74.悪戦苦闘
戦闘描写って難しい
まずは相手の戦力分析だ。
ファルスというらしい金髪の優男。
こいつはアリーシャ様経由で知っている。
毒と薬のエキスパートで、ウルシに喧嘩を売って返り討ちにあった間抜け野郎だ。
俺にはよっしーから貰った『免疫』の加護がある。これがあるため奴の専売特許である毒が効かない。
先ほども俺の身動きを封じようとしたみたいだけど効果がなかった。
かと言って、奴が脅威ではないかと言えばそうでもない。
レジィとかいう女。こいつの尋常ではない動きはファルスの能力によるドーピングの結果だ。
それに、走って来た集団の狂った様子もこいつが原因ではないかと俺は睨んでいる。
俺には効果がなくとも、こいつの能力が他の人間に向けられればその効果は極悪だろう。
任意で局所的にバイオテロを起こせるのだ。
そんな危険人物を野放しにはできない。
一方でレジィの脅威度は未だに計り切れない。
彼女が晒した手札と言えば、ドーピングされたその肉体性能のみだ。
その力量は身体強化した俺とほぼ互角。
ここで彼女自身の隠し玉を上乗せされれば、下手をすると一気に勝負を決められてしまう可能性がある。
薄気味悪いバカップルどもだが、それでもやつらは夜会の一員。
超A級の凶悪犯罪者だ。
相手の手札が一つ通じなかったからといって油断できない。
正直、一人で戦うには厳しい。
けれど、増援は期待できない。
都合よく誰かが助けに来てくれるかも、なんて甘ったれの幻想だ。
だから、この場にあるもので切り抜けるしかないってわけだ。
「よーし、まずはっ」
強化を全開にして突貫。
レジィは勢いの乗った斬撃を両手の短剣で綺麗にいなし、お返しに蹴りが飛んでくる。
俺はそれを避けずに、体でそれを受け止める。
「っ!?」
「かはっ!」
まさか決まると思っていなかったのだろう。予想外に入ってしまった一撃に顔には驚きと困惑が浮かんでいる。
俺も想像以上の衝撃に息を吐き出す。
しかし、結果は想定の範囲内。
だから、次の動きは俺の方が少しだけ先んじられる。
「いくぜ」
「きゃっ」
空いていた左腕で引き戻されようとしていた足を掴む。こんなほっそりとした女の足で何であんな威力のある蹴りが出るのか謎だ。
足だけでなくレジィという女は全体的に細い。
ちょっとした衝撃で折れてしまうのではないかと思う程華奢だ。
まあ、折れてしまっても構わないんだけど。
俺がやろうとしていることはつまりそういうこと。
「せーのっ!」
抵抗される前に体を捻ってその場で一回転。
当然、俺に足を掴まれている彼女も勢いよく振り回される。
見た目からして体重は五十キロで、服や体に仕込んだ武具なんかを合わせても精々が七十キロくらいだろう。
いくら肉体を強化しようとも重さまでは変わらない。
そして、全力で身体強化した俺には百キロにも届かない物体なんて軽いもの。
片腕で振り回せてしまうくらい、軽い軽い。
「レジィ!!」
「こいつが心配か? なら受け取れよ!」
さらに二回転して遠心力をつけると、地面を蹴って跳躍。
運動エネルギーをすべて注ぐようにして、慌てるファルスへと勢いの乗ったレジィを振り下ろす。
「くっ」
しかして、ファルスの取った行動は後ろへの回避。
結果として、レジィは床へと叩きつけられることとなる。
こんだけ勢いよく硬い床に激突すれば全身の骨が砕けていてもおかしくない。
自身の頑強さを利用した不意打ちで、まず一人を仕留めた。
さっきので二人纏めてやれていれば好都合だったが、それは高望みか。
ともかく、片方は脱落。あとは得手を封じられた敵一人。これなら、
「【凍てつき、腐り落ちよ】」
「が、あああああっ!?」
左腕が一瞬にして霜柱に覆われる。
焼かれるような激痛にたまらず手を放し、転げまわるようにして二人から距離を取る。
「あの状態から、魔術を使うだ?」
気を引き締めていたつもりでどうやら俺は奴らを侮っていたらしい
相手は想像以上の化け物であると肝に銘じなければならないようだ。
その授業料が左腕一本というのは、かなり高い代償だ。いや、命を取られなかっただけ安いと考えるべきか。
「まったく、酷いことをするのね」
「大丈夫かい、レジィ」
「大丈夫じゃないわ。見てよこれ、せっかくのドレスが台無しよ」
ふざけてんのか。
顔が引き攣って、笑えもしない。
あんだけ振り回して勢い乗せて、全力で叩きつけたんだぞ?
なんで、平然と立ち上がってドレスの汚れなんぞ気にしてられるんだよっ!?
