27.加護と解放
先週は立て込んでいたため更新ができずすみませんでした。
「加護は神からの恩寵。魔法とは異なる神から与えられた特殊な力のことよ。身に覚えがあるでしょ?」
「この体のことですよね」
怪力を誇るブルーオーガと殴り合っても壊れず、どころか竜の一撃すら五体満足に耐え抜く。
魔法や魔道具さえ使わずにそんなことができるなんて、普通の肉体ではない。
前世の記憶を取り戻すまでは、ただ人より頑丈な体なのだなというくらいの認識だったが、今思うと能天気にもほどがある。
よっしーが丈夫な体にしてくれるとは言ってくれていたのは覚えているけど、加護と言うのはそれだろう。ちょっとでは済まない位に丈夫だ。
「体が頑丈になる力、てところですか。詳しくは自分でもよくわかってないんですけど」
「でしょうね。自分の加護がどういうものか知っていればあれを選んだりしないものね」
あれ?
なんのことを指しているのかわからないうちに、再びアリーシャ様が口を開く。
「貴方は二つの加護を宿している。『堅牢』と『免疫』という二つの加護をね」
二つも、と一瞬驚いたが加護の内容を聞いてすぐに納得した。どちらも言ってしまえば体を丈夫にするための力だ。
アリーシャ様が教えてくれた二つの加護の詳細はこうだ。
・堅牢の加護
肉体が頑丈になる。硬くなったりするというわけではなく、怪我をしにくくなるという意味なので刃物は普通に通る。鍛えれば魔力もなしに刃物の通さない鋼鉄の肉体になることも可能らしい。素の状態でも強い衝撃を受けても骨折したり内臓が破裂することは滅多にないレベル。
・免疫の加護
病気になりにくくなる。また、毒や病気にかかっても死ぬことはなく、すぐに快調する。そしてさらに病気にかかり難くなり、毒も効かなくなる。薬に関しては有害な効果以外は受け付ける。
「なかなかにすごい能力よね。撲殺や毒殺とかでは死なないのよ」
「確かにすごいと思いますけど例えが物騒ですね」
死ににくい体質だとは思うけど、怪我をしにくいとか病気になり難いじゃなくて最初に上がる例が殺されにくいってどうなの?
というかそのレベルで平気な体なのか。
完全竜化したウルシの一撃を受けても立ち上がれたし、思い返してみれば病気にかかったことなど一度もない。
彼女の口ぶりからして今なら高層ビルから飛び降りても死なないし、不治の病にかかっても一日と経たず完治してしまうのだろう。
いつの間に俺はそんな人外じみた存在になっていたんだ……。最初からか。
「……あ、それならウルとの戦いのときに毒対策の魔道具いらなかったんじゃないですか?」
「そうね」
「そうねって……」
知ってて黙ってたのか、この人。
一個無駄な魔道具を持っていたことになるじゃないですか。教えてくれてもよかったのに。
未練がましい視線を送っていると、逆に呆れた目で見られてため息までつかれた。
「不満そうにしているけど、あの時はまだ私と出会ったばかりだったのよ? そんな相手に、敵は毒を使うけど君は毒が効かない体質だから対策はしなくていいよ、って言われて信じるかしら?」
「無理っすね」
納得した。すっげー胡散臭いわ。
逆に不信感を持つだけだし、意地でも魔道具を持って行こうとしただろう。
「それに、その加護は完全に毒を無効化するわけじゃないの。貴方の耐性を超える毒を摂取した場合には効果が出てしまうの。だから、魔道具を持って行ったのは必ずしも間違いじゃないわよ」
そう言われれば、牢の中で毒キノコを食べた時に気を失ったことを思い出した。加護のおかげで死にはしなかったが、前世の記憶を思い出すくらいには生死の境を彷徨った。耐性は高いが、毒無効ではないのだ。
となると、ちょっと微妙か? いや、毒だけじゃなくて病気にも効果があるのなら毒無効よりは優秀だろう。
「役に立っている実感はあるけど、もうちょっと派手な加護が良かったなぁ」
あまり強い能力はあげられないとは言っていたけど、やはり本音としてはもっとカッコよさげな能力が良かった。
「レイド、本当に理解していないのね……」
つい漏れた本音を拾われたらしく、頭痛を堪えるように頭に手をやっていた。
地味な能力に愚痴ってしまったが、さっきアリーシャ様は加護が稀有なものだと言っていたのを思い出す。しかも、よく考えればせっかく加護をくれた神様に文句を言ってたわけでかなり失礼な行いだ。
神がアレとはいえ、それを知らない彼女からすれば呆れるような言動だ。
「いいかしら? 加護持ちなんて国内でも数人しか確認されていない上、二つの加護を持っているなんて前例はないの」
前例がない、というところでようやく事の重大さが伝わってきた。
えっ、それって何万人に一人くらいだ? 十年に一人くらいか? いや、そいつは毎年出て来るから珍しくないな。
ちょっと混乱してきたので深呼吸して思考を落ち着かせる。
「加護持ちは高位の魔術師よりも希少な存在よ。それを他の貴族に知られればどうなると思う?」
勧誘、で済めばいい方だろう。
ぱっと思いつくのは拍付けや戦力として囲い込まれることだ。あとは、加護の秘密を解くための実験材料とか、いやこれ以上考えるのはよそう。グロイ。
ようは、バレたら誘拐か身柄を拘束されるぞ、とアリーシャ様は言いたいのだろう。
「ああ、そんなに怖がらなくても加護持ちを手荒に扱うようなことしないわよ。なんたって神の恩寵を受けた人間なんだから、そんなことしたら神に不敬よ」
「ああ、そっか」
「でも、確実に権力争いには巻き込まれるわね」
「……」
安堵しかけたところで苦い現実を教えられた俺は黙り込むしかなかった。
貴族同士の争いに巻き込まれると碌なことにならない。冒険者なら誰でも知っていることだ。身分の低い冒険者は貴族の諍いの中では捨て駒のように扱われる場合が多く、普段も足元を見られている。
貴族に深入りしない。冒険者の鉄則だ。
加護持ちだからとはいえ、どれだけの待遇で迎えられるかはわからないし、確実に厄介ごとに駆り出されるだろう。
「自分がどういう存在なのか理解できたかしら? できたのなら、一つ問います」
「……なんですか?」
「そういった面倒事や理不尽に巻き込まれるのを承知で、私に力を貸してくれるかしら?」
感情を排した目で彼女は静かに問うた。
奴隷から解放されれば俺は自由の身になる。それでもなお、彼女に仕え続けるか。
……考えるまでもない。
「はい」
「少しも悩まないのね」
そう言いつつもアリーシャ様の嬉しそうに口端を上げていた。
自由の身とは言っても、それはアリーシャ様が俺を買い取ってくれてさらに機会を与えてくれたから得られたものだ。本当なら、今頃はどこかの鉱山で強制労働させられていただろう。
彼女にはまだその恩を返せていない。
受けた恩情に報いぬまま、面倒事が待ち受けているからと逃げ出すなんて不義理なことはしたくない。
「それに面倒とは言っても、巻き込まれるのは俺の加護についての情報が他所に漏れた場合ですよね。美味しいネタを貴女がそう簡単に漏らすようには見えない。もし知られていても、最初からアリーシャ様についていた方が安全でしょうし」
「わかってるじゃない」
形式上、意思確認はとってきたが彼女は俺を最初から逃す気はないはずだ。俺には価値があると彼女自身が言ったのだ。
買われたあの日から、貴族の事情にはとっくに巻き込まれている。自由になったからとアリーシャ様の元から去るのは悪手だ。そんなことをすれば、勘づいている他の貴族の手が伸びてくる。それを振り払う力を俺は持ち合わせていない。
加護について教えてくれたのは、親切でも何でもない。ただの忠告。逃げると碌なことにならないよ、と釘を刺されただけだ。
そもそも、貴族|《アリーシャ様》の面倒事にはすでに巻き込まれている。もうすでに手遅れだ。覚悟も決めているし、今更鞍替えする気など毛頭ないし。
「逃げるつもりなんてさらさらなかったんですがね」
「知ってるわ。加護について教えてあげたのはただの親切よ」
食えないなぁ、この人も。
するとタイミングを見計らったようにドアがノックされる。入ってきたのは案の定ケイトさんだった。
全力で逃げていたウルシをもうベッドに放り込めたみたいだ。
「お待たせしました。竜人だけあってかなりの俊足で捕まえるのに時間がかかってしまいました」
「お疲れさま。それじゃあ、ささっと外しちゃって」
「了解いたしました」
綺麗な所作で下げていた頭が上がると、ケイトさんの視線がこちらに向く。彼女に睨まれるのは苦手なので僅かに身がすくむ。
そんな俺の動揺を気にも留めずに近づいてくると、彼女の指先がそっと首を撫でる。
「終わりました」
「はやっ!」
呪文を唱えたり、光ったりするものだと思っていたら触れられて終わりだった。
つける時は結構な人数でいくつもの呪文を唱えたり魔道具を使ったりしてもっと仰々しかったんだけど……。
解放されたらまず嬉しさがこみ上げてくると思ったが、呆けることになるなんて予想もしていなかった。
「信じられないなら自分の目で確認してください」
どこからかケイトさんが取り出した手鏡が俺の顔を映す。確かに首からは黒い茨の刻印は綺麗さっぱり消えていた。
実際に確認しても、あまりのあっけなさに未だに歓喜は湧き上がってこない。
「えぇー……、もっとこう跳び上がって喜んだりすると思ってたんだけど」
「知りませんよ。埃が立たないのでその反応でいいでしょう」
そうも一蹴されては諦めるしかない。
時間が経てばまた実感がわいてくるかもしれないし、小躍りするのはその時でいいだろう。
「さて、無事に首輪も取れたことだし本題に入りましょうか」
……俺の加護とか奴隷からの解放は本題じゃなかったんですか。そうですか。
アリーシャ様にも雑事扱いされていたことに、少しへこんだ。




