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43.問題児

「全員無事にFランクに昇格しました」


「ご苦労様。思いのほか早かったわね」


 その日の夜、今日の成果を報告しにアリーシャ様の元へと訪れていた。最近、彼女はどこかへ外出していることの多い。少し前に帰って来たばかりだったが、報告はなるべく早い方がいいだろうと、少し時間は遅かったが明日に回さず今日のうちに済ませておくことにした。ダメならケイトさんに追い払われただろう。

 部屋に通された俺は、ソファーに座りお気に入りの紅茶を嗜んでいた彼女の正面に座らされ、なぜかケイトさんが淹れてくれたお茶に付き合わされここ最近の様子をまとめて話すことになった。とりあえず、一番の成果を話すとアリーシャ様は嬉しそうに笑う。


「ただ、次の昇格試験は協力してくれる商人が見つかるまではどうしようもないですね」


「そう。それについては仕方がないわ」


「見つかれば試験の合格は間違いないんですけどね」


 礼儀作法と言っても、貴族に対するようなそんな堅苦しいものではなく、商人らや他人と揉めない程度の礼節さえ持ち合わせていれば問題ない。学のない無法者の冒険者らができるくらいなので、そう難しくはない。

 元々、貴族であるアリーシャ様やゴーシュさんの下についていたモカは最初から心配していない。俺も以前合格している試験だ。

 残る懸念はウルシだが、戦闘狂と言っても誰彼構わず襲い掛かるような節操なしではないし、言ったことを守る素直さは持ち合わせている。大人しくしていれば大丈夫だろう。


「そういえば、モカが落ち込んでいたみたいだけど、何かあったの?」


「あー、やっぱりまだ落ち込んでましたか?」


 模擬戦で唯一の敗北を喫したモカが帰りの道中、酷く暗い顔していたのを覚えている。

 夕飯時に食堂で見かけた際には、多少元気が戻ったのか暗い表情などせずいつも通りに見えた。

 しかし、魔眼を持つアリーシャ様が言っているのだから、未だに敗戦を引きずっているのだろう。俺も、強くなりたいと努力していたあの少女が、敗北から持ち直すには少し早いと感じていたので納得できた。


「試験自体には合格したんですけど、その模擬戦でモカは負けちゃって」


「あら、あの子が負けたの?」


「モカが強くなりたいのは知ってたので、一番強い相手とやらせたんです。それが一番勉強になるので」


 強者との戦いは糧となる。

 格上の戦い方から技術を盗み、浮き彫りとなった自分の弱さから新たな課題を見つけ出せる。

 敗北すれば不足を知り、勝利すれば自信を得られる。命を懸けない戦いならば、強者との戦いはどう転んでも良い経験値になる。


「……そう」


 俺の報告にアリーシャ様は目を伏せて何か思考し始めた。

 もしかして、モカが負けたって話であの子の評価下がったりした?


「あ、あの、試合には負けましたけど、相手の試験官も見どころがあるって褒めてましたし、モカはあの年で十分すぎる実力があると思いますよ」


「ん? いえ、私が考えてたのは別のことよ?」


「そ、そうですか」


 早とちりだったらしい。

 しかし、アリーシャ様は難しい顔をして言葉を続けた。


「……あまり私から干渉するつもりはなかったのだけど、このままだと少し心配ね」


「何がですか?」


「レイド、モカのことどう思ってる?」


 俺の質問は放置され、代わりに投げかけられたのは珍妙な問い。どうって言われても、妹みたいな感じか?

 恋愛対象ではないな。


「ごめんなさい、困らせたみたいね。言い方を変えるは。貴方はモカという人物にどういう感想を持った?」


「素直で、頑張り屋。故郷のために強くなろうと努力していて、結構負けず嫌いな子、ですかね。魔術師として評価するなら、13歳であそこまでできるのなら天才でしょう」


 白兵戦ではガンツに後れを取ったが、獣人である彼女は近接戦の適性も低くはない。五年もすればハルデリータを抜くだろう。

 アリーシャ様が見出しただけはある逸材だ。

 しかし、俺の批評は彼女を満足させるものではなかったらしい。


「一週間程度だと、やっぱりそれくらいの認識なのね……」


 彼女の物言いは、俺の評価があまりにも不足していると告げていた。


「モカがいつから魔法の習得を始めたか知ってる?」


「さあ? 一年前にゴーシュさんのところへ修行に行ったのは知ってますけど、いくつから魔法を習い始めたかまではちょっと」


 ベイルラントの村で暮らしてたって言ってたけど、そういうのは聞いてないな。あれ、でもほんと、いつ覚えたんだろう。あの腕前からして、結構小さい時から習ってたのか?


「モカが魔法の修行を始めたのは二年前よ」


「へえ、二年ですか。………………二年?」


 魔法を習い始めたのが、二年前?

 あれだけの腕前で?

 たったの、二年?


「ちなみに私がモカと出会ったのも二年前。「強くなって故郷を取り戻したい」と言った彼女を拾って、一年間は文字や数学とかずっと勉強させてたわ。あまりにも早く習得していくものだから、本格的な修行のためにゴーシュのところへ送ったの」


 どうも俺はモカを見誤っていたらしい。

 若くして魔法を収めた天才?

 そう、モカは間違いなく天才だろう。

 その天才の「強くなりたい」という願いを、執念を俺は分かっていなかった。その想いの強さを理解できていなかった。


 11歳だった少女が、才能があったとはいえ僅かな期間であれ程までの魔法の使い手となった。そこにどれほどの想いと努力があったのか、俺は想像できていなかった。


「……すごいですね、あの子」


 月並みだが、そんな言葉しかいうことができなかった。


「そう、あの子はすごいのよ。そして危うい」


 アリーシャ様は紅茶を飲み干すとソーサーにカップを置いた。


「気質、才能、努力。どれを取っても申し分ないわ。だけど、モカはまだ幼く不安定なの。あの小さな体に秘めるには大きすぎる意志もあって余計に。表面上は取り繕って見せるかもしれないけれど、その内面によく気を配ってあげてほしいの」


「肝に銘じます」


 俺が接してきたモカという少女はとても良い子だった。しかし、その分抑圧している感情もあるのではないだろうか。

 ただでさえ13歳なんて難しい年頃だ。アリーシャ様が警告するということは、モカの精神状態は相当不安定なんだろう。そう思うと、確かに今までの俺は慎重さを欠いていたかもしれない。


「本当はレイド自身に気づいてほしかったのだけど、何かあってからじゃ遅いからね」


「すみません。未熟で」


 開拓隊の隊長を任せられれば、上に立つものとして部下の面倒も見なくてはならなくなる。冒険者の技術だけでなく、そういった手腕も彼女は求めているのだろう。

 最近、少し気が抜けていたようだ。精進しないと。


「大人しそうに見えるけど、あの子はあれで行動力が高いの。目を離さないよう気をつけてね」


「へえ、意外ですね」


「11歳の子供が、故郷を取り戻すために貴族の元にやって来たのよ?」


 それは、うん、確かに。

 目を離さないように気をつけよう。

 ウルシだけじゃなくて、モカまで爆弾に見えてきたんだけど。


「モカは強い動機を持っているわ。原動力のある人間は、時に周囲の予想を超える結果を出して見せる」


「ああ、ギルドの知り合いにもそういう奴がいましたよ」


 モルロなんてまさにそれだろう。愛の力を爆発させて、Eランクからたったの一年でCランクまでのし上がって見せた。

 まあ、最後は無残に撃沈してしまったが。


「そういう貴方もじゃあないの?」


「俺ですか? 今の俺は貴女に受けた恩を返したいって気持ちはありますけど、まだ胸を張れるような大きな結果は出せていませんよ?」


「今は、ね。でも以前なら身に覚えがあるでしょう?」


「……」


「冒険者を始めて、たった二年でCランクにまで至るなんて、並大抵のことではないと私は思うわよ」


「……俺は別に、冒険者として成り上がることを目指していたわけじゃありませんよ」


「知っているわ。貴方の目標が別にあったことも、冒険者が生活するために片手間でやっていたものであることも」


 どうやら、俺のことは色々と調べつくされているらしい。あまり思い出したくない話も含めて、色々と。


「俺としては、まだほじくり返してほしくないんですけどね。そこら辺は」


「そのつもりはないわよ。私もレイドとは仲良くいたいからね。けど、原動力を持った人間の行動力ってのは貴方もよく知っているでしょう? モカも似たようなタイプだから気をつけておいてほしいってだけよ」


 デリケートな部分はさらりと避けられ、会話は元の位置へと戻った。

 隠していたつもりはなかったけど、やっぱり貴族の情報収集能力って怖いな。個人的な案件までバレてるや。


「わかりました。これまで以上に気を配ることにします」


「よろしくね。期待しているわ」


 微妙な空気が流れてしまったので、そろそろ退散させていただくことにした。

 今日は彼女の方から俺の傷に踏み込んできた。これからの付き合いを考えれば、いつかその話をするときがあるかもしれない。

 けれど、まだ俺には整理する時間が欲しい。あともう少しだけ。


 退出しようとドアノブに手を伸ばしたところで扉がノックされ、誰かの来訪を告げる。やって来たのは、少し困った顔をしたナナさんだった。


「どうしたの、ナナリー?」


「えーっと、ついさっきモカちゃんが荷物担いで外に出てったんですけど、何か知ってますか?」


『…………』


 今日はゆっくり体を休めるように伝えていたので、当然ながらモカに夜中に外出するような命令は出してはいない。それはアリーシャ様も同じだ。


 ……モカよ、行動が早すぎるぞ。

 どちらの命令でないとすれば、これはモカの勝手な行動、つまりは暴走だ。


「まったく、あの子は……」


 珍しくアリーシャ様も頭を抱えるほど呆れていた。

 けれど、このまま放っておくわけにもいかない。


「すぐに追いかけますね」


「頼むわ」


「あっ、それとモカちゃんの後を追ってウルちゃんも出ていきました」


「あの問題児どもがっ!」


 暴走するモカとそれを追いかけるウルシ。

 どう見ても平穏に終わる気がしない。

 混ぜるな危険の組み合わせだ。


 彼女たちを追いかけるために、俺は部屋を飛び出した。


二月は更新が不定期になるかもしれません。

最近、ちょっと忙しいので時間が取り辛いです。

爆ぜろリアル!

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