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83.一方その頃――『侵』

「ふむふむ」


 離脱しようとしていた『ドランク』と『リップ』は竜人の少女に撃破され、捕縛。


 別件でアリーシャ・フォン・リオネス伯爵の屋敷に侵入しようとしていた『夜狐』も捕縛され尋問を受けている。


 王女の暗殺をしようと仕掛けた『鉤爪』、『錆』、『老樹』はクレア王女とアリーシャ伯爵の護衛である、元剣聖である『赤刃』のヨハンと現剣聖である『守護騎士』ロザリアによって全滅。


 城下に潜伏していた『天狗』を始めとするメンバーたちも次々と『青薔薇』に討ち取られ、最後の一人である『コフィン』も彼女を相手に苦戦している。


「なかなか上手くいっているようですね」


 皆さんが頑張ってくれているおかげで、面倒な相手が各方面に分散しています。王都にいる大魔道と剣聖は王と王族の警護に回り、貴族たちが連れてきた護衛も主を守るために動けません。

 何より、あの『青薔薇』が城から離れてくれたのが最高です。彼女の探知能力はわたしでも侮れませんからね。『コフィン』には彼女の足止めを頑張っていただきたいです。


 さて、仲間たちが囮となってくれているうちに、わたしの目的を果たしに行くとしましょう。


 王都を混乱の渦に叩き落とす、などというものではありません。こんな国は滅んでしまえばいいとは思いますが、今日の目的は違います。


 王族の居住区画に入りましたが、先はまだまだ長いです。


 何せそんな場所にわたしのような賊が侵入したのですから、迎撃システムが作動してしまいます。


「これを全部躱して進むのは時間が掛かりそうですね」


 体力も魔力も温存して起きたいですし。時間は掛かっても全てを回避して進む方が賢明でしょう。時間を稼ぐために色々と手を打ったのですから、それを有効活用いたしましょう。


 壁から放たれた毒に塗れた鏃を一歩動いて躱す。

 床から生えた剣山は直前で止まって躱す。

 天井から撃たれた雷は下がって躱す。


 進み、止まり、走って、下がって、避けて、伏せて、歩いて、跳んで。


 通路に仕掛けられた罠を確実に回避しながら、ゆっくりと目的の部屋を目指します。

 行き先は王の私室。そこにお目当ての代物があるのです。


「・・・・・・あら、これは少し不味そうですね」


 ここで彼女が脱落するのこちらの予定に支障がでそうです。まあ、相手が相手なので仕方ないのですが、やはり非常に面倒な相手ですね。


 丁度良いところにあった窓の前に立ち止まると、わたしは手をかざして【魔霊弓】を発動させます。手に収まった白光を帯びた弓は、わたしの全身程の長弓でその全てがわたしの魔力で構成されています。もちろん、番える矢も。


 魔力の消費はそこそこ多いのですが、実物の弓のように持ち運ぶ必要が無く、飛距離や威力などもかなり違います。


「――――いま」


 放たれた矢が窓を突き破り、王都の夜空へと消えていきます。さらに、間を開けずにもう一矢。


 とりあえず、彼女ならこれくらいで十分でしょう。


 矢が狙い通りに飛んだのを見届けながら、わたしは歩みを再開させる。

 止まっている暇はありませんからね。どうにも、後ろからわたしを追ってきている方がいらっしゃるようですし。


 わたしが罠を避けながら進んでいるのに対し、あちらは光の精霊が先導しているのとわたしが通ったせいで罠が消費されているため、当然ながら速度は向こうの方が速い。

 このままではそうこうしているうちに追いつかれてしまいそうです。


 今のうちに排除してしまいましょうか。


 そう考えて、すぐに首を振ります。先ほど魔力を消費したばかりなので、できることなら使わずに済ませたいですね。


 何か使えるものはないかと辺りを見回していると、運がわたしに味方したのか丁度いいものを見つけました。


「――だ、誰ですか、あなた!?」


 窓の割れた音を聞きつけてやってきたのでしょう、茶色い髪をしたメイドの少女がこちらを見て顔を青ざめさせながら叫びます。


 ここは王族の私的な区画なので、ここにいる使用人は王族付き、つまりは王家からの信任が厚い者に限られます。随分と若そうなこの娘も、この区画で働いていると言うことはそれなりの家の出身なのでしょう。


