2章 〜過去の記憶1〜
マイヤちゃんみーつけた!」
「あーあ。見つかっちゃった。カインって人を見つけるの上手だよね」
マイヤと呼ばれた少女はまだ幼く、5,6歳程度だった。カインと呼ばれた男の子もまた、マイヤと同じくらいの年頃だった。
「あと見つかっていないのはだれ?」
「んーとね、えーっと・・・ロンと、シュトと、ランと・・・・・・ハル兄!」
「またハルのこってんの!?ハルってかくれんぼのときがいちばんすごいよね」
彼らが遊んでいるのは、広い敷地の中。近くには、建物が建っていた。そこには、『アルアット孤児院』と書かれていた。
彼らは、この孤児院に住んでいる、孤児達だった。皆がさびしくないように、いつも一緒に遊んでいるのだ。
「じゃ、ハル兄探してくるね」
「うん、頑張って見つけてねー」
マイヤは見つかってしまったので、見つかった人がいる場所に移動した。少しすると、ロンとランが来た。
「うーん、見つかっちゃったよ」
「後はシュト兄ちゃんとハル兄ちゃんだけだね」
「2人とも隠れるの上手だからなぁ」
見つかった2人と会話をしていると、シュトがこちらに向かってきた。
「くそ、ハルより先に見つかっちまった」
「あははー。シュト兄の負けだー」
「つ、次は俺が勝つ!!」
と、豪語しているが、本当は半年前から言っていて、一度も達成されたことは無かった。
「後はハル兄だけだね」
「ハル兄って隠れるの本当に上手だよね」
「影が薄いんだよ。だから、物置の隅とか箱の中とかに隠れて、余計見つからなくなるんだ」
そんな会話をしばらく続けていると、カインが戻ってきた。
「みつからないよ〜」
「うーん。大体は探したんだよね」
「うん。でも、いなかったんだ」
「そっか。じゃあ、皆でハルを探そう!」
20分ほどかくれんぼに参加していた全員で探したが、やはり見つからなかった。
「みんな〜ご飯だよ〜」
台所の奥から威勢のいい声が聞こえてくる。そこには40代くらいの活気に溢れている女性がいた。
「あ、マラーおばさん。もうご飯?早いなぁ」
「あ、そうだ!ねえマラーさん、ハル兄ちゃん見なかった?」
「ハル?うーん・・・・・・みてないわよ。でも、どうして?」
「あのね、皆でかくれんぼしてたんだけど、ハル兄ちゃんだけ見つかってないの」
「またかい。まったく、小さい子相手に何やってるんだか」
「まったくだ」
「お前が言うんじゃないよ、シュト」
マラーがシュトを叩く。シュトは叩かれた部分をさすっていた。
「あなたたちは先にご飯食べちゃいなさい。私が見つけておくから」
わーい、と声を上げながらマイヤたちは台所に向かっていった。しかし、1人の少年が残っていた。
「おや、どうしだんだい?カイン。お前はご飯はいらないのかい?」
「僕ね、このかくれんぼの鬼だから、ハル兄を探さなくちゃいけないの」
カインのその1言に、マラーは微笑みながら、
「そうなの。じゃあ、一緒に探そうか」
と、優しく答える。カインは元気よく首を縦に振り、マラーの後をついていった。
「ハル!いい加減に出てきなさい!!」
「ハル兄ー。ご飯なくなっちゃうよー!」
2人は声を上げて探しているのだが、見つからなかった。居眠りでもしているのだろうか?
注意しながら、2人はもう一度同じコースを回ってみる。閂が閉まっている蔵を通り過ぎようとしたときだった。
ドタン!バタン!バンバン!!
蔵の中から音がした。確かに閂は閉まっている。泥棒でも入ったのだろうか。
「お、おばちゃん、この中に何かいるよ?」
カインは怖がりながら普段より小さな声で言う。マラーは覚悟を決めて閂を外して扉を開けることにした。
手に閂を持ったまま、扉を開けてみる。中にいた誰かに思い切り閂で叩こうとしていたら、その人が突如声を発した。
「あ、マラーさん。閂開けてくれてありが――――うわぁ!!それ、おろしてください!危ないですから!!」
「あら、ハルだったの。でも、何で閂が閉まっている蔵の中からあなたが出てきたの?」
「ああ、それはですね。この蔵の中に隠れようとして入ったら、自然に閂が閉じてしまってですね。出られなくなったというだけですよ」
カインとマラーはただ呆然としてハルの言い訳を聞いていた。
「・・・・・・なるほどねぇ。もう蔵に隠れるのは無しだからね」
「はい・・・・・・。ところで、今日のご飯はなんですか?おなか空いちゃってるんですよ」
「あなたは皆を心配させたのと大人気ない行動をしたから今日のご飯は抜き!!じゃあカイン、皆のところに言ってご飯食べようか」
「はーい」
「そ、そんな・・・・・・ご飯抜きだなんて・・・・・・」
ハルはご飯抜き宣言をされて、ショックを受けていた。
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――――――――――数ヵ月後。
「それでは、彼のことをよろしくお願いします」
「はい。私達が責任を持ってきちんと彼を育てます」
なんと、ハルと一緒に住みたい、養子に引き取りたいという夫婦が現れたのだ。
「はる、あの人たちと幸せに暮らすんだよ」
「ハル兄、また遊びに戻ってきてね」
「ハル!勝ち逃げなんて許さねーからな!!」
「うん。皆もマラーさんを困らせちゃ駄目だよ」
別れの挨拶を互いにする。中には、泣き出す子どももいた。
「ハル兄ちゃん!いっちゃやだ!!」
「そうだよ!!なんでいっちゃうの!?」
「ごめんよ。でも、僕も色々勉強をしたいんだ。この孤児院をもっと良い物にするために。きっと遊びに帰ってくるから、それまで我慢できる?」
ハルは泣いている子達を優しく説得する。
「うん、僕、がまんする」
「わたしも」
「では、そろそろ出発しましょう」
夫婦は乗って来た馬車に乗る。ハルもそれに向かって走っていく。
「皆!またね!!」
最後にそう一言告げて馬車に乗り込む。馬車が走り出し、あっという間に見えなくなってしまった。
「・・・・・・行っちゃったね」
「うん」
その場にしんみりした雰囲気が残る。それに負けずとマラーが大きな声を出した。
「さあ、今日は少し豪華な食事にしましょう!皆、手伝って!!」
「よっしゃ、俺、鶏の肉食べたい!」
「良いわよ。じゃあ、カインとランは私の買出しを手伝って頂戴。マイヤとシュトは残った子達をお願いね」
「「「「了解!!」」」」
4人が息がぴったりの返事をして、各分担に分かれる。マラーは買出しに行き、マイヤたちは園で遊んでいた。
「じゃあ、追いかけっこやろう!あたしが鬼やるね。数かぞえるよー!」
マイヤの一言で皆が一斉に散らばっていく。
この孤児院の運命は、少しずつ不幸の道をたどっていっていた。
こんにちは、闇桜です。
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今回はマイヤの過去編です。突然話が変わっていますが、気にしないでください。そのうち分かりますから(多分)
では、また次回お会いしましょう!