「化け物かよ……」
一度きりの不意打ちで勝負を決めに行くつもりが、結果がこのざま。
相手は服が汚れた程度で実質無傷。
こっちは左腕が凍りついて使い物にならなくなった。
「やばいな」
先ほどの攻防で、俺は自分の頑強さを晒し、相手も同様に怪物じみた強靭さを見せつけた。
互いにカードを見せ合うことになったものの、そこに生じた被害は天地の差がある。
利き腕ではないけれど、こっちは腕一本の損失。戦力はガタ落ちだ。
距離を取って仕切り直しとなったが、先ほどまでより戦況は一気に悪化した。
「まるで私をモノのように扱って……人の心というものがないのかしら」
「僕としては君の足を無遠慮に触ったことが腹立たしくて仕方ないよ」
「本当、汚い手に捕まれて気持ち悪いわ。できる限り惨たらしく殺してやるわね」
「ああ、可能な限り長く、痛く、苦しくしてあげるといい」
敵さんのやる気スイッチも押してしまったようだ。
息の詰まるような殺気が二つ、こちらに狙いを定めた。
脚の速さは完全に負けているし、逃げるのは難しいだろう。
物理的に殴って殺せないなら、剣で首を落としてやれば死ぬだろうか。ああ、でも、生首になっても平然としてたやつの仲間だしなぁ。
なら、首を絞めて窒息死でも狙うか。
「今度はこっちから、ね!」
「チッ」
ジグザグにフェイントを入れながら迫るイカレ女。
左からの襲撃に何とか対応し防ぐものの、二振りと短剣と体術の入り混じる連撃に片腕では対応できず、一発二発と打撃を食らう。
斬撃だけは何とか逃げているが、近いうちに体のどこかが切り裂かれるだろう。
「――――さっきのお返しよ」
「うお!?」
顔の横スレスレを短剣が掠めて飛んでいく。咄嗟に躱すも、次の瞬間には服を掴まれ体勢を崩した状態から一気に引き倒されてしまう。
「まずは両目を頂くわね?」
揺れる視界で凶刃が煌めく。
目を切り裂いて視界を奪うつもりか。
体の上から弾き飛ばそうとするも、重心を抑えられていてすぐに逃げ出すのは無理そうだ。
少し姿勢を崩してもこの女なら正確に俺の目を切り裂くだろう。
「させるか!」
こうなったら仕方ない。
奥の手を切ろうと意識を向けた直後。
「――っ」
レジィがいきなり体の上から飛び退いたかと思うと、彼女がいた空間を一筋の閃光が貫く。
「今度は何だ!?」
閃光の出所を探ると、そこには宙に浮かぶ一つの光球。
電球が空を飛んでいる……のではなく、ここまで案内役を務めてくれていた光の精霊アルフィーだった。
アルフィーが強く輝くと、閃光が放たれレジィを襲う。
「お前、ビームなんか撃てるのか」
ちょっと感動、してる場合じゃないな。
いつの間にか消えていたかと思ったら、身を隠して援護の機会を見計らっていたようだ。
「精霊、か。面倒だね」
アルフィーの攻撃は直撃こそしないものの、レジィを後退させ俺たち間に距離を生み出す。
一息、つけるか。
「悪い、助かった」
お礼を言うと、アルフィーは答えるようにフルフルと震える。なんか可愛い。
なんて思ってたら、ビームが飛んできた。俺に。
「ちょっ!?」
ビームが凍った左腕に当たると温かな光に包み込まれる。その優しく柔らかな光には覚えがあった。
夜狐と戦った時に浴びたあの光だ。
「あの時のも、お前が助けてくれたのか」
霜で覆われていたはずの左腕は元の色を取り戻し、無くなっていた感覚も蘇っていた。
最悪、切り落とさないといけないと思っていたが、どうやらその必要はなくなったみたいだ。
「全快、てわけじゃないさそうだな」
左腕の感覚がやや鈍い。
使い物になるだけマシか。
「さて、続きと行こうか?」
「まだやるつもりかい? 君じゃあ、レジィには敵わないのはわかっただろ?」
そうなんだよな。
これ、アルフィーの支援が入ったところで俺じゃあ勝てない。
そもそも、攻撃が通らないんじゃ勝ちようがない。
「なら、諦めてさっさとそこを通してくれないかな?」
「思ったんだけどさ」
そう、このままでは勝てない。今のこの状況では。
「何でそんなに慌ててここを通ろうとしてるんだ?」
別に奴らがこの道に拘る必要はない。
踵を返して元来た道に戻り、他の通路を使えばいいのだ。
じゃあ、なんでそうしない?
「元来た道に戻れない理由でもあるのか?」
「「……」」
押し黙る二人。こいつら腹芸の類は上手くない。なら、俺の推測は当たっているのだろう。
「例えば、そう。お前らが戦いたくないような相手が後ろにいる、とかな」
強化した聴覚が近づいてくる足音を拾う。
甘ったれの幻想、こちらにとっては死神の足音。
そして、そいつは姿を現した。
「その恰好、似合ってるぜウル」
「――――えへへ!」
メイド服を纏った黒髪の美しい少女。
毒の竜人、ウルシ。
参戦。
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