「様子を見に来たのはこの子だけですか・・・・・・」


 パーティーから戻ってきた王族を迎え入れるため部屋を整えている使用人は他にも何人もいて、異常にも気づいているようですが、教育が行き届いているのか不用意に近づいてくる様子はありません。騎士たちが数名、こちらに向かってきているのでそのうちの誰かがすでに通報したのでしょう。


「わたしのような不埒者が押し入った場合は不用意に近づいてはいけませんよ?」


「ひっ」


 にこりと笑いかけると、少女は悲鳴を上げて元来た方へと走っていきます。

 そんなに怯えなくてもよろしいのに。


「おっと」


 追いかけようとして、通路の両脇に飾られていた騎士鎧が同時のその手に持っていた剣を振り下ろします。前へ転がるように躱して、騎士鎧を置き去りにして走り出す。

 進むごとに至るところから罠が発動しますが、どういうものが仕掛けられているのかわかっていれば避けて進むことはそう難しいことではありません。


「ふむ、やはりそうですか」


 とてとてとおぼつかない足取りで必死に走る少女。しかし、見ている限り彼女にこの通路の罠が襲いかかることはありません。

 これだけ大量の罠が仕掛けられていては、普通なら使用人どころか王族たちものんきに過ごすことなどできません。

 そのため、ここの罠には発動する対象が決められているのです。


 それは王家の契約する精霊たちからの祝福を受けていない者。


 この区画は特に王族たちから信用されている者でなければ入ることすら許されていません。その信用の証が精霊の祝福。

 許可のないものが無断で侵入すれば処刑もの。祝福のない者には、あの殺意に溢れた罠の数々が容赦なく襲いかかるという寸法です。


 逆に言えば、祝福を受けた者はこの危険地帯を平然と通ることができるのですよねぇ。


「来てくれたのが貴女で、本当に助かりました」


 発動する罠を見極め、一気に通路を駆け抜けます。

 壁から生えた刃の触手がわたしを捉えようと追いかけてきますが、それがわたしに届くよりもわたしの手が少女の服を掴むのが先でした。


「きゃあっ!?」


「これくらい小柄ならわたしでも持ち運びが容易ですから」


 少女を盾にして振り返ると、わたしを貫かんとしていた触手たちがピタリと動きを止めます。この区画の罠は、祝福を受けた者に害を与えることはしません。そして、その同行者にも。

 触手たちは標的を見失い、シュルシュルと大人しく壁の中へと引っ込んでいきます。所詮は無機物ですね。同行者と、人質を取った侵入者の区別がつかないとは。まあ、それがわたしにはとても助かるのですが。


「あ・・・・・・あっ・・・・・・」


「こういう風に侵入者に罠避けにされてしまいますから、ここに出入りする者は不用意に自身を危険な場所に近づかないのですよ。お勉強になりましたか、お嬢さん?」


 まあ、この子が来なくても罠は突破できましたし、部屋に隠れている誰かを引きずっていくことも検討していました。この子がわたしに捕まったのは勉強不足と運のなさのせいですね。


「安心してください。しばらくは命の保証はしますから」


 これで鬱陶しい罠を気にせずに進むことができます。

 口にした内容は本心で、殺してしまえば祝福は消えて、また一歩進むごとに悪辣な罠が襲ってくるようになるでしょう。

 だから殺しはしません。

 こんな風に賊に捕まった場合は、すぐさま自害するように言いつけられていると思うのですが、この幼い少女にそれができるかは怪しそうです。

 まあ、一応は気をつけておきますけれど。


「さあ、行きましょうか」


 わたしは少女を脇に抱えて通路を進み始めます。


 罠は発動することもなく、わたしは順調に城の奥へと向かって行くのでした。




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