93.秘密
「さて、あの子の狙い、君はわかるかな?」
「お前をぶっ殺すこと?」
「ぶっぶー、はずれー」
飛んでくる魔術を的確に処理しながら、腹立たしい顔を向けてくるウィル。お前、姉に嫌われるのそういうところだと思うぞ。
「正解はこの場からさっさと逃げること」
「あれだけ殺意満々なのにか?」
「あれは半分演技だよ」
つまり半分は本気と言うことか。
「イズは目当てのものをすでに下から持ち出してるからね。この施設、というか王都には今日はもう用がない。むしろ長居して面倒な相手と戦いになる方がマイナスなの」
ウィルの指摘通り、あの女は殺意の高い攻撃を仕掛けてくる一方で、戦闘自体を避ける傾向があった。
目的を達成するために、障害となる相手を早々に排除するか、それが出来ないのであれば逃走する。思い返すとあの女はそういう風に動いているのだろう。
「じゃあ、今も逃げるタイミングを狙ってると?」
「外の状況と照らし合わせながら、こっちの足を止めてさっさと逃げるつもりだと思う。今も魔術飛ばしながら障壁ごと施設を壊せるようなの準備してるし」
・・・・・・抜け目ねぇな、あの女。
「そこで君にはイズの余裕をもっと削いで貰います。おお、すっごい大役!」
「具体的には何すりゃいい?」
「そんなの一直線にイズに切り込むのさ」
一直線に。
この魔術の飛んでくる中を?
「安心しな、君にぶつかりそうなのは全部あたしが相殺してあげるから」
「・・・・・・やってやるが、そっちも頼んだからな?」
「任せておきなさいな。ヴォルザナーク様の力があれば余裕よ・・・・・・多分」
「小さく怖いこと付け足す、なっ!」
ウィルの背後から駆け出す。前へと飛び出した瞬間、俺たちの行動を呼んでいたようにすぐに魔術が俺へと集中する。
殺到する魔術。しかし、背後から火炎や氷槍が飛来して俺に届くことなく打ち消しあう。
ウィルのバックアップだ。
端から俺たちの距離はそれほど離れていない。
後数歩で剣の間合いに入る。
――――取っ、!?
最後の踏み込みと同時に鞘から剣を抜き放とうとして、直前に悪寒が全身を襲う。咄嗟に右へと跳ぶ。
「下っ!」
後方からウィルの警告が跳んでくるのと、一瞬前までいた俺の足下から石柱が突き出されるのはほとんど同時だった。
あのまま剣を振っていたら刃が届く前に下から吹き飛ばされていた。
「・・・・・・面倒な」
「おらぁ!」
回避から体勢を即座に整えて突貫。横から胴を両断する勢いで振るった剣撃は、やつの短剣が絶妙な角度から打ち上げて軌道が滑る。
上へとずれた剣を、僅かに身を屈めることでやり過ごし、滑らかな動作で懐に潜りまれると腹部に重い衝撃。掌底を打ち込まれた。
身体の芯まで響くような重い一撃。普通なら数秒は動きが止まる。そして、その手から放たれる魔術で止めだったはずだ。
「させるか!」
「ちっ!?」
俺も動きが止まったが、硬直から一瞬で復帰して、腹に当てられた腕を振り払う。向きを変えさせられたピクシーの掌から雷撃が飛ぶ。
あっぶねぇ。
「避けてぇ!」
「え、うおっ!?」
反射的に横へ転がると背後から先ほどピクシーが放った雷撃と似たものが背後から飛んできた。あとちょっとで俺が当るとこだった。おのれ、ウィル!
雷撃はピクシーに当る直前に、透明な壁にぶち当たり霧散する。
これだけやっても一発も入んねぇのかよ。
苛立ちから獣のような体勢で地面を駆け出す。俺たちから距離を取ろうとしていたピクシーと間合いを強引に詰めて、剣で切るというより殴りかかるように腕を振る。
直後、両者の間で空間が爆ぜた。
風属性の空気を破裂させる魔術だったか。強制的に間合いを開けさせられてしまう。
「くっ!?」
「無茶苦茶ですね、貴方はっ」
地面を転がる俺とは対照的に、ふわりと優雅に着地したピクシーは苛立ったようすで吐き捨てる。
「お褒めにあずかり光栄だね、ピクシーさんよぉ」
「その名前は夜会で適当に振られたものなので好きではないんです。ウィルから聞いているでしょうから、イズと呼びなさい」
ピクシー・・・・・・ではなくイズはそう言って鼻を鳴らす。まあ、好き好んで自分から妖精とか名乗りたくないわな。
つーか、さっき嫌なものが見えちゃったよ。
「・・・・・・なんかやりにくいって言うか、動きを読まれてる感じはしてたんだが」
爆風によって舞い上がったイズの髪。薄暗く一瞬だったものの、その下にあったものを俺は確かに見た。
「金色の左目と銀色の右目」
左右で異なる色合いの瞳。オッドアイ。前世では珍しい症状や体質くらいだったが、この世界では別の意味を持つ。
「魔眼使いかよ、お前」
「あら、気づいてなかったのね?」
クスクスと、イズが妖艶に笑う。
オッドアイはそのまま異能の力を秘めた魔眼である証明でもある。
「能力は未来視ってところか?」
魔眼ではド定番とも言える能力。イズの動きの的確さにも説明がつく。けど、いまいち腑に落ちない。
「・・・・・・もしかして、ウィルからほとんど何も教えられていないの?」
「どうにも胡散臭いからなぁ。ウィルとお前の事情も興味ないから聞いてもいない」
「ええー! こっちは聞かれたら答える気バリバリだったのにぃ!」
いつの間にか近くにやってきていたウィルが不満の声を上げる。おい、抗議するにしても叩くな。警戒しろ。まだ戦闘中だぞ。
「あ、ちなみにイズの瞳の力は未来視じゃないから」
「あん? というか、知ってたなら先に教えとけよ」
こいつに関しては半信半疑なところは多いけれど、事前に多少の時間はあったのだから魔眼のことくらいは教えてくれてもよかったはずだ。
「・・・・・・先に教えるとどうしたってややこしいことになるんだもん」
「魔眼について語ろうとすると、わたしたちの事情に触れないといけないものね」
ウィルは気まずそうに視線を逸らし、イズは意地の悪そうな表情でそのようすを笑っていた。
こいつらの事情・・・・・・もしかして、ウィルの眼帯って。
「なあ、お前もそう・・・・・・なのか?」
「・・・・・・うん、まあ」
おずおずとウィルが顔の右半分を覆う眼帯を捲り揚げる。露わになったのは銀色の左目とは異なる金色。
イズとは左右逆だが同色の金と銀のオッドアイ。
ウィルもまた魔眼の持ち主だった。
「イズは現世を遍く見通す『千里眼』の持ち主。そして、あたしの目は未来を見知る予見の瞳、『未来視』」
だからね、とウィルは酷く沈んだ声で、言う。
「実は、占いなんてできないんだ、あたし・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・落ち込むとこ、そこか?




