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88.追いかけて、追い詰めて

 光の精霊アルフィーの導きにしたがって、長い回廊を走り抜ける。壁に矢が刺さっていたり、絨毯が焼け焦げていたり、ギロチンが転がっていたり、色んなところが抉れていたりしていたのに眉を顰めつつ足を止めずに奥へと進んでいく。

 死体がないことから戦闘の跡ではなく、恐らく突破された罠の残骸なのだろう。ここは王城の一角なので、侵入者対策に罠が山ほど仕掛けられていたとしてもおかしくはない。

 先行している夜会のやつが全部起動させてくれたのならいいのだけれど、何個か罠が残っている可能性は十二分にあり得る。

 本来は慎重を期して進むべきなのだろうけれど、案内役のアルフィーがグングンと飛んで行ってしまうのでそんな悠長なことはしていられなかった。

 そのため、内心どこから罠が飛び出してこないかビクつきながらも全力疾走でアルフィーを追いかけていた。


「今のとこ罠にかかってないけど……」


 もしかして、本当に全部夜会のやつが起動させて一つも残っていないのだろうか。

 それか罠が起動しない理由でもあるのか。


 そんな取り留めもないことを考えていると、視界の先でそれを捉えた。


 数体のスケルトンがメイドの女の子を襲い掛かる姿を見た瞬間、身体強化を発動して人蹴りで彼我の距離をゼロにする。そして踏み込みと同時に、抜刀。


「失せろ」


 見様見真似のヨハンの抜刀術。あいつのような鋭さも流麗さもないけれど、眼前のアンデッドを一掃するには事足りる。


「ガキを手に掛けようなんて、ざけんなよクソ骨が。ぶっ殺すぞ」


 そう吐き捨ててから、全身が沸騰するような激情に支配されていたことに自覚する。

 悪い癖が出た。

 どうにも女子供が襲われているのを見ると冷静さを失ってしまう。ウルシやケイトさんのような戦う意志や力を持っているなら別だけれど、戦意も力もないのに一方的に虐げられる光景というのはどうにも我慢ならない。

 これが正義感から来るのなら多少は格好がつくのだけれど、実際のところは後悔と罪悪感と自己嫌悪に由来する怒りだ。

 前世の記憶を取り戻す前、俺は実の両親に奴隷として売り払われた妹を探すためにあちこちを旅していた。しかし、結局は上手くいかず、生まれつき病弱だった妹は色んな商会をたらい回しにされた末に見捨てられて野たれ死にしたということがわかった。死体は見つかっていないけれど、集めた話や状況を整理したらそういう結論に落ち着き、生き延びている可能性は絶望的だった。

 やせ細った薄汚い病気の子供を拾い上げて介抱してくれるような人間に見つけて貰えていれば、というレベルの話で生きていると信じるには都合が良過ぎる条件だ。


 元々子供は嫌いではなかったけれど、そのことが原因で女子供が理不尽な状況に晒されているのが許せなくなったのだと思う。

 妹を救えなかった無力な自分を思い出して、当時の憤りが再燃するのだ。

 それで町娘を攫おうとする貴族を反射的にぶん殴ってブタ箱入りしているのだから自分でも馬鹿だとは思うし、治さないといけない悪癖だ。


 けれど、まあ。


 悪癖だという自覚はあるけれど、やはり自覚した程度では治らないらしい。

 転んで恐怖で蹲っていたメイドの女の子が、どことなく妹に似ていたというのもある。アンナが無事に生きて成長していればこれくらいの年だったはずだ。髪色とかもそっくりで、つい可愛がっていた妹が襲われているような気分になってしまった


「絶対に守ってやるからな」


 だから、そんなセリフがつい口から零れた。

 いけね。誰かと死んだ妹を重ね合わせるもんじゃねぇや。


 背後で少女が何か呟いていたようだけれど、その時にはすでに俺の意識は前方へと集中していた。

 廊下を埋め尽くすようなスケルトンが目の前にいるんじゃあ、流石にいつまでも意識をどっかにやっている暇はない。


 集中、集中。


 眼前には武装したスケルトンたち。なんかデジャヴ。

 どこかで見たかと思えば、そうだ。モカを連れ戻しに行った時の森にいたスケルトンどもだ。


 ああ、なるほど。なるほどね。あのスケルトンどもも夜会の連中が裏で糸を引いてた訳ね。


 より一層、こいつらへの殺意が積み重ねられる。

 落ち着け、本命はこいつらの向こう側だ。こんなところで時間も体力も浪費するわけにはいかない。

 けれど、こいつらを無視もできない。後ろの子の安全を確保するためにも、この骨どもを残らず殲滅する必要がある。


「……使うか」


 ここで時間をかけてはこの先にいる夜会の一味に逃げられる。ここは奥の手――アリーシャ様から預けられた魔道具の使いどころだ。

 二つの魔道具の内の一つは『貯蔵の腕輪』だ。効果はシンプルで、魔力を貯蓄することができ、装備者はそれを好きなだけ取り出せるという代物。ようは魔力タンクだ。

 そしてこの腕輪にはすでに膨大な量の魔力がため込まれている。感覚的には俺が身体強化を使ったまま不眠不休で一週間は余裕で走り続けられるくらいという馬鹿みたいな量だ。

 それほどの魔力をため込める腕輪もすごいが、よくこれほどの魔力を溜められたものだと関心を通り越して呆れている。

 俺がどれだけ暴れ回ろうと一日二日で空にすることはできないだろう。借り物なので返すことを考えるとあまり無駄遣いもできないけれど。


 それでもこいつらを一掃するのに使うのなら必要経費だ。躊躇う理由は、ない。


 魔力はエネルギーの一種であり、膨大なエネルギーというのはそれだけで大きな現象を生み出す。

 腕輪から魔力を取り出して剣へと籠める。理屈としては魔力の塊を飛ばす『魔弾』という術と一緒だ。

 少々荒っぽいけどな。


「消し飛べ」


 剣を振るうと同時に、籠めた魔力を一気に放出する。膨大な魔力は指向性と破壊力を持って廊下を一直線に突き進む。

 魔力の奔流に巻き込まれたスケルトンは一様に吹き飛ばされ壁や床に叩きつけられてバラバラに崩れ去る。武装しているとはいえ、スケルトンはそれほど強力な魔物ではない。これくらい打ちのめしておけば復活してくることはないはずだ。


「他にも敵がいるかもしれないから、さっさと安全なところに避難しとけよ!」


 俺は速く敵の元へたどり着こうと、背後のメイドの少女に振り返らずにそう言い残して走り出した。

 目と鼻の先に扉の破壊された部屋があり、アルフィーが飛び込んでいったのに続く。


「……倉庫、か?」


 窓もなければ明かりもない真っ暗な部屋。入り口から差す光に照らされて見える内部は棚や木箱が整然と並んでいる。

 アルフィーが来たということはここに夜会のやつがいるはずなんだが、宝物でも盗みに来たのだろうか。


「目算では間に合うはずだったのですけれど、時間をかけ過ぎましたか」


「誰だ?」


 部屋の奥。暗闇の向こうから女の声が届く。


「夜会の者ですよ」


 風切り音と共に暗闇からナイフが飛来する。難なく打ち払うも、相手の狙いは一瞬の足止めだったらしい。

 闇の中で魔法陣が淡く輝く。


 魔術による攻撃?


 何が飛んでくるかわからない以上、ここは一度入り口まで退くべきか。

 そう判断を下し、体を動かそうとしたところで、光の球体が闇の中の人物へと向かって行くのが見えた。


「アルフィー!」


「精霊風情が、邪魔をするな」


 空中を舞うアルフィーをナイフによって貫かれる。気づけば、俺は後ろにはなく前へと飛び出していた。


「このっ!」


「なっ!?」


 俺が飛び込んできたのが意外だったらしい。女は驚きの声を上げながらも、振り下ろされた俺の剣をナイフで受け止めて見せる。


「――――っ!?」


「様子見で一度さがると踏んだのですが、予想以上に馬鹿のようですね貴方は」


 計算ミスを犯したような口惜しそうな様子で女は吐き捨てる。

 足元の魔法陣が一層その輝きを増す。

 魔術が発動する前兆だ。


「向こうで仕切り直すとしましょう」


 視界がぐにゃりと歪曲したかと思うと、全身が奇妙な浮遊感に包まれる。


「これ、は」


 気がつくと、俺は外にいた。女が使ったのはどうも転移の魔術だったらしい。

 ……あのまま警戒して距離を取っていれば、まんまと逃げ去られていたというわけだ。


「っ!?」


「邪魔者は排除させていただきます」


 首元へと伸びて来た凶刃を寸前のところで躱し、剣を振るって追撃を受け止める。


「わたしは『ピクシー』と呼ばれているものですが、別に覚えておかなくても結構です。死ぬ人には意味のないことですから」


 第二ラウンド開始、ってか?




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