方がこんなところで油を売っていてよろしいので?」


「ちょっと私用でね。それにあたしの仕事はとっく終わらせてあるから」


 旧知の間柄らしく、親しいやり取りを見せるケイトさんとウィル。ウィルが苦笑を浮かべるのを見て、周囲へざっと視線をやるとケイトさんが「なるほど」と納得したように頷いた。


「いつもの通り、全て貴女の思うままと。相変わらず気持ちが悪い」


「口悪いなぁ~」


 あれ、そんなに仲良くない?


「『青薔薇』とは、相対する気はなかったのですけれどね」


「ああ。あの時、横槍を入れたのは貴女でしたか」


 両者の戦意が静かに高ぶりあう。


「待ってよ。この場を整えたのはあたしなんだから」


 制止するウィルとケイトさんの視線がぶつかる。ケイトさんなら問答無用で相手に殴りかかると思いきや、すっと一歩下がる。驚いて目を丸くすると、ケイトさんと目が合った。失礼なことを考えていたのがバレた。あとで殺されるかもしれない。


「これ以上、誰かを傷つけるのはあたしが許さない」


「フェニキシアを滅ぼすためなら、そんなこと知ったことではないわ」


「そう、なら」


 決意の籠もった目差しで、ウィルは短杖のイズへと向ける。


「宮廷魔導師団第三席。『先見』の大魔道にして、ヴォルザナーク様が使徒ウィル。――――イズ、貴女との決着はあたしが付ける」




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