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69.入場

 俺とはぐれた後、ウルシは街中で夜会のメンバーと遭遇し、そうとは知らない内にこれを撃退してしまったそうだ。

 何でも彼女に薬を盛ろうとしたらしいのだが、運のない奴である。

 毒竜であるウルシにはいかなる薬品も凶悪な病毒でも意味をなさない。

 毒と薬が表裏一体であるように、あらゆる毒を精製できるウルシは同時に解毒薬も作りだせてしまう。

 すべての毒使いの上位の存在であり、その相性は最悪。

 その夜会の男にも盛られた毒をその場で解析、精製してお返ししてやったそうだ。


 まあ、しかし。今回はウルシだったからよかったものの、これが別の誰かであれば笑えない。

 ただの一般人と思っていたら、知らない内に毒を盛られて自由を奪われるだなんて恐ろしい話だ、

 現に、そいつは相手を動けなくして開放するふりをして拠点へと連れ帰り、人知れず残虐な行為を繰り返しているようなクソ野郎だったそうだ。

 様々な薬を投与して廃人になるまでその反応を鑑賞して楽しんだり。証拠を隠滅するために、遺体に特殊な薬品をかけて溶かして下水に流したり。


 夜会にはそんな下卑た連中が他にも何人もいて、好き勝手しているらしい。

 そして、俺はそんなやつらと敵対していて、今夜にでも戦うことになるかもしれないのだ。

 気が重いったらありゃしない。


「……似合ってねえなぁ」


 姿見に映ったものを見ているとさらに気分が落ち込んでくる。

 馬子にも衣装……にもなってないな。


「準備はできたでありますか?」


「ええ、まあ、一応は」


 様子を見にやってきたロザリアが俺の前に立ってチェックを入れるように頭から足先まで視線を走らせる。


「問題なく着られたようで。これなら大丈夫でありますな」


 クレア王女を護衛することになった俺は、まずは彼女の周辺に立つに相応しい服装を整えることとなった。

 第三王子の成人を祝うパーティに出席するクレア王女の護衛につくということは、俺自身も夜会にあったものを着なければならない。愛用している普段のオンボロ装備は却下というわけだ。

 というわけで、パーティに出席する王女の護衛が着るものとして、式典用の近衛騎士の制服を貸してもらえることとなった。

 一見、上品な礼服にしか見えないけれど、特殊な素材で作られていて丈夫だけど動きやすく、至る所に鉄板やら魔術防御が付与され、さらには色んなところに武器が仕込めるようになっているという恐ろしい逸品である。

 ただ一つ問題点をあげるとすれば、


「俺には全然似合わないな、これ」


 ゴロツキが高級スーツ纏ってるみたい。


「それは姿勢や所作のせいでは? 近衛騎士なんて全員がバリバリの貴族でありますから、レイド殿は貴族らしい動作ができていないのでそこでイメージとの食い違いがあるのではないかと」


「あー、言われてみるとそうかも?」


 貴族らしい服を着てるのに、どうもだらっとした締まりのない動きをするため違和感があるのかもしれない。

 あと、自分がこんな服を着慣れないというのもあるのだろう。

 全くもって着こなせていない。


「……今から礼儀作法を叩き込む時間はないでありますからなぁ。自分からは背筋を伸ばして、少し胸を張るような姿勢を意識する、くらいのことしか言えないであります」


 残念の塊のような女騎士であるロザリアが違和感なく着熟しているあたり、彼女の助言は間違ったものではないのだろう。

 意識して姿勢を正してみる。


「こう、か?」


「そうですな、ちょっとマシになったであります。まあ、姿勢に気を取られ過ぎて警護が疎かにならないようにしてほしいでありますけど」


「……ごもっともで」


 やっぱり場違いなんだよなぁ。


 似合わない服装に身を包んだ俺はロザリアに連れられてクレア王女の元に向かう。

 控室に入ると生暖かい笑みを浮かべたクレア王女に迎えられた。


「あら、レイド…………意外ととてもよく似合っているわ」


「……社交辞令をありがとうございます、王女殿下」


 無理して褒めなくていいよ。

 何か言い返してやろうかと思ったけれど、ふんわりとした白とピンクのドレスは彼女に非常に似合っておりケチの一つもつけられない。


「王女殿下も大変可愛らしいと思いますよ」


「ふふん、アンと一緒に選んだのだから当然よ」


 と、自慢げに胸を逸らすクレア王女。

 アンって俺に名乗ってた偽名だったよな。どうも本物のアンがいるようだ。


「そうそう、アリーシャからの荷物が届いてるわよ」


「もう? 流石はアリーシャ様、仕事が速い」


 荷物というのは急遽クレア王女の護衛に就くことになった俺のためにアリーシャ様が用意してくれた装備のことだ。

 彼女の屋敷に保管してある武具から使えそうなものを連絡を入れて持ってきてくれたのだ。部下想いの上司で泣けてくるわ。


 そして、届けられたのは一振りの片手剣と宝飾のついた腕輪。そして一通の手紙。

 さっそく手紙を開いて内容を確認すると、手紙というよりは武具の取り扱い説明書だった。


「……マジか」


 これが本当なら、なかなかにえぐい性能だ。

 涙が出そうだ。

 まあ、使いこなしてやりますけどね。


「逆にこれくらいの装備じゃないと不安なくらいだ」


「今回の一件はどうにも想像以上の事態のようですからね」


 気丈に振る舞っているけれど、クレア王女の顔色は化粧では隠し切れないほど悪い。

 それもそのはずだ。


 昨日、ウルシによって捕らえられた夜会のメンバーは街中で堂々と魔術を発動して彼女を嵌めようとしたらしい。

 けれど、実はこれ、かなりおかしなことなのだ。

 王都には複数の結界が張られていて、その中に一定以上の規模の魔術の阻害と魔術の探知という効果が含まれている。

 街中で強力な魔術が使われれば甚大な被害が出るため、その対策が取られているのは当然のことといえよう。

 フェニキシアの都市内では、悪用されても大して被害の出ない下級魔術くらいしか使えない。腕の立つ術者であれば、結界の妨害を受けながらでも中・上級の魔術も発動できるらしいが、威力や精度が下がり下手すると暴走して自爆するため普通は使用しない。

 街中で使用された魔術は探知・記録され、それが違法であればその情報を元に騎士団がすぐさま追いかけて来る。


 このように魔術という力に対抗する措置が施されているものの、しかし何事にも例外が存在する。

 騎士団や冒険者ギルドの訓練施設などには『魔術を妨害する結界を緩和する結界』というものが張られている。魔術の訓練がしたいのに、その魔術が使えないのでは話にならない。こういった事情がある場所では申請を出し許可が下りれば緩和の結界を張ることができる。

 各貴族の屋敷にも、私兵の訓練や賊に対する防衛のため、といった理由から『選んだ対象の妨害を緩和する結界』というものが張られている。これはアリーシャ様も屋敷にも当然ながら存在する。


 そう、魔術というのは悪用されれば困るが、全員が使えないのは不便なのだ。

 現代で自動車に乗るのに免許が必要なように、この国でも一定の条件を満たせば結界内でもある程度魔術の行使が可能なのである。


 国としても、例えば転移の魔術などは悪用されたくないが、自分たちが使えるのなら非常に便利だ。

 だから、悪意のある者には使えないように対策がされているし、自分たちはその恩恵を受けられるような抜け穴が作られている。


 貴族の屋敷に張られている『選んだ対象の妨害を緩和する結界』というものと理屈は同じだ。この対象というのは、結界が識別するための道具を持っている者を指す。

 国は信頼のおける魔術師や騎士に、結界内でも自由に魔術を行使できるようになる記章を渡している。


 ここまで言えばわかるだろう。


 今回、敵である夜会のメンバーはこの記章を所持している。

 しかも最悪なことに、捕らえた男から出てきたのは、国が後ろ暗い仕事を任せる時に渡す『一切の制限を受けず、かつ結界に探知も記録もされない記章』だった。

 テロリストの手に渡るなど悪夢のような代物である。

 そして、こんなものを用意できるのは国の重鎮でも限られた一部のみ。


「国の中枢に裏切者がいるって、笑えねぇよ」


 秘密裏に夜会に件の記章を渡した人物が存在するのは間違いない。

 黒幕はクーデターでも目論んでいるらしい。

 その標的に自分も含まれているという事実は、まだ成人も迎えていない少女には厳しすぎる現実だ。


「クレア様、安心してほしいであります」


 ロザリアが真剣な表情で少女の前に膝をついた。


「不肖、このロザリアが命に代えても貴女を守って見せるでありますゆえ」


「……ロザリア」


 それは幼き姫君に誓いを立てる騎士という、なんとも美しい光景だった。


「真面目にしている貴女ほど不安になるものはないわ……」


「なんですとぉ!?」


 きっと普段の行いが悪いのだろう。忠誠を誓う騎士の言葉は主にまるで信用されていなかった。


「それに命に代えなくても私を守るくらいしてほしいわ。そのくらいできるでしょう?」


「むぅ……」


 ……仲のよろしいことで。


「俺も、死なない程度にがんばりますよ」


「ええ、そうして頂戴」


 気品のある微笑を浮べる少女からは、先ほどよりもいくらか緊張が解れている様に感じられた。

 可愛いお姫様からの期待には応えないわけにはいかない。


 そして時間がやって来る。


 小さき姫君の後ろに控え、パーティ会場へと足を踏み入れた。




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