2章 〜もう一つの対決〜
最後の衝突で洞窟は完全に崩壊し、砂埃が舞う。そして、その中には、1つの人影しかなかった。
砂埃が切れる。そこに立っていたのは、ディルだった。マイヤは今まで立っていた場所に倒れていた。激しい気の消耗で気を失ったらしい。
そのことを確認したカイはゆっくりと立ち上がった。
「・・・・・・俺には攻撃しないんじゃなかったのか?」
カイがディルに尋ねる。ディルは持っている剣の切先をカイに向けていた。
「カイさん、やはり貴方は放って置くのは危険すぎる人物なのです。僕達の計画に支障をきたす可能性が高いですからね」
「シオンとの関係は無い、とさっきは言っていたが?」
「関係の無い人たちに聞かれるとまずいでしょう?僕にとっても、貴方にとっても、ね」
ディルの言葉にカイは黙って答えた。それは、否定ではなく肯定の沈黙だった。
「僕はシオン様に忠誠を誓っています。彼は、僕の命の恩人なんです。なので、一度消えたこの僕の生涯を彼に捧げることに決めました」
「・・・・・・なるほど。で、俺はお前達の計画の邪魔になるから排除される、ということか」
「そうなりますね。では、消えてください。この世から」
「それは困る。俺はまだ奴とけりをつけていないのでな」
カイとディルは向かい合う。
「火の神ラガよ、彼の者に恐怖の爆発を、エクスプロージョン!」
「極限式【三】」
カイの右手に魔力、左手に気が集まり。カイが両手を合わせると、その2つが混ざり合う。
それより少し後に、ディルの作った大爆発にカイは巻き込まれた。
「・・・・・・剛鉄の術」
通常なら全てが消し飛ぶ大爆発の中で、カイは無傷だった。
「極限式ですか。厄介な物を使いますね」
―――――極限式。魔力と気を融合させることによって爆発的な力を得る肉体強化術。肉体の強化だけでなく、各属性の魔法への耐性や魔法、気技等の威力上昇もできるという半ば反則的な物。しかし、自らが気と魔力の両方を使えるのが最低条件となる。それにより、使える者の数も圧倒的に少ないのだ。さらに、身体全体に限界を超える負担をかけるため、使うタイミングを間違えると大変なことになる。また、この能力には五段階あるが、段階が進むほど身体への負担がどんどん大きくなる。リスクが高いが、そのリスクに値する力が手に入るという、変わった術だ。
「ならば、その上を行く攻撃をするまでです」
「できるのか?お前ごときに」
ディルは剣を鞘に収めて杖を取り出した。長さは彼の背より少し小さいくらいの杖で、それに魔力が集まるのが分かった。
どうやら魔力を高める効果がある杖らしい。
「火の神ラガよ、彼の者に怒れる炎と恐怖の爆発を。風の神クロムよ、彼の者に嘆きの風を」
火・爆発・風の最大級魔法が発動する準備にはいる。
「プロミネンス!!エクスプロージョン!!エアクラッシュ!!」
3種類の最大魔法が同時に成功する。その力の強さは、マイヤとの戦いのときとは比べ物にならないほどの大きさだった。
「『出』暁」
マイヤのときのように空間に穴が開き、その中から鞘に収まった暁が出現する。
「・・・・・・絶技」
「これで、消えてください」
「百億の剣」
カイが技の名前を呟くと、狂気の舞や夢幻桜華よりも圧倒的に多い数の剣気が出現する。ほぼ同時に、ディルの魔法がカイを消滅させようと飛んでいく。もし、そのまま何も無ければカイに衝突し、消え去っていたかもしれない。しかし、その攻撃は出現した無数の剣気によって妨げられていた。
「・・・・・・斬滅」
剣気が全ての魔法に打ち勝つ。ディルが発動した最大魔法はいとも簡単に切り刻まれて無くなってしまった。
「何故・・・・・・最大魔法3つが、こんなに早く打ち破られるだと・・・・・・?」
「それが力の差、今の己の限界というものだ」
打ち勝った残りの剣気が一斉にディルを襲う。急所は外れたが、切られた場所からの出血がひどく、放っておいても出血死するだろう。
「俺の目的はシオンだけだ。お前なんか最初から眼中に無い。『収』暁・紅龍・虎蒼」
カイは3本の刀を穴の中にしまって、マイヤを背負った。
「じゃあな。飛翔の術」
最後にディルに一言いってから、カイはこの場所を離れ、町へと飛び去った。
カイが飛び去ってから少し後、1人の人間がディルの前に立っていた。その人はディルに手を向けたかと思うと、小声で何かを呟いた。
すると、ディルの身体が光に包まれ、数瞬後、ディルの身体の傷はまったく無く、健康そのものになっていた。
「う・・・あなたは・・・そうですか。あなたが助けてくれたんですね。ありがとうございます」
ディルは立ち上がり、その人に向かい合う。
「僕は今日起こったことを全てシオン様に報告します。あなたはこれからどうするのですか?」
「・・・・・・私もあの男・・・・・・カイだっけ?と、戦ってみる」
「そうですか。でも、気をつけてくださいよ。彼は魔法と気術の両方を使えます。なので、極限式が使えます。僕に使ったのは【三】でしたが」
声の色と1人称が私なので、おそらく女だろう人は、黙って聞いていた。
「まあ、心配はありませんよね。“封魔のルナ”さん。頑張ってきてくださいね。では」
急にあたりに黒い風のようなものが吹き始める。そしてそれは、ディルとルナと呼ばれた女性を別々に包んだ。
黒い風が消え去った後、そこに2人の姿は無かった。
こんにちは、闇桜です。
えー、カイの圧倒的な強さで勝利してしまいました。こんなの反則だ、とお思いかも知れませんが、ご了承ください。
では、また次回お会いしましょう!