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11.人為的遭遇

久しぶりの投稿です

余裕が欲しい・・・


 犯罪奴隷になったものの、俺は楽観的だった。


 牢に拘留されていたときや奴隷商に連れていかれていたときは、自分の未来に悲観していたが、現状については捕まったって奴隷にされたこと以外に不満はなかった。

 というのも、まわりが俺が捕まった経緯を知っていて普通の犯罪奴隷に対するような扱いをしなかったからだ。


 それは素直に嬉しかった。けれど、そのせいで犯罪奴隷とはこんなものなのかと甘く見てしまったのは俺の落ち度だ。実際の世間の目と言うのはそれほど優しくはないというのに。


 だから、通りを歩いていて向けられた視線はとても苦しかった。

 他人に嫌われたくないという固執はないが、率先して嫌われたいという人間はいない。口では何と言おうとも好かれたいのが人間だ。

 多くの負の感情を向けられて嬉しいはずがない。


 そして、とどめが一番きつかった。

 助けた相手に、好意的だった少女に一転して怖がられるというのは流石に堪えた。


「一体いつまで落ち込んでいるつもりなのだ、貴様は」


「そりゃあ、へこむだろ。……現実を舐めてた俺が悪いんだけどさ」


「多少白い目で見られたくらいで……思いのほかメンタルが弱いのだな」


「いやいや、健康的な男子としては女の子に拒否られるのって傷つくんだぜ? ……ああ、思い出したら軽く死にたくなってきた」


「それは困るぞ。我は貴様との試合を楽しみにしておるのだぞ」


「いや、本当に死にはしないけど……って」


 振り向くと俺の隣には厳つい竜顔があった。食われそうなくらい近くに。

 俺じゃなかったら悲鳴を上げていたくらい迫力がある。どこぞの遊園地のアトラクションに紛れていても違和感がなさそうなレベルだ。


「なんでお前がここにいんの!?」


「そこからか?」


 なぜか隣にいたディーはやれやれと首を振り、肩をすくめ、深いため息を吐く。その大仰すぎる仕草は俺のイラつきを誘っているのだろうか?

 試合前にちょっと殴りたくなった。


「あの赤髪が、離れるからお前を見ていてほしいと頼んでいたではないか」


「うん? そういえば、ヨハンとあの子がいない?」


 二人の姿は影も形もない。場所もさっきまで大通りの真ん中に立っていたはずなのに、いつの間にか路地裏に座り込んでいた。

 どうやら俺は置いてきぼりを食らったようだ。


「お主、余程ショックだったのだな。……全く覚えていないのか?」


 言われて慌てて記憶を掘り起こす。

 えーっと、冒険者の女の子を新人狩りっぽいやつらから助けて、それで女の子に怖がられて……それから。


 そう、女の子は謝ってくれた。

 助けてくれて、知り合いを紹介してくれる恩人に咄嗟のこととはいえ怖がってしまったことに頭を下げてくれた。俺もそれを素直に受け入れた、はず。

 ここら辺から記憶が怪しい。


 呆然としながらも、知り合い宛に紹介状を数枚書いて渡した。紹介状と言っても、そんな形式ばったやつじゃなくて手紙みたいなものだけど。取りあえず、面倒を見てくれそうなやつに向けて書いて渡した。借りがある連中を選んだはずだし、あれを見せれば誰かは面倒を見てくれるだろう。


 それにしてもよく手紙なんてかけたな。ショックで呆然とし過ぎて、ギルドまで連れていくのが躊躇われるくらいになっていた。

 ろくな返事をしない俺を見て、これは連れて歩くのは難しいなとヨハンが困っていたのは何となく覚えている。


 狙われている女の子を一人で冒険者ギルドまで行かせるわけにはいかない。かと言って、犯罪奴隷である俺を放置していくこともできない。


「お前らが通りで立ち往生しているところを我が通り掛かったというわけだ。お主は犯罪奴隷である故に一人にするわけにはいかんからと頼まれたのだ」


 偶然通りかかったディーに俺の面倒を任せて、ヨハンはあの子に冒険者ギルドまでついていったのだろう。


「よくそのやり取りが成立したなぁ」


 ディーは俺たちの対戦相手であり、つまりは敵の貴族の回し者だ。ヨハンがそんな相手に頼みごとをしたのも驚きだが、ディーが引き受けたのも謎だ。


「立場上は敵同士だが、害意の有無は別だそうだ。実際、我の仕事は闘技場でお主と戦うことであって、他の仕事は頼まれておらんからな。知らぬ相手ではないし、またお主とは話してみたいと思っておったのだ。故に引き受けた」


「そうか、ありがとな」


「礼には及ばん。善意ではなく打算だ」


 真意はともかく、それで助けられたのなら礼は必要だと思う。

 そっけない言い方だったが、もしかして照れていたりするのだろうか?

 竜顔だからわからん。


「そういえば、ディーもなんか用事があったんじゃないのか? 今更だけど足止めしちゃって大丈夫か?」


 懸念が頭をよぎったが、ディーが首を横に振ったことでその不安は払拭される。


「気にするな、ただの散歩だ。いや、この場合は散歩ではなく観光か」


「観光? その言い方だと王都に来たのは最近か?」


「十日くらいだな。……そういえば、のんびりとこの街を歩くのは今日が初めてだな」


「立て込んでたのか?」


「ああ。王都に来てからずっと闘技場で戦っておったからな。お主との試合が決まり、試合までの一週間は調整のために他の試合はキャンセルになった。暇になったのでどうせなら街を見て回ることにしたのだ」


「あ、さいですか」


 華の都まで来て観光もせずにやることが闘技場で殴り合いとか、流石はバトルジャンキーである。

 何やってんだよ、ほんと。せっかく王都まで来てずっと闘技場に籠ってるなんて。


 ……まあ、王都に来てからひと月くらい経ってからようやく観光していた俺も人のことは言えんが。

 あの時は金欠で、ひたすら魔物と戦ってたので本当にディーのことは言えない。


「てかさ、なんでそんなに戦いたいわけ?」


「当然、我が闘争を求めているからだ。竜人とはそういう種族だ」


「竜人が戦闘民族なのは否定しないけどさ、俺が聞きたいのはディーが奴隷になってまで戦いにこだわっている理由だよ。普通に戦うだけなら、そこら辺の魔物を相手にしてればいいだけだ。竜人は高潔だから理由もなしに進んで奴隷になろうなんて考えないだろうし、戦いに関しても誇りを持ってるやつらだ。その辺どうなのよ?」


「……お主、やけに詳しいな。竜人に知り合いでもいるのか?」


「まあね」


 昔、世話になった冒険者の先輩が竜人だったのだ。

 その時に竜人という種族について色々教えてもらった。

 その人も戦闘狂ではあったが、同時に矜持の高い戦士でもあった。今でも戦場を駆ける勇ましい姿が目に焼き付いている。そんな竜人の姿を知っているため、奴隷に甘んじている竜人というのは俺の中ではどうしても違和感を覚えてしまうのだ。


「竜人ってなんかこう、誰にも縛られず自由に戦場を舞ってるっていうイメージがあるんだよ」


「間違ってはおらんが……それは個人によるというだけの話だ。お主の知り合いは、広大な戦場で魔物と踊るのが趣味のようだが、我も求めているかは別だ」


 それもそうか。

 俺が知っている竜人はディーを除けばあの人だけだし、聞いた竜人の話もあの人の目線からのものだ。一人の竜人を知っているだけで、竜人という種族のすべてを語れるはずがない。


「我が奴隷になったのはあの闘技場に出場するのに一番手っ取り早かったからに過ぎん」


「闘技場に?」


「武芸者と一対一で腕を競うならあそこが一番だからな」


「――――」


 ディーが心なしか弾んだ声で語った理由に俺は言葉を失くした。


 本格的にやべぇ、こいつ!


 本来、闘技場に参加するなら奴隷になる必要はなく、出場料を払えば誰でも参加することができる。だが、それは表の闘技場であり命の危険がほとんどないスポーツの試合だ。

 彼が固執している戦いとは、命を懸けた殺し合い。

 一対一の命のやり取りが行える地下闘技場はまさに彼の望む環境そのもの。


 そして、喫緊の問題としてこの馬鹿野郎と次に戦うのが俺であるということだ。

 殺し合いを楽しみにしているやつとの試合なんて本当に勘弁してほしい。


「互いに命を懸けて武と武を競い合う。全力を尽くし、満身創痍となり、限界を超えて相手を凌駕する。皮膚が裂け、血が滴り、筋肉は断ち切れ、骨は砕け、意識も朦朧とした状態でもなお燃え尽きぬ闘志で拳を振るい得る勝利! 想像しただけで高ぶりを抑えられん! 死闘の先にある甘露を味わいたいという気持ちはわかるだろう!?」


「わかりません」


 貴方がやばい人なのはわかったけど。


「まじかー。俺こんな頭のネジが外れてる人と戦わないといけないのかー」


 この人に合わせて戦ったら間違いなく俺の命はない。

 うん、強力な武器を揃えてごり押しの戦い方には引け目を感じてたけど、そんなものはどこかに吹っ飛んでった。魔剣という超級装備で一気にけりをつけてやろう。そうしよう。


「ところで」


 俺と熱弁を振るっていた状態から一転して押し黙ったディーは揃って路地の奥へと目を向ける。すると、先ほどまではこちらの様子を窺うためか潜めていた敵意が膨れ上がる。


「俺たちになにか用かな?」


ちまちま上げられると思います・・・・・・たぶん

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