2章 〜脱出する者と残る者〜
男の姿はローブに隠れてて見えないが、どう見ても力技で攻めるタイプではないだろう。おそらく魔道士だ。
「久しぶりですね。カイさん、マイヤさん」
その表情は隠れていて見えないが、声の調子からして、この状況を楽しんでいるようだ。
「久しぶりだって・・・?気安くそんな言葉使うな!大十文字斬!!」
十字の衝撃波が飛んでいく。しかし、すでに男はその場所にいなかった。
「後ろですよ。これで貴女は一度死にましたね。・・・・・・彼がいなければ」
男はクスクスと笑って話す。その後ろには、カイが拳をつきたてていた。
「お前はシオンとの繋がりはあるか?」
「そのかた、何方ですか?おや、見かけない方がいますね。はじめまして、お嬢さん。僕はディルといいます」
ディルと名乗った男はレイナに挨拶をする。しかし、レイナは今までの雰囲気と会話の流れからディルを敵と判断した。
「つれないですね。もう少し仲良くできないんですか?あなたたちは」
「お前なんかと仲良くできるはずがない。お前が…お前があたしの大切なものを奪っていったんだ!今、ここから消えろ!!」
マイヤは怒りと憎しみの負の感情に任せて攻撃をする。しかし、その攻撃は隙だらけで簡単に避けられてしまい、全く当たる様子が無かった。
「おやおや、もう息が乱れてきてますよ。どうしたんですか?」
ディルがマイヤを挑発する。マイヤは怒りでそれが挑発とも分からずに、攻撃を続ける。
「黙れ!あたしはお前なんかに負けるわけにはいかないんだ!」
マイヤが攻撃を続けようとする。その前にカイがマイヤの額に力を加減した手刀をおろした。
「何するのさ、カイ兄。そこどいてよ!」
マイヤがカイを怒鳴り散らす。その様子を見かねて、もう一度手刀を繰り出した。
「何するのさ、じゃない。お前は馬鹿か?少し落ち着いて考えてみろ。また悪い癖がでている。ほぼ1パターンでしか攻撃していないぞ。
どうやら本格的にあの修行に戻りたいようだな」
マイヤの顔が青ざめていく。それほどまでにつらい修行だったのだろうか。
「本来の目的は達成したから、一度退くぞ。いいな?早くしろ」
「やだ」
マイヤはこの場を退くことを拒否した。
「お前1人のために全員を死なすわけにはいかない。」
「でも!・・・でも、ここであいつを逃したら二度と会えないかもしれない」
「でも、じゃない。ならば、お前1人で残れ。それだったら許す。俺は町人達を町に送り届けるからな」
短い沈黙の後、マイヤが答える。
「わかった。あたしだけ残るよ。カイ兄たちは先に行ってて。後から必ず追いつくから」
「そんな!1人じゃ無理ですよ!」
レイナが心配そうに言う。しかし、それはカイの一言によって軽く返された。
「少なくともマイヤはお前よりはるかに強い。それに、お前はマイヤの約束を信じることができないのか?」
レイナは黙り込んでしまう。その様子を見て、マイヤは優しく言った。
「あたしは約束は守るよ。だから、レイナちゃんはカイ兄と一緒に町人たちを町に送ってあげて」
マイヤの一言に、レイナは仲間を信じきることを決意した。
「皆さん、ここは危険です。早急にここを離れます。ついてきてください!」
レイナが的確に指示を出していく。町人たちは走って出口へと進んでいった。
やがて、カイとレイナの姿も闇にまぎれて見えなくなった。そこに残っているのは、マイヤとディルだけだった。
「さて、もうよろしいですか?貴女も仲間との最後のお別れを済ましたようですし」
ディルはさぞ自分が勝つのが当たり前というような口調でマイヤに言う。
「あたしはもう負けないよ。カイ兄たちに必ず戻るって約束したもん」
「……そうだな。お前は約束を破るような奴じゃないはずだからな」
岩陰から声がした。2人とも驚いて岩陰を見つめる。
「ん?俺がここにいるのはおかしいと思ったのか?」
そこには、先程レイナと町人と一緒に脱出したはずのカイの姿があった。
こんにちは、闇桜です。
レイナと脱出したはずのカイさんがそこにいました。何故でしょう?その理由は・・・・・・次回!
12月に入ってから1000アクセス突破しました!同時に連載1ヶ月です。
ここまで続いたのもたくさんの方が読んでくださったおかげです。ありがとうございます。そして、これからもこの小説をよろしくお願いします!