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35.冒険者講座 G級採取編

 冒険者登録を終えた俺たちは王都の東にある平野へと赴いていた。

 昼過ぎに行ったので、ギルドは閑散としていて登録自体もスムーズに進んだ。受付も新人で顔見知りではなかったので立ち話もなく、本当にあっさりと終わった。

 なので、せっかくGランク冒険者になったので依頼を受けてみることにした。


 Gランクというのはいわゆる冒険者見習いで、採取か雑用くらいの仕事しかない。討伐系でもよかったが、最初ということで薬草採取の依頼を受けた。


「討伐系の依頼がよかったなぁ」


「文句言うな。なかったんだから仕方ないだろう」


 よほどフラストレーションが溜まっているのかウルシは未練がましくぶつぶつ呟いている。

 討伐系はFランクの依頼で俺たちのランクより一つ上の依頼だ。規定上、ランクより一つ上の依頼までなら受けることができるのだが、残念ながらFランクの討伐依頼が一つも残っていなかったのだ。


「王都には騎士団が常駐していて、日頃から魔物はあいつ等の訓練で討伐されてるんだよ。だから王都周辺の討伐依頼なんて繁殖力の強い低級の魔物くらいしかない。そして、そういう依頼は取り合いになる。午後からきて残ってるわけないだろう」


「うわあん!」


「特に今は誕生祭が近いから治安維持のために魔物や盗賊退治に騎士団が大量投入されてるんだ。この辺りに強い魔物なんているわけがないし、いても冒険者に回ってくる前に騎士団に討伐されてるんだよ」


「うわああああん!


 Gランクの採取の依頼が残ってただけでもまだラッキーなんだぞ。

 それに、魔術師として指導を受けていたモコにわざわざ戦闘の指導をする必要をあまり感じない。連係の訓練はするが、個人の戦闘技術はゴーシュさんから教えを受けているはずだ。

 確認してみるとモカも当然と頷いた。


「実際に魔物と戦わされたこともあります。ゴブリンやコボルトなら一人でも対処できますよ」


「そもそも、俺は魔法なんて使えないから魔術師の戦闘訓練なんて頼まれてもできないしな。教えるのは探索系のことが中心になるかな」


「えー! それじゃあ戦闘はしないの!?」


 連携の練習はするけど、ここら辺は大した敵はいないぞ。

 そう事実を教えてやるとがっくりとウルシは肩を落とした。ギルドカードを受け取った時の子供のようなはしゃぎようはすっかりと消えてなくなっている。


「あはは……ディー、じゃなくてウルさんって相変わらずですね。戦いのことばっかりで」


 意気消沈してしまった彼女を見てモカは苦笑いだ。

 モカもゴーシュさんの屋敷でお世話になっていたため、すでに二人は顔見知りだったのだ。

 顔見知りの手料理で断り切れず、結果昨日は倒れることになったのだろう。


「ウルってゴーシュさんのところでもこんな感じだったのか?」


「そうですねぇ、基本戦うことしか考えてない印象でした。……ああ、でも変わらないのはそこだけです。人の姿だと柔らかくなったというか、とても接しやすいです」


「そうか。そうだよな。もはや別人だよな」


「喋り方も違いますし、なにより女性だったことにびっくりでした。ゴーシュさんも知らなかったみたいで、驚いてましたよ。何でも会った時から竜化したままだったそうです」


「だって、あっちの方が戦闘力高いし、誰も絡んでこないし、慣れると結構楽なの。というか、どの人にも男だと思われてたことがショックなんだけど。どっからどう見ても女の子にしか見えないのに……」


「見えないな」


「モカも見えません」


「ひどい!」


 あんなの同じ竜人同士でしか判別できないだろう。

 いじけてそっぽを向いたウルシを見ながら、モカは小さく呟いた。


「……少し合わない内に、本当に変わりましたね」


 その後もやいのやいのと騒ぎながら親睦を深めているうちに目的地へとたどり着く。


「ここだ」


「おおっ」


「いっぱい生えてます!」


 街道を外れてしばらく行ったところの丘を一つ越えると、そこには薬草の群生地が広がっていた。

 ここは指定された薬草がよく生えていることで有名なスポットだ。王都で活動している冒険者ならほとんどが知っているくらいの名所だ。新人の訓練によく使われている。


「ここにあるやつ全部使えばポーション作りたい放題だね!」


「依頼の薬草じゃあポーションは作れないぞ。できるのはたしか、筋肉痛に効く塗り薬って聞いた気がする」


「えぇ……」


 いまさら落ち込むなよ。Gランクの依頼なんてこんなもんだ。


「まあいいや。よしっ、いっぱい採ろっと! モカちゃん競争ね!」


「負けません」


「馬鹿野郎。採取地が荒れるだろうが。一人十本くらいでいいんだよ」


「「……はーい」」


 初依頼が簡単な薬草取りなため、二人ともちょっと不満そうだ。

 魔物を倒したり、迷宮に潜ったりしてみたいのだろうが、そういうのはもっとランクが上がってからだ。Gランクの間は、こういう地味な仕事もあるのだとしっかりと現実を知ってほしい。

 それに、簡単とは言っても、実はちょっとした罠があるんだよなぁ、ここ。


「終わったよー」


「集めました」


 そこら辺に大量に生えているうえ、集める数も少なかったため、二人はすぐに薬草を集め終えて俺のところに持ってきた。当然、俺もとっくに集め終えている。


「よーし、どれどれ…………これと、これはダメだな」


「ええっ!」


 あっ、これもダメだ。

 モカから受け取った束からいくつかの薬草を抜き取って捨てる。

 せっかく自分が集めてきた薬草が地面に捨てられていくのを見て食って掛かる。


「な、なんでですか! 何で捨てるんですか!?」


「だって毒草だもん、それ」


「えっ?」


 実はこの採取地、薬草だけでなく毒草も混じっている。生えている植物は一種類だけではないので、薬草の他にも毒草があってもおかしくはない。

 そして、今回指定された薬草によく似た毒草があり、この場所にはその二つが仲良く生息しているのだ。

 採取品の鑑定眼を養う訓練として、この採取地はよく利用されるのだ。


「あ、これもだ。ほら、こことここを良く見比べてみな」


「……根元の色が違う?」


「そうだ。赤い方が薬草で、白い方が毒草な」


 楽勝だと思った採取の仕事で、似ているけど全く違う物を持ってくる新人冒険者は少なくない。こういう知識を身に着けるのも冒険者には必要なことなのだ。


「絶対に引っかかると思ったんだぁ」


「ううっ、集め直します……」


 悔しそうにしてモカはもう一度薬草採取へと戻った。


「ねえ、私のは?」


「ウルのは……お?」


 すごいな。まさかの結果に少し驚いた。


「全部正解だ」


「えへへ。見た目は似てたけど、匂いとか雰囲気が全然違ったからね」


 一瞬、何言ってんだこいつ、と思ったがウルシが毒の竜人であることを思い出した。

 薬毒のスペシャリストだけあって、薬草と毒草を間違えることはないのだろう。

 大雑把な性格だからこいつも引っかかると思っていたのだけど、ウルシの種族のことを考えれば当然の結果だったな。


「……ねえ、まだ時間はあるんだし、そこの森に入ってみない?」


 モカが薬草を集め終えると、ウルシが鬱蒼と木々の生えた方角を指さした。

 全く、こいつは。


「森か……」


「ダメ?」


 表情では渋りながらも、内心では少し迷っていた。

 このまま薬草採取だけで終わっては二人は満足しないだろうし、折角野外に出ているというのにこれで戻るのは少し勿体ない。

 それに、正直物足りないのは俺も同じだった。

 予定になかったこととはいえ、土壇場で予定変更なんて冒険者にはよくあることだ。そもそも、この依頼を受けたのだってその場で決めたことだったし。

 戦力にしても、ウルシがいるだけ過剰なくらいだ。モカに危険が及ぶことはまずありえないだろう。


「行っちゃおうか」


「やった!」


「でも、森に行って何するんですか?」


 ウルシとは違い、採取で一度失敗したモカは冷静になったのか、嬉しそうにはしているがこれからの行動を尋ねてきた。


「あ、そうか。もう依頼内容の薬草は集めちゃったもんね」


「依頼中に別のものを採取しちゃいけないわけじゃない。採取中に魔物と遭遇することもあるから、そいつを討伐して素材を剥ぎ取って戻ったら売ってもいい。ようは、期限内に仕事を終えればいいんだ。寄り道くらい大丈夫だよ」


 いくら騎士団たちによって魔物が減っているといっても、森の中に入れば一匹や二匹は見つかるだろう。

 見つけた魔物はウルのサンドバッグとモカの魔法を見るためのカカシになってもらおう。


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