25.武技訓練
「確認だけど、レイドは武技を使えるの?」
「そりゃあな」
武技というのは、魔力を利用した魔法とは異なる技のことだ。その名のとおり、魔力を使った武術であり、ゲームで例えると攻撃スキルや剣術スキル攻撃などだろうか。
もちろん剣だけでなく、槍や弓などその種類は豊富だ。
「冒険者やってればそれくらいは身につくさ。例えば」
周囲を見渡し丁度いい具合の細い枝を拾い、それを全力でヨハンに振るう。
当然、枝はヨハンに受け止められるが、金属でできた模擬剣に叩きつけられた枝は折れることなく剣を押さえつけていた。
「【剛剣】か」
「剣に魔力を纏わせて、曲がったり刃こぼれしにくく強化する技だ。冒険者には必須だろ?」
武器など所詮消耗品だ。そのくせ値は張るため、なるべく長く持たせないといけない。金銭的な面からも最初に覚えたのはこの武技だ。
魔力を止めると、競り合っていた枝はポキッと音を立てた中ほどで折れた。
「なんか地味だね」
「うっ」
ウルシの素直な感想にダメージを負う。ちょっと気にしてたのに……。
そこですかさずフォローをいれてくれるヨハンはさすがだ。
「基本の武技だからね。これから派生する技もあるし、基礎になるからこれができていれば他の武技も習得しやすいはずだ」
彼の説明に静かに感心していた。
俺の場合、一緒に組んだ冒険者の技を見て勝手に盗んだ技術なので我流な部分が多い。剛剣が簡単な部類に入る武技なのは知っていたが、基礎となる重要なものだとは知らなかった。
高度な教育を受けたことない者の多い冒険者の大半は感覚で使っているので、こういう蘊蓄を聞くのは新鮮だ。
固定のパーティーを組んでいなかったので、手の内を晒すような話を聞く機会も少なかったというのもある。
「それじゃあ、次は身体強化をしてみて」
「おう」
指示通りに身体強化を発動する。
しかし、やってみて違和感に首を傾げる。
「あれ?」
「どうかしたのかい?」
「なんか違和感が」
久しぶりに身体強化をしてみるがなぜかしっくりこないのだ。
鎧のように魔力を纏うのだが、いつも通りのはずなのにずれと言うか気持ちの悪さがあるのだ。
……なんか、もっとこう、ちゃんとしたやり方があったようなはずなんだが。
「あ、そうか」
今までのやり方に気持ち悪さを感じた理由に行きつき思わず声が出る。
先日の腕輪を使用した時の感覚を思い出しやってみる。鎧を纏う様なイメージから体内や筋肉に魔力を満たし燃料のように燃やすようなイメージに変える。すると、一気に違和感が減少した。
「いきなり良くなったね。どうしたの?」
やはり俺の最初のやり方は悪かったらしい。何もアドバイスをしない内に改善されてヨハンは目を丸くしていた。
彼のそういう反応を見るのが珍しく、少し優越感に浸る。
「効率の良いやり方をすでに知ってたんだよ。強化の腕輪をつけてた時の状態を参考にしてみたんだ」
「なるほど。あれは魔力を通せば自動で全身を強化してくれるからね。手本にはうってつけだ」
腕輪を使用した時の衝撃は今でも忘れられない。その効率と燃費の良さに俺の強化は何だったのだと思うくらいの違いを体感させられた。
あれを知ってしまえば、もう前の強化では満足できない。まさに雲泥の差があった。
「すげー、ちゃんとできてるよ」
完璧とはいかないまでも、以前よりも遥かに洗練された自分の技に思わずにやけてしまう。
今なら他の武技ももっと上手くできそうな気がしてきた。
「言っていたより、レイドは魔力の扱いが上手いね」
「魔道具使ってコツを掴んだのかな」
「ねえっ! できたら早くしようよ!」
喜びを噛みしめていると、堪え性のないお子様に急かされる。
元々、ウルシの運動に付き合うところだったし、これ以上は待ってくれないだろう。他の武技の練習はまた今度だな。
「軽くだからな」
「わかってる、よ!」
念押しするが、全くわかっていない鋭い拳が眼前に迫る。
通常なら反応できず沈められるだろうが、強化された状態でなら躱すことは難しくない。
首を逸らして避けると、お返しに拳を振るう。しかし、それは簡単に止められてしまう。
「本気で来ないと、私には通じないよ?」
「だから軽くって言ってるだろ!」
話を聞かない馬鹿娘の拳を避けながらため息を吐く。
俺が攻撃するとさらに熱が入るので、これは防御の練習と割り切り回避に専念する。それに、見た目華奢な女の子を殴るのはどうしても躊躇ってしまう。
殺し合いなら鈍ることはないが、これは運動や遊びに近い認識なのでどうしても本気になれそうもない。
回避だけでも身体強化の練習にはなるだろうし、ウルシに無理をさせ過ぎてもいけないのでこれで丁度いいのだ。
「おりゃりゃりゃりゃっ!」
竜化している時に比べればいくらか劣るが、それでもウルシの拳は鋭く重い。これに蹴りまで交えてくるので訓練としては申し分ない。
それにしても、これを凌げるだけの強化を今でも維持できるようになるなんて。
以前なら数秒で強化は切れていたし、その後の疲労も酷かった。しかし、今ならば数分は強化を維持できるだろう。
自分でも驚きの進歩だ。もちろん、集中が途切れればそれまでだが、それを切らさないための訓練だ。
「どりゃあっ!」
しかし、これはいつまで続くのだろうか。
「おーい」
「オラオラオラオラ!」
「ウルさん、そろそろ」
「ほわたぁっ!」
ダメだ。全然聞いてない。
この戦闘民族は熱くなると声が届かなくなる。しかも、今のところ全部防がれているのでムキになっている節がある。
仕方ない、関節でも決めて動きを止めるか。
暴走したら強制終了が妥当だろう。
「ていっ、やぁ!」
奇を衒ったウルシのジャンピングハイキック。これが側頭部に当たれば強化していても無事では済まないだろう。
こいつ殺す気かよ……。
当然、そんな隙の大きい技を食らうはずがなく、しゃがみ込むことで難なく回避。
だが、そこにはとんでもない罠が仕掛けられていた。
「ぶっ!?」
「そこぉ!」
硬直した瞬間を逃さず、着地したウルシは踊るような動きでしゃがんだ俺の身体を蹴りあげる。
回避どころか防御もできなかった俺の身体は庭の端へと放物線を描いて飛んで行った。
「あれ?」
一転して簡単に攻撃が決まってしまったことにウルシが向こうで首を傾げているが、ヨハンは何が起こったのかわかっているようで苦笑いしながら駆け寄ってきた。
「大丈夫かい?」
「う、受け身だけはなんとか……」
身体強化のおかげか、蹴られた部分に痛みは感じるが動けないほどではない。ヨハンの解放を受けながら立ち上がるころにはウルシも近づいてきていた。
「もろに入ったけど平気?」
「大丈夫だ。ガードしなかった俺が悪いんだ、気にすんな」
「うん、ありがと。久しぶりに動けて楽しかったよ」
そう言って笑みを浮かべた後、ウルシの表情は一転して怪訝なものへと変わる。
「でも、なんで最後は動きを止めちゃったの? 怪我でもしてたの?」
……どうしよう。そんな心配な目で見られると余計に言い難い。
とりあえず、謝るべきか。
見つめられるとどんどん罪悪感が湧いてくるんですけど。
「レイド。ここは謝ろう」
「……やっぱり俺が悪くなるのか?」
「悪いかどうかじゃない。男はそうするしかないんだ」
そうか。やはりそういうものなのか。
男同士の会話に置いて行かれぽかんとしているウルシに改めて向き合う。
するのは当然土下座だ。
なんか、ウルシには土下座してばっかりだな……。
「なに? なんの話? さっきのはレイドは悪くないよ。どっちかっていうと熱が入りすぎた私の方が悪かったでしょ?」
「いや、そうじゃなくて。しいて悪かった点を挙げるなら、恰好が」
「恰好?」
未だに何が起こったのかわからないようだ。ワンピースを見下ろして首を傾げている。
……そう。そんな服で激しい運動をさせるべきじゃあなかった。
俺もヨハンも事前に止めるべきだったのだ。
「パンツ見てごめんなさい」
謝罪を耳にしたウルシはスカートを押さえ、顔を真っ赤にして俯いた